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帝国からの手紙・1

「お嬢様、帝国からお手紙が届いてますよ」


 エドが手紙を持って来ましたので、ペーパーナイフで封を開けてその場で読みます。あ、今日は天気が良いので、庭でお茶をしてますの。


「あらまぁ」


「お嬢様?」


 リラから声をかけられるほど、令嬢には有るまじき声ですが、仕方ないかもしれません。


「リオン様からのお手紙に、私が婚約破棄をされた事を書いたでしょう?」


「はい。そのように伺いましたね」


「それでね、ディバード第三王子殿下とエリジア様の婚約破棄やクリスティー様・レミーナ様・ソフィー様も婚約が破棄された事も書きましたのよ。もう社交界では流れていますしね」


 そう。もう私を含めてこの集団婚約破棄の一件は我が国の大スキャンダルとして社交界を席巻している。それも、我がバントレー家の報復……いえ、慰謝料その他の件も含めて。

 更には、エリジア様の家……アブスール公爵家が王家に激怒し、多額の慰謝料を請求している事も。側妃様はようやくご自分がディバード殿下を甘やかし過ぎた事に気づかれたとか。今更です。ちなみに、国王陛下のお怒りを受けて、側妃様は離縁されてご実家に戻されました。


 そもそも、側妃様を陛下が娶ったのは、政略的なもので、同じ政略結婚でも王妃様と婚約していた陛下は王妃様をとても大切にしていらっしゃいます。それでも側妃様を娶らねばならない政治的な事情が有ったので側妃に迎えたというのに、側妃様はその辺を理解せず、王妃様を立てる事が出来なかったお方でした。

それ故に仕方なく、側妃様の元にお渡りしていた陛下は側妃様が懐妊した時点でお渡りはせず、生まれた子は王妃様に育てさせようとしたものの、側妃様がどうしても自分で育てたい、というので(お渡りにならなかった後悔も有り)陛下は側妃様にお任せしました。お任せした結果が、今回のコレです。


 そんなわけで陛下に愛されてもいなかったのに愛されていた、と勘違いして王妃様を下に見ていた側妃様の日頃の態度といい、側妃様用の予算を超えるくらいのドレスやら装飾品やらにもお怒りが溜まっていて、今回のコレでもう我慢ならぬ、と側妃様を離縁されたのでした。ちなみに、政治的な絡みも側妃様と離縁しても何の問題も無いように解決しているようです。


 ご実家に戻される際、側妃様が買いまくった……もとい、求められたドレスや装飾品等は全て国王陛下に差押えられ、アブスール公爵家への慰謝料に割り当てるようです。という事まで噂になっているのですから怖い怖い。

 尚、ご実家に戻された側妃様は兄君である当主様から髪を首が見える程まで切られて、修道院に送られたとかなんとか。噂の凄さが身に染みます。


 えっ? 問題を起こしたディバード殿下ですか? なんでもエリジア様よりも可憐だとかって言ったどこぞの子爵家だか男爵家だかの養女と別れされられて(この方の養家はお取り潰しになって、養女も含め家族皆様行方不明になっておられます)、城の片隅にある代々、王族が問題を起こした時に入れられる塔に幽閉されたそうです。

 ディバード殿下の処遇については、王家からの発表ですの。

 お怒りのアブスール公爵家……つまり宰相様を宥めるための発表ですわね。だって宰相様ですもの。あの方が居なかったら国王陛下も王妃殿下も公務や執務に負担がかかってしまいますわ。


 と言った事も続報としてお手紙をリオン様に出しましたのですが。お返事が遅いな、と思いましたら、どうやら私の続報が届いた頃に返信しようと思っていらしたようで、続報の返信も共に認めるために遅くなったようでございました。


「それで何が書かれて有りました?」


 リラに促された私は、端的に返答しました。


「帝国で夜会を開くから婚約破棄されたご令嬢方を誘って帝国に来るといい、ですって」


「それはつまり」


 そう。帝国で新たな婚約者を探せば? というお誘いですわ。どうやら、さすがに私が婚約破棄されるとは思っていなかったようでございますが、ディバード殿下が婚約者でない令嬢と随分と親しい関係に有る事は、帝国の耳に入っていたようですの。多分、皇帝陛下のご意向を汲んだ耳目が報告をしていたのでしょう。そして婚約破棄が他国でも行われている事を鑑みるに、ディバード殿下がエリジア様に婚約破棄をするかもしれない、と予想は付けていたそうですわ。エリジア様の優秀さは帝国にも届いていたようですので、皇太女であらせられるパルジェニア様がご自分の側近にすることも視野に入れて、帝国の有力貴族との婚約話を考えていらっしゃるそうです。


