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美少女の正体は・1

「ビーシェ。バレてしまったようだわ」


「それはそうでしょうね。オキュワ帝国の属国といえど、第三王子殿下の元婚約者で有ったエリジア嬢は見識深く、淑女中の淑女としても名高いお方。一目で見抜く眼力が有ってもおかしくないでしょう」


 私と同じ歳くらいの女の子……令嬢? が、背後に声を掛ければ、先程聞こえた凛とした女性の声がそのように応える。エリジア様、オキュワ帝国でも有名なのですね!


「変わって下さい。……失礼しました。私はフレーティア王国の第一王女・クインティー様付きの護衛騎士でビアンシェ・アルシュナーと申します。失礼ながら、ノーディー王国のお方とお見受け致しますが」


 フレーティア王国!

 第一王女付きの騎士!

 えっ、ちょっと待って!

 もしかして先程のお方は……


 私は両親達家族やエリジア様達ご友人方やそのご家族様の顔をグルリと見回します。皆さま、顔色が悪過ぎですわ……


「左様にございます。わたくしは、ノーディー王国の」


 エリジア様が名乗ろうとした矢先、ビアンシェ様と名乗った騎士様が手を上げて止められました。


「クインティー様、お入りになって下さい。ああ、エリジア様、自己紹介はしなくて構いません。貴方様の名前は我が国にも耳に入っております」


 エリジア様! すごい! 凄いですわ! まさか、大国・フレーティア王国にまでお名前を響かせてしまわれるとは……!


「そ、そんなまさか」


 あら。珍しくエリジア様が頬を染めて焦っておられます。照れていらっしゃいますのね。


「いいえ。わたくしの耳に届いていますから間違いなくてよ。先程はごめんなさいね。わたくしがフレーティア王国第一王女、クインティー・フレーティアですわ。以後皆さま宜しくね」


 先程の美少女が改めて現れましたが、イタズラっ子のような表情を見せながらも、その凛とした雰囲気と気品は、さすが大国の第一王女殿下だと私は見惚れました。多分、私だけじゃなく、此処に居る皆が見惚れたのではないでしょうか。ハッとした表情になられたエリジア様が、自己紹介をすれば、全員が名乗っていきます。クインティー殿下はコクリと頷くだけですがその頷きすら、気品溢れておられますわ。


「ところで。バントレー伯爵家と仰ったわね? では、キリルと親戚の家は貴方方の家で合っているかしら?」


 クインティー殿下が首を傾げて尋ねられ、私もお父様もお母様もお兄様もディールもコクコクと首を上下に振りました。


「まぁ良かったわ。キリルはわたくしに着いてオキュワ帝国まで来ていますの。会って下さらない?」


「あ、会えますか?」


 私ったら、ついうっかりクインティー殿下に砕けた物言いをしてしまいました。不敬だ、と叱責を受けてもおかしくないです。


「ええ、もちろんよ。後で会う機会を作りますわ。でも今は先に皆さまにお伝えしたい事が有りますのよ」


 クインティー殿下直々の、伝えたい事とやらがなんだか嫌な予感がするのですが、気のせいでしょうか……?


「その……ええと、失礼ながらクインティー殿下にお伺い致したいのですが」


「ああ、エリジア様、そんなに堅苦しくしなくていいわ。エリジアさんって呼んでも?」


「もちろんでございます、クインティー殿下」


 エリジア様が皆を代表してなんて言えばいいか、と頭を悩ませながらクインティー殿下に声をかけていらっしゃるわ。正直、帝国の属国ですからね、大国の第一王女殿下に声を掛けるなど恐れ多い事ですもんね。エリジア様、頑張って下さい。


「皆さまも楽にして構わなくてよ」


 クインティー殿下の声がけに、私達は安堵します。気さくそうで安心。だって、言うなればクインティー殿下と私達の立場って、我が国の国王陛下と男爵位……いえ、平民くらいの身分差が有るようなものですからね。私程度がクインティー殿下に、気軽にお声をかけてもらえるなんて神様から声をかけられているようなものです。


「エリジアさんが尋ねたいのは、わたくしが言った伝えたい事でしょう?」


「は、はい」


「きっと、エリジアさんが一番可能性が高いのよ。次に可能性が高いのはレミーナさんね」


「わたくしとレミーナさんが、可能性が高い、とは……」


 クインティー殿下のものの言いように、なんだか嫌な予感が止まらないんですが。エリジア様とレミーナ様の顔色も悪くなっているところを見れば、同じく嫌な予感がしている、といったところでしょうか。


「回りくどい言い方をして、あなた方に警戒されるのも嫌だから、ハッキリ言わせてもらうわね」


 ……ええと。クインティー殿下って見た目の気品溢れて愛らしい大国の第一王女殿下を裏切って、なんだか随分とサッパリした気質のお方なのでしょうか。回りくどいとか、王女殿下の口から出てくる言い回しだとは思いませんでした。

 そんな事を私は思いつつ、クインティー殿下をジッと見詰めます。


「端的に言わせてもらえば、あなた方に側妃の話を通しておくわ」


 この瞬間、室内が凍りました。

 いえ、空気が凍った感覚というだけで、本当に凍ったわけでは無いのですが。

 ……というか。

 今、物凄い言葉が聞こえた気がしましたが、嘘ですよね? 冗談ですよね? 幻聴ですよね???


