婚約破棄モノ書いちゃいました!
ついに私も手を出してしまいました(笑) こんな「ざまぁ」はいかがでしょう?
「フルーチェ、お前はババロアを虐げているそうじゃないか。どういうつもりだ」
婚約者であるゼラチン王子に挨拶をしようと近づいた侯爵令嬢フルーチェ・ハウス・ダヨーネは、いきなり怒鳴られて目を瞬いた。
「ええっと、何のことでしょう。わたくし、よくわからないのですが」 フルーチェはウェーブのかかった金の髪を揺らして小首を傾げる。
「しらを切るつもりか、オレはババロアから聞いているんだぞ。母親違いだとしても、お前の妹ではないか。可愛がるのが普通であろうに」
益々、声を荒げる王子と、何故かその腕にしがみついている義妹の姿に、困惑して眉が寄ってしまう。
「第一、ババロアはこの国の聖女だぞ。不敬だとは思わないのか」
「そのような事を仰られても、全く身に覚えのない事ですし…… 」
むしろ継子苛めに合っているのは自分の方なのにと思いながら、フルーチェは扇の陰でため息をつく。
「お前、謝罪の言葉もないのか」
「いいのです、殿下。わたくしが至らない所があるから、お義姉様の御気に障るのですわ。
殿下、いえ、ゼラチン様が側にいて下さるからから、わたくしは大丈夫です。
女神様も見守ってくださっていますし……」 目を潤ませて上目遣いのババロアを思わずといった様に王子が抱き寄せる。
「ババロア、何て健気なんだ」
「ゼラチン様」
見つめ合い二人の世界を作り出している婚約者と義妹は、周りの白けた空気は目に入らないようだ。
ここは、どこかの劇場だったかしらと現実逃避しかけたフルーチェを、王子は睨むと指さしながら(人を指さすのは失礼ですよ。良い子は真似しちゃいけません)言い放った。
「反省の色がない様なら絶縁を申し渡しても良いと、侯爵から言われている。 よってお前の父親に代わって、オレが侯爵家からの絶縁を申し渡す」
「あら、まあ」 驚きのあまり開きかけた口をフルーチェは、慌てて閉じた。
「更に、貴族でなくなっただけでなく、聖女に対する不敬の罪があるお前をオレの妃になどできない。 俺の妃は心優しいババロアにする」
周りで事態を傍観していた、他の招待客にどよめきが起きる。
一瞬の間が開いたがフルーチェは、お手本のような優雅なカーテシーする。
「殿下のお言葉、確かに承りました。 ですが、申し上げたいことがございます」
「ふん、何だ。今更、謝っても遅いぞ。それとも、まだ言い逃れをする気か」
「お義姉様、恥ずかしい真似はもうおやめください。」 恥ずかしいのはあなたたちだろうと二人以外の者たちの心が一つになった。
「いえ、そうではなく。 わたくしとの婚約をお辞めになって、ババロアと新たに結ぶのなら正式な手続きが必要なのですわ。 婚約を結んだ時の様に神殿で女神様の前で宣誓なさらなくてはなりません。」
「そ、それくらい知っている。大体ワザワザ神殿になど行く必要はない。 ここに聖女がいるのだから、ババロアの前で誓えばいいのだろう。
俺達は『真実の愛』で結ばれているのだから女神様も祝福してくださるはずだ」
「うれしいです。ゼラチン様」
芝居ががった仕草でゼラチン王子はババロアの前に膝まづき胸に手を当てる。
「女神様の名のもとに、第二王子たる我、ゼラチン・ハヒヤスト・カタマールは、フルーチェとの婚約を破棄し、聖女たるババロア・クリーミィ・ダヨーネと新たに婚約する事を誓う」
王子が宣言した途端、部屋中に白い光に広がった。 眩しさに皆が目が閉じたままの中に、不思議な響きの声が聞こえた。
「いいでしょう、その婚約破棄と新たな婚約を認めます。いえ、『真実の愛』なのですものね。
この場で婚姻を結びましょう。 今からあなた方は夫婦になりましたわ。おめでとう」
やっと眩んだ目が元に戻るとその場が騒然となる。
「今の声は…… 」
「まさか、女神様」
「ババロア、俺たちは女神様に祝福されたぞ。」
「ゼラチン様」 人目もはばからず抱きしめ合って喜ぶ新婚夫婦に、また声が掛った。
