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エミリオ様の借金騒動・1

 単刀直入に伺いましょう。


 「エミリオ様は何故お兄様に借金を致しましたの?」


 「それか」


 お兄様が苦い物を食べたような表情になりましたわ。それきり私の作ったパウンドケーキを一口ひとくちもったいない……とでも言うようにちまちまと食べていらっしゃいます。

 本当にちまちまですわ……。普段なら親指と人差し指で作った円くらいの大きさの食べ物を一口で入れてしまうのに私の作ったパウンドケーキは小指の爪程の小ささに切って少しずつ少しずつ口に入れてますわ……。でもお兄様が私の問いかけに答えない時は話そうか迷う時ですからお兄様の結論が出るまで私は黙って待ちました。


 「エミリオは。騎士だが勉強は些か弱い」


 「えっ? はい」


 「更に人に頼られると断れないお人好しだ」


 お兄様の仰りたい事が分からないので黙って先を待ちます。


 「思考能力がかなり弱いからそれを行ったらどうなるか、という想像も出来ない」


 ……全く分かりませんわ。


 「エミリオはある女性に泣き付かれて借金をしたのだよ」


 意味の分からないお兄様の発言に口を開いたところでそんな事をお兄様が仰いました。

 ーー女性に泣き付かれて借金???


 「ええと……エミリオ様、の、話ですわよね?」


 「そうだな」


 「あのエミリオ様ですわよね?」


 「そうだな」


 物凄く失礼な確認をしている私とそれを解ると言いたそうな表情で肯定するお兄様。

 何故なら相手がエミリオ様だから。

 一応侯爵家の跡取りであるし騎士団に所属しているエミリオ様なのだが。騎士になるための試験結果はギリギリ合格だったという事を私は知っている。何故知っているのかと言えばエミリオ様が自慢気な顔で点数を仰ったからだ。ちなみに合格点も聞いた。たった1点差。それでもまぁ合格は合格だが……。だからまぁなんていうか想像力に欠ける方なのは確かだ。そのエミリオ様のことを貴族のご令嬢方は良くご存知だ。友人として付き合うなら構わないが婚約者とか恋人とかだと遠慮したくなる……という噂もチラホラと耳にする。偶に私は哀れまれることもあった……。


 そのエミリオ様が? 女性のために借金? どなたなのかは存じ上げないけれど女性は何故エミリオ様に縋ったの? と尋ねたくなるレベルのエミリオ様に頼った理由が寧ろ私は知りたいです。


 「その女性は人選を間違えていらっしゃるのでは……?」


 「いやおそらく正しい人選だったよ」


 私が首を捻ればお兄様はすかさず否定する。正しい人選。それってつまり……


 「なるほど? エミリオ様からお金を無心するのが目的でしたら正しいですわね?」


 お兄様は頷く。声に出して肯定するのもバカバカしくなるくらい、エミリオ様は簡単に騙されたという事だろう。元婚約者とはいえ……そんな人と婚約していた私がなんだか滑稽に思えてくる。


 「エミリオ様はもしやその方に絆され……いえもっと分かり易く言わせてもらえば恋をしてしまったから借金かつ私と婚約破棄をしようと……?」


 「あー。それは前半は合っているな。確かにエミリオは自分が女性に頼られるなんて初めての経験だから分かり易く恋に落ちた。だがルイーザとの婚約は破棄するつもりなんかなかったと思うよ? おそらくルイーザを正妻にしてその女を愛人にして外で囲うつもりだったらしいな。だから今回の婚約破棄は本当に流行に乗ったらしい」


 ………………。

 どうしましょう。あまりにもバカバカし過ぎて言葉が出ません。思考も空回りしていますわ……。お兄様……本当に申し訳ないですわ、そんなバカな元婚約者の尻拭いをさせられて……。


 「お兄様。本当に重ね重ねご迷惑をおかけしてすみません……」


 「ルイーザが謝る事ではないよ? まぁ婚約破棄の件が有ろうと無かろうとエミリオには現実をしっかり認識してもらおうと思っていたからね。少しは理解出来たんじゃないかな」


 ……ああ。本当にエミリオ様って愚かですわねぇ。お兄様が私大好きってことを忘れていらっしゃるようなのですもの。どこの世界に義理の兄にあたる人に借金をした挙句、それが女性のためでその女性を愛人にする、と宣言するアホがいるのかしら。

 ああドゥール侯爵家のエミリオ様という方がいらっしゃいましたわね。

 お兄様が私大好きなのを知っているのに忘れていて私を正妻に、自分を頼ってきた女性を愛人に、なんて考えている事を宣言するのだからお兄様に何をされても文句は言えませんわね……。


 私、もしかしてお兄様を止めて叱った事が間違いだったのではないかしら? 私の方こそお兄様に謝る必要がありそうですわね。お兄様はきっと私が傷つくと思っていたからこの話をしなかったのでしょうから。きっと婚約破棄の一件が無かったら私に知られないようにエミリオ様に釘を刺しまくっていた事でしょう。お兄様が私に謝るのではなく、私がお兄様に謝った上に感謝をしなくてはなりませんでしたわ。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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