エミリオ様の借金騒動・3
「それで、その女性はエミリオ様の妻になるためには、私という存在が邪魔だと?」
「そう思ったみたいだけど。エミリオってアレだけど、ルイーザの事はきちんと大切にしていたからね」
ハテ? 私はエミリオ様に大切にされていたのでしょうか。首を傾げた私をお兄様は苦笑する。
「ルイーザの言いたい事は解るよ。エミリオの面倒を見ていただけのつもりなんだろうからね。というか尻拭いだよね。エミリオはああいう奴だから、ルイーザはエミリオに大切にされていた自覚は無かったと思う。でも、エミリオなりに大切にはしていたよ」
「ええと……具体的には?」
「ルイーザは贔屓目無しで可愛いからね。エミリオと共に茶会や夜会に出た事もあっただろう? 夜会では、エミリオを出し抜いてルイーザを欲しがる奴も居たんだよ。バントレーは伯爵位だけど、裕福だしドゥール侯爵家の財政を賄っていた事も目端の利く貴族は理解していた。だから、自分の息子を宛てがうつもりだった家も、まぁ」
「あらあら。確かに心当たりはございますわ」
「うん。そういう親の意を汲んだ令息達に気付いて、一応威嚇していたんだよ、エミリオなりに」
それは初耳です。……そういえば、参加した夜会によっては、ご自分の友人と話すよりも私の側に居る事が多い時もございましたね。もしやあれがそうでしたか。ちょっと気づきませんでした。反省します。
「エミリオ様なりに、私を気遣って下さっていたのですね」
「まぁそうだね。ただ、なんていうか。エミリオは流され易い」
「それは反論しようもないですね」
そう。婚約破棄の発端である理由のように、彼は自分の意思が弱い。まぁ強ければ流行だからと婚約破棄など言い出さないだろうけれど。
「典型的なダメ令息なんだよな。周りに流されて何が大切なのか見逃す。そして大切な物を失わないと、気付かない」
お兄様が大きく溜め息をつかれた。
「エミリオ様は……」
その後の言葉が続きません。いえ、思い浮かばないと言うべきでしょうか。
彼は、珍しく女性に言い寄られて鼻の下を伸ばしてしまったのでしょう。エミリオ様は容姿は整っているのですが、性格が残念な事は高位貴族には結構知られていますし、婚約者が私だということも結構知られています。私がバントレー家の娘だということも。だから、高位貴族のご令嬢方がエミリオ様に言い寄る事は有りません。尤も、高位貴族のご令嬢方は大抵婚約者が居るのですから、言い寄るわけがないのですが。
だから、余計に女性に言い寄られて頭がお花畑になってしまわれたのでしょう。……元から、なので、輪をかけてと言うべきでしょうかね。流行に乗ってみたいのと、女性に言い寄られて有頂天になったのと、その両方から、今回の婚約破棄騒動を引き起こしたのでしょうね。
つくづく、残念なお方です、エミリオ様。好きではなかったですが、そういう所が心配だと思うくらいには、私は絆されていたのですけどね。でも私の手を切ったのは、どんな理由があれ、エミリオ様ですから。もう私はエミリオ様から伸ばされてもその手は取りませんよ。
「まぁとにかく、エミリオの借金はそういう事で。私はその借金を返済してもらっただけだよ」
「そうですわね」
お兄様のお話を聞けば、やり過ぎなんてどこにも無かった、と結論付けました。まぁ借金は返済が当然ですし、返す目処も立たないのに借りるのは愚か者がやる事です。目先の事しか考えないで借りれば後々痛い目に遭うのも仕方ないこと。
「お兄様、お疲れ様でございました」
「可愛い妹のためだからね。なんにも疲れてなんか無いよ」
「それで。お兄様は納得するとして。お父様はやり過ぎでは有りませんの?」
お兄様の状況を把握すれば納得は出来ますが、お父様のアレコレやお母様のソレコレはやり過ぎには当たりませんの? と、つい確認してしまうのは、エミリオ様やドゥール侯爵夫妻に同情したわけではなくて、社交界の噂になっているからですわ。まぁとばっちりを受けた子爵家と男爵家に詫びは入れましたし、表面上はその詫びを受け入れてもらったので、手打ちになっておりますからね。
噂されても痛くも痒くもないですが。というか、改めてお父様……バントレー伯とその妻及びその息子にして跡取りの私に対する愛情を知って、オソロシイと思っているようですけど。そして今回のバントレー家の一件で、クリスティー様、レミーナ様、ソフィー様の家もそれぞれの家に“ざまぁ”をしたようですわ。
私は一応傷物令嬢なので、夜会に出られませんけれど。そしてディバード殿下に婚約破棄されたエリジア様のお家は王家が相手だけに“ざまぁ”は無理でも、慰謝料はたっぷりふんだくる……もとい頂いたそうでございます。
それはそうと、エリジア様を含めて私達に新しい婚約者は出来るのでしょうかね……。今回の家族暴走の件で私を妻に迎えたい、という方なんて居ないのではないか、とちょっと不安は有りますわ。
そんなことを思いながら、10日ほど後に、私は「あの方」ことリオン様からのお手紙を受け取る事になりました。
お読み頂きまして、ありがとうございました。




