皆様と帝国へ。そして再会は不穏な空気と共に。・3
抑、我が国を含め、どの国でも周辺国で血縁者というのは、親子兄弟祖父母孫まで、つまり直系3代を意味します。曾祖父母や伯父・伯母・叔父・叔母・従兄弟・従姉妹を含めた方々は自分と血の繋がりが有れば縁戚者。結婚相手と繋がりが有る場合は姻戚者と申します。(※作者注。あくまでもこの世界での話です)
ですからアルアーニャ様が“血縁者”で有りながら“養子縁組”というのは、不義の子なのです。そして彼女の場合、リオン様と“血縁者”では有りません。
アルアーニャ様は先代当主であったリオン様のお祖父様が老いらくの恋にてお手付きとなったメイドとの子です。尚、先代当主夫人とかなり揉めた事は余談でしょうか。ですので、現当主様とアルアーニャ様は本来なら“兄妹”ですが、親子とはいえ、先代当主と現当主では、リオン様のお父様の現当主の方が力関係は上。
ですので、現当主様はアルアーニャ様を異母妹として認める気は有りませんでした。綺麗にゼロでしたが。困ったことに、夫の浮気に激怒した先代当主夫人が、それでも子に罪は無い、と口添えしたこと。先代当主様が夫人と子では有るけれど現在のバルセア侯爵から、思いきり叱られて意気消沈してそのまま病に罹り、あっという間に亡くなられた事を背景に。
アルアーニャ様の年齢も踏まえて、仕方なく。本当に仕方なく、現当主様が養子縁組をされたのです。故にアルアーニャ様は戸籍上はリオン様の“姉”なのです。本当に複雑ですわ。尤もこの一件で凄いのは、先代当主夫人もですが、現当主夫人であるリオン様のお母様とリオン様も、ですわ。
アルアーニャ様の存在を疎まれることなく、受け入れたのですもの。
その事に恩を感じてはいらっしゃるようで、侯爵令嬢としての立ち居振る舞いや言葉遣い等に勉強も必死になっていたそうですが。それでも元々が先代当主様とメイドに甘やかされて育ったせいか、楽観的らしいのですわ。
……あら、何処かの侯爵家のエミリオとかって名前のお方みたいな方ですわね。
そこに思い至りましたら、アルアーニャ様が何かやらかした、と耳にしても納得ですわね。そうなりますと、実の姉ではなくとも“姉弟”であるリオン様のご苦労が何となく実感出来ますわ……。私は元婚約者でしたから縁を切ってしまえばそれまでですが。リオン様は養子縁組を解消しない限りは、姉と弟ですものね……。
大変ですわ。
「皆さま、ご事情はご理解頂けましたか、と思います」
私の言葉に皆さま頷いて下さいましたが。レミーナ様が思い詰めた顔で私を見ます。
「では、アルアーニャ様と呼ばれるお方の《《やらかし》》の内容をルイーザ様はご存知かしら?」
「いえ、そちらの内容は耳には届いておりません。レミーナ様はご存知なんでしょうか?」
「いいえ、わたくしも何も。ただ、側妃の話が出た、という事は。それも政略結婚でお輿入れのはずのフレーティア王国の第一王女殿下自らがそのお話をされた、という事は。相当のことなのか、と思いますの」
レミーナ様の仰る事はご尤もです。
「そういえば。ルイーザ様が第一王女殿下の歓迎パーティーをやり直し、と仰いましたわね?」
エリジア様が眉間に皺を寄せて仰います。
確かに、私はそう言いましたね。
えっ。
第一王女殿下の歓迎パーティーをやり直し。
第一王女殿下が側妃について話を通した。
この2点を並べると、非常に嫌な気持ちになりますのは、何故、でしょう。冷や汗がダラダラと背中を伝う気がします。
「歓迎パーティーやり直しと側妃の話が、例えば。やり直し前のパーティーで、第二皇子殿下の正妃は、第一王女殿下だと認めつつ。でも自分は側妃として第二皇子殿下から寵愛を受けている、なんて発言した令嬢が居た、とか……。そんな事はさすがに有りませんわよ、ね? それがよもや、その、アルアーニャ様とかいうバルセア侯爵家の令嬢、とか……そんな事は」
思考を深めるエリジア様は、さすが第三とはいえ、王子殿下とご結婚される事を前提として教育を受けられて来ただけは有ります。
……いえ、感心している場合では有りませんわね。
エリジア様の予想が当たっていたとしたら……いえ、かなりの確率で当たっている予感しか無いですが……拙いですわよ。
バルセア侯爵家……リオン様のご実家が窮地に立たされる、という事ですわ。
「アルアーニャ様は……エリジア様の予想を否定出来ないようなお方、ですわ……。という事は、バルセア侯爵家は窮地、かもしれない」
私はその予想が当たっているような気がして仕方ないです。
「た、ただの、予想ですもの。当たっているとは限らないですわ」
エリジア様の焦ったような取りなし。でも、おそらくそんな気がするのです。
「でも、エリジア様の予想が当たっているとしたならば……それなら、ルイーザ様がバルセア侯爵家に嫁がれるのは、寧ろ良いかもしれませんわね」
レミーナ様が思案深げな表情で何やら考え込んだ後に、そう仰いました。
ええと?