 それで今回の夜会への参加について打診が有ったのね。


「婚約者探し、ですわね」


「やはりそういうことでございましたか」


「帝国は貴族家が多いですもの。ペリュペ第一皇子殿下も妃殿下がいらっしゃらないですし、ね」


「では?」


「大変有り難いことに、ソフィー様を通じてクリスティーナ様とレミリア様とも知己を得ました……いえ、友人と認めて頂きましたし、各家にお手紙をお出ししますから、届けるように手配して下さいな」


「かしこまりました。旦那様と奥様にお話は?」


「もちろんします。急ぎ、最高品質の紙と封筒をお願いしますわね。それと、ラベンダーの香水も」


「お手紙に?」


「ええ。ラベンダーならそんなに嫌いな方はいらっしゃいませんもの」


「かしこまりました」


 そんなわけで、私は急ぎ、各家へ自分が帝国の貴族家と関わりあること、今回の一件は帝国側は既に予見していたこと、それに伴い夜会のお誘いがあったことを認めて出しました。おそらく、ディバード殿下を通してエリジア様は帝国貴族どころか皇帝一族と知己を得ているだろうから、向こうにも連絡は有るだろうけれど、リオンからエリジア様を含めたお誘いが有ったのだから、もちろんエリジア様にも手紙は出した。


 同時に両親へリオンからの手紙について話をすれば、私のお父様は苦々しい、とばかりに顔を歪めたが、お母様は「まぁ」と声を上げて少女のような笑みを浮かべて「仕立て屋を!」と叫ぶ。私は(ですよね)とお母様の叫び声に頬を痙攣らせました。


 いえ、新しいドレスを仕立てる事はウキウキします。色を選び流行を取り入れたデザインを何種類も検討するのも楽しいのですが……。1着で良いのです。ついでのように新しいドレスを5着も6着も仕立てなくていいのです! 私は1人しかいません。公爵家のエリジア様なら分かりますが、伯爵家の私は1日に何度もドレスを着替える必要は無いです!


 公爵家の令嬢や令息ならば、日に何度も衣装を変えるのもある意味では仕事ですけど。着て頂いて気に入ってもらえたなら、それだけで仕立て屋は宣伝になりますからね! ですから仕事のようなものですよ! でも私はただの伯爵令嬢。私は日に何度も衣装を変える必要なんて無いですし、私が着ても宣伝にはならないですから! 着心地をどなたかにお話しして宣伝するような立場なんかに有りません!


「お母様。ドレスは1着あればそれで宜しいですわよ」


 暴走する前に釘を刺した私に、お母様は不機嫌な顔になりましたが。私の微笑みに文句を言っても仕方ない、と思ってくれたのか、渋々頷いてくれました。そんなこんなで時間が過ぎて行くうちに、ソフィー様始めとした皆様から返信が参りまして、皆様と共に帝国へ向かう事が決定しました。


「お父様、お母様、皆様と共に帝国へ向かう事になりましたわ」


「うむ。さすがにルイーザだけでなく何人もの令嬢が婚約破棄された事は、帝国側もご承知だろう。その上で帝国に招待されたとなれば、此方側に失態無しと判断されたわけだな」


 お父様が重々しく話しますが、お母様がニコニコと仰った。


「難しい事はさておき。帝国で婚約者を捕まえて、皆様と共に見返してやりましょうね」


 あ、ソウデスネ。私よりお母様が張り切っている時点でお父様が諦めた顔をしています。いくらお父様が次の婚約者探しはもう少し先、と考えていたとしても、張り切るお母様を止める事は出来ないのです。つまり、私の新しい婚約者が帝国の方、とこの時点で決定したのと同じです。


 まぁそうであるなら、後はバントレー家に利益を齎らしてくれるような良い家柄の方と婚約するしかない、と、私も割り切れます。どうか良い方と巡り合えますように。


「良い方と巡り会いたいですわね」


 ポツリと溢した私に、お母様が耳聡く拾われたようで。


「あら。ルイーザはリオン様と婚約するから大丈夫でしょう?」


「えっ?」


 お母様の発言に私は目が点になっていると思います。えっ。お母様、何を仰ってますの? 私がリオン様と婚約⁉︎ いつの間にそんな話になっていたのでしょうか⁉︎ と、焦ってお父様を見れば、物凄く嫌そうな顔をして、大きく溜め息を吐き出してから、話を始められました。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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