「ええ、そうね」 皆が見つめる声の主は、白い光のベールを全身にまとったかのようなフルーチェだった。
「なっ、おまえ」 神々しい雰囲気の少女はいつもと少し違う声でつづけた。
「あなた方の婚姻は認めました。 ですが、わたくしの娘を貶め、わたくしの現身を騙った罪は償ってもらいます」
「はぁ、何を言っているのだお前は」 王子は顔色を失くしながらもフルーチェを睨む 。隣にいるババロアは声もなく震えている。
「この娘は十年もあなたの妃になるために費やしたのに、心変わりしたのはあなたよね。 しかも、やってもいないことで責められた。わたくし怒ってもよろしいわよね」
「それから、お前」 視線を向けられてババロアがビクつく。
「わたくしの現身、ああ、聖女とか呼んでいるのでしたわね。誰がお前が聖女だといったのかしら、お前にはわたくしの気配すらないと言うのに。
偽りばかり口にして、義姉であるこの娘を虐げていたのはお前たち家族でしょう?」
静まり返った広間の中で、震えるババロアの持つ扇の飾りがシャラシャラと音を立てている。
「そうね」 フルーチェの姿をした女神は思案するように頬に手を当てる。
「罰としてあなた方には十年、二人分だから二十年ね。夫婦としての交わりを禁じます」 王子とババロアの身体が光に包まれた。
「王子の身体の一部を若返らせたから、その分妻になった娘に加算しておいたわ。 時が来れば正しい年齢の身体に戻るから安心なさい」
二人を包んでいた光が消えると、いつの間にか抱き合って座り込んでいた王子とババロアは顔を見合わせた。そしてギョッとしたように王子が身を離す。
「えっ、侯爵夫人? いつの間にここに…… いや、まさかババロアか? 」
「どうなさったのゼラチン様。わたくしですわ。もしかしてご気分が悪いのですか?」
王子に答えたのは、フリルとレースがいっぱいのベビーピンクのドレスを窮屈そうにまとう、豊満な肢体のダヨーネ侯爵夫人にそっくりの女性だった。 小じわがあるので本人よりも、もう少し年上に見える女性がババロアらしいと気が付いて唖然とする。
「ホントに君なのか? その姿はいったいどうして…… 」
「女神様が罰だと、仰ったではありませんの」 困ったような顔をして口を開いたのは、普段の様子に戻ったフルーチェだった。
「なんだと」
「ですから、殿下が若返って、その分ババロアが年齢を重ねたという事ですわ」
「はっ、わたくし? わたくしがどうかして? えっ、なにこれ」 キョトキョトと自分の身体を見下ろしてババロアが悲鳴を上げる。
鏡を見たら卒倒そうな様子だが、無理もない。花も恥じらう乙女が母親より年上の熟女になったのだから。 観客の令嬢たちは、皆同情した。
「だが、オレは別に何処も…… 」 言いながら立ち上がってハッとしたかと思えば青ざめた。
その手があらぬ場所を抑えたのを見た令息たちは、何が起こったのか悟ったのか自分達も顔色を失くした。 逆に何人かの令嬢は頬を赤らめている。
「ええと、その、大丈夫ですわ。二十年経ったら元に戻りますから」
取り繕うように言うフルーチェに「イヤ、大丈夫じゃないだろ」と男性陣は心の中で突っ込んだのだった。
その後、フルーチェは女神の娘として神殿で過ごすことになる。
放逐したつもりの父親(実は侯爵代理)は婿養子だったので、本来の継承権はなく、縁が切れた侯爵家から夫婦そろって追い出されることになった。
新婚なのに清い関係を強いられた元第二王子夫婦は、辺境の土地へ子爵として追い払われた。
女神の不興をかったことを王家が危惧したためだ。
流石に、同情したフルーチェのお願いで、罰は十年間に減らしてもらったのだが、反動が来たのか随分と子だくさんな夫婦になったらしい。
フルーチェ自身も相愛の夫を得て幸せに暮らしましたとさ。
もう少し設定を入れた長いのも書いてみたんですけど、美味しいとこだけあればいいかとコンパクトにまとめてみました。
楽しんでいただけたら幸いです。