どういう事でしょう?
「ええと、どういう事、でしょうか?」
私はレミーナ様を見ます。
「あまり、こういう言い方は好ましくないとは思いますが。窮地に立たされている侯爵家の跡取りが、属国で婚約破棄された令嬢を妻に迎える、というのは……」
レミーナ様がそこまで仰って理解しました。
「成る程。私がリオン様と結婚するとしたならば、婚約破棄をされて傷心した私を妻にする事で美談が成立しますね」
何しろ、向こう有責の婚約破棄とはいえ、婚約破棄された令嬢というのは、外聞が悪いもの。そういった風潮が親世代の貴族達には浸透しています。ですので、そんな令嬢を迎え入れる家は少ない。今回のように集団で婚約破棄という有り得ない状況であるにも関わらず、それでも頑固な考えを持つ親世代です。高位貴族は割と婚約者が決まっているのが当たり前ですから、我が国の高位貴族家に、私達は嫁げない事は解っていましたので、子爵家や男爵家と縁を結ぶ状況だったわけですが。
おそらく、子爵家や男爵家でも婚約破棄された外聞の悪い傷物令嬢と縁を結ぶ気は無かった事でしょう。一生、親の脛を齧って生きるか、伴侶を亡くした高齢の引退した貴族に嫁ぐくらいしか、行く末は無かったでしょう。親が生きている間は脛を齧れても、長くは無理です。実質、高齢のお方の後妻くらいなもの。それとて、夫となられた方が亡くなれば、身一つで追い出される未来しか、見えない。
そういった事を考えれば、少々窮地に立たされたとはいえ、オキュワ帝国の侯爵家の跡取りと結婚する方が、私にとっては良縁。リオン様にその気が有るかどうかは解りませんが。
そして、リオン様にその気が有るならば、婚約破棄された傷物令嬢を妻に迎える事は、行き場の無い令嬢に手を差し伸べて、救い出したという美談が成立するので、窮地も脱出出来る事でしょう。また、仮に窮地に立っていたならば、リオン様と帝国貴族の良縁は難しいものになっていると思われますから、リオン様はもしかしたら妻を迎えられないかもしれない。そう考えると、私はちょうどいい結婚相手、です。
あら。
お互いに利益が有る婚約ですね。
まぁ、ここまで先走った考えをしておいて、そういう話にならなかったとしたならば、恥ですけどね。
でも、このように考えておく事は大切かもしれませんわね。
「まぁ、何はともあれ、帝国に行ってみないと解らない事だらけ、ですよね」
レミーナ様やエリジア様の予測等で色々考えてしまっていた私ですが。先走っても仕方ないので、一旦忘れる事にしました。
そんなわけで、この日から1ヶ月もしないうちに、私達は家族と共にオキュワ帝国へ足を踏み入れたのでした。
お読みいただきまして、ありがとうございました。
すっかり更新を忘れていてすみません。
他サイトでは完結したのでもう少し頻度をあげられるよう努めます。