「あら? なんだか空気が凍ったわ」


「クインティー様。結論だけを言うからこうなるのです。きちんとその結論に至る過程を説明して、その上でこういった事になるだろうけれど、受け入れるか断るか任せます、とまで話して下さい。ノーディー王国の皆さまが哀れですよ」


 キョトンとした顔で首を傾げる姿が愛らしいクインティー殿下。うっかり見惚れた私ですが、騎士服姿の、アルシュナー様が溜め息と共に忠告されているのを見て、我に返りました。


「あ、そうね。そういえば、ノーディー王国の皆さんは何も知らないのよね」


「その通りです。僭越ながら皆さま、もし宜しければ、私の方から皆さまにクインティー様の発言の説明をさせて頂いても?」


 アルシュナー様が、私達一人一人に視線を合わせるようにゆっくりと言葉を紡いで下さったので、私達も了承の意図を持って頷きました。


「それでは」


 アルシュナー様が口を緩やかに開きます。


「まず、私の事はビアンシェとお呼び頂いて構いません。父の爵位は侯爵位。さて、皆さまもご存知の通り、私が護衛としてお仕えするクインティー様はオキュワ帝国の第二皇子殿下の婚約者として、また第二皇子妃として我等が祖国であるフレーティアから輿入れされました。婚姻の式はまだ先ですが、これは両国の皇帝陛下並びに国王陛下の決定である以上、覆りませんし、誰にも覆せません。ここまではご理解頂けますか」


 ビアンシェ様の説明の始まりに皆が頷きます。


「クインティー様は十五歳という年齢にて遠いフレーティアから輿入れされたのですが。十二も年上の第二皇子殿下は、クインティー様のお覚悟をご理解頂けていなかったようで。私共の調べでは、クインティー様が帝国入りをする前に皇帝陛下にも皇太女にも第一皇子殿下にも無断で側妃を探しておられました。無論、正妃となられるクインティー様にも何の相談もなく」


 えっ。ポルグウィウス第二皇子殿下って、そんな頭の悪い方なんですか? 属国とはいえ隣ですから、帝国の式典とか我が国の伯爵位以上の貴族達は赴いてますけど、お父様からそんな頭の悪い方って聞いた事が無いんですけど。

 いや、まさか。

 帝国と大国が手を取り合い、大陸の繁栄のために和平を結ぶ、という事でこの政略結婚が成立した、というのは、大陸中の国々が知っている話ですけど⁉︎

 ただの国同士の政略結婚とは訳が違う、いわば、この大陸中から注視されているとんでもないレベルの話ですけど⁉︎

 国家の威信もかけてあるでしょうけど、帝国と大国が手を取り合う事で、この大陸中にある国々から戦が無くなるのでは⁉︎ とも言われている、そんな大規模な婚姻ですけど⁉︎

 それなのに?

 それなのに、正妃が来る前に側妃を探し出すって、それってフレーティア王国を侮辱するようなもので、帝国と大国の戦争どころか大陸中での大規模な戦争になりかねないくらい、オソロシイ状況ですけど?


 まさか、そんなわけ、ないです、よね⁉︎


「ビーシェ、そんなハッキリと言わなくても。第二皇子殿下が側妃を探している、だけで良いのではないの?」


 クインティー様が、アッサリと肯定しちゃったぁあああああ!

 せ、戦争

 大陸中が荒れる

 国がいくつ消えていくのか……

 というか、私達は生きていられな……アレ?

 そういえば、クインティー様は、随分とアッサリしているし、なんだったらお怒りもなく、落ち着いていらっしゃる……?


「良いわけないでしょう! あの脳まで筋肉男は、私の大切なクインティー様を、侮辱しているんですよ⁉︎」


 あ、ビアンシェ様の方がお怒りだわ。でも、そうだよね。そういう事だよね、この話。


「でも、側妃を探していた件は謝ってくれたじゃない」


 ん?

 んん?

 んんん?

 謝ってくれた?


「確かに謝られましたが、それで許されると思っているのが抑々おかしい事を理解してもらいたいものです。クインティー様も謝られたからといって許す気が無いから、此方に足を運んで側妃の件をお話されたのでしょう」


「それはそうだけど、もう少し事情は隠しても良いのではないの?」


「そんな配慮、あんな男には要りません」


「そういうもの?」


「そういうものです」


 ぽ、ポルグウィウス第二皇子殿下……。側妃探しの件を謝られたのに、許されてませんよ! いや、確かにクインティー様のご心情を思えば簡単に許される事では無いとは思いますが。

 この話、これ以上、聞くのが怖い気がするのはなんででしょうね……。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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