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ドゥール侯爵家の慰謝料・2

 「お兄様の妹愛を実感致しますわね。ですが、買い取った屋敷はどうするのかしら。仮にも貴族……それも侯爵クラスの屋敷ですもの。かなりの広さですわ。確か本邸の他に別邸が2つありましたわね。温室や庭園を丸ごと含めますと、かなりの額にもなったでしょうに」


 「あー……。その件なのですが」


 私が考えながら口にしていると、またもやエドが口籠もる。……また? 今度はなんですの? 私が視線で先を促せば、エドは少し溜め息をついて宣った。


 「どうやら侯爵子息様、侯爵様と夫人様に内緒で屋敷を含む侯爵家の権利書を持ち出して借金をされていたようで」


 「……は?」


 えっ? 今、エドはなんて言いましたの? 借金? 誰が? エミリオ様が? そんなバカな。借金をする程の何にお金を使うというのでしょう。いえ、そもそも私は借金の件は、初耳ですわよ?


 「お嬢様、混乱するのは分かりますが落ち着いてくださいませ」


 「落ち着いてって、無理ですわ。いいですか? エド。エミリオ様ですわ。あのつまらない話しか、しないエミリオ様ですわ。一体何に使ったのでしょう」


 私の表情が消えた事にエドは気付いたのでしょう。自分も表情を消して深く頷く。エミリオ様は騎士団の話が、人との共通の話題。私相手には虫の話題だ。昆虫だの幼虫だの。そんな方が、借金をする程の何を買ったというのでしょう。


 おかしいと思いませんか?


 「確かに、()()侯爵子息様です。ですが、そんな方でも借金をする程の何かがある、ので、ございましょう」


 そう言われるとそうなのだけど。エミリオ様が借金までした品物が何なのか、気にかかって仕方なかったのですもの。


 「それで? 権利書を持ち出して、エミリオ様は()()()()借金を?」


 「さすがお嬢様でございますね。まさにそこでございます。何を思ったのか、旦那様に権利書を担保にして借金をしよう、とお考えになられて。結果的にカルディス様が」


 心底溜め息をつきましたわ。肺が空っぽになるほどの深く重い溜め息を吐き出させて頂きました。お兄様は、権利書を持っている以上、借金が返されないなら当然屋敷を含む侯爵家の土地を買い取ったことになります。


 「つまり。お兄様がドゥール家を買い取ったというのは、結果論でしか無いのですわね」


 「左様でございます」


 エミリオ様……。ある意味、変な方に借金を申し込まなかっただけ、頭が回って良かったですわ。……いえ、違いますわね。エミリオ様はおそらく、婚約者の私の実家だから、お金を貸してくれるだろう、とお考えになられたのでしょう。多分、権利書を持ち出しても()()()権利書が取り上げられるとは思ってもみなかったはず。


 何故なら、婚約者である私の実家ですもの。


 そこまで非情にならない、と高を括っても仕方ないですわ。ただ、お兄様の方が一枚上手、というだけですわね。お兄様とて、その権利書を持ち出してドゥール家を買い取るつもりは無かったはずですわ。いつでもいいからきちんと返して下さいね、程度だったはず。それが、私に婚約破棄を突きつけた事でお兄様が激怒なさって、非情な手段に出られた、というところですか。


 ーーエミリオ様、私が言うのも恥ずかしいのですが。お兄様の私に対する愛情をご存知のはずでしたのに。私を傷付ける者は誰であれ、一切容赦をしない事をお忘れになられたのかしら……。


 とにかく、ドゥール家の買い取りの件は、分かりましたわ。正当な手段でしたのね。


 まぁ本来ならドゥール侯爵家の王都の邸を丸ごと買収なんて、さすがのお兄様でもしなかったはずです。……はずですわよね? 多分。ただ、権利書を持っていたから実行出来る! と考えて実行してしまっただけですわよね? 普通は権利書が有っても、そんな非情な手段は取らないものですけれど。


 とにかく、お兄様の一件は、まぁなんとか理解致しました。非情な手段ですけれども、正当性はございます。


 で。次はお父様。一族をキリキリ締め上げた、とエドが言っておりましたが。一族って……。確かドゥール侯爵家は、子爵家と男爵家が一族でしたわ……。子爵家は当主の曽祖父の弟君が興した家で、男爵家はその子爵家を寄親とした家。つまり血縁関係は無いですが、子爵家を寄親としている以上は、まぁ一族に組み入れられますわね……。


 そこで私は、ハッとある可能性に行き当たりました。ゴクリと唾を飲み込む……令嬢としてはあるまじき行為をして、エドに恐る恐る尋ねました。


 「ね、ねぇ、エド。一族、と言っていましたが、まさかおじさまの弟君の婿入り先やらおばさまのご実家やら果てはそのご兄弟関係やらまでは、さすがに対象では有りませんわよね?」


 「さすがにお嬢様、旦那様にそこまでの力はございません」


 エドの返答にホッと肩を撫で下ろします。それをやっていたら、このノーディー王国の貴族の上下が狂い、権力図が書き変わり、帝国にも影響を与えかねません。そんなオソロシイ状況をお父様が作り出した、なんて命がいくつ有っても足りませんわ。


 「では、子爵家と男爵家だけですわね。とばっちりで申し訳ない事を致しましたわ」


 「まぁ旦那様にそこまでの力はございませんが、バントレー家だけの問題ではございませんから、ノーディー王国の勢力図が書き換えられ、帝国にも影響は出ましょうが」


 私が胸を撫で下ろした直後に、エドがそんな物騒な発言をして、私は息を飲みました。……でも、そうですわね。確かにバントレー伯爵家とドゥール侯爵家だけの問題では有りませんわね。


 となると、今後我が国はどのような進退を見せるのか、お父様は気が抜けませんわね。私は、所詮、令嬢ですもの。国の行く末を案じても出来る事は有りませんわ。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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