アリスと笑う猫―2
「これないと、不便でしょ?」
まあ、あっても変わらないよねと一言余計なことを言って、私にその紙を渡した。
「ありがとう、ございます。」
そりゃあ、知ってて当たり前だよねと、勝手に府に落ちた。
「あ、あともう1つあるんだけど。」
「まだあるんですか。」
「こっちは長くなるから、あと寒いから中で話したいんだけど。」
今日会ったばかりの人を家に入れるのはいかがなものかと思ったけど、玲音さんだからまあ良しとするか。
どうやら私の防犯意識は、この1日でどうかしたようだった。
「まあ、いいですけど。」
「あ、良いの?」
「家独りだったんで、話し相手が居ると助かります。」
「夜勤なんだ。」
「そういえば、玲音さんはどういう理由付けて来たんですか。」
いくら4月でも暗い中1人で行かせないだろうと思って聞いてみた。
まあ、同級生の忘れ物届けに行くって言えばいいのかな。
「独り暮らしだからね。」
「あ、そうなんですか。」
「親がね、お金なら出すから顔を見せないでくれって言うからね。」
今さらっと親に絶縁されたみたいなの言わなかった?
「何か、すみません。」
「別に謝らなくて良いよ、俺も親どっちも好きじゃないし。」
それは本心だろうか、親が子を嫌いでもその逆なんて。残念ながら、玲音さんの顔からは何も解らなかったけど。
「いくら嫌いって言ってても、もし孫が出来たら顔見せろって言う人だからね、俺の親。」
そのくらい都合の良い親だよって、食卓の上に何やら紙を出しながら言った。
そういえば、用事でここに居るんだったね、と話にのめり込み過ぎて忘れていた。
「ちなみに、それはなんですか?」
「あのクラスの人達の個人情報。」
「個人情報って大丈夫なんですか。」
プライバシーの侵害とか、そういうのは駄目だと思うけど。
「大丈夫、何をしてあのクラスにいるかっていうのだけだから。」
「それでも大丈夫なんですか。」
「知っとかないといけないことも、あるにはあるから。」
それでも、人の情報を無許可に見るのって気が引けるんだけど。
「それに、俺が探りを入れて手に入れた情報だし、気にしなくていいよ。」
私の気持ちも気にせずに、紙に書かれた文字を読み上げていく。
「まず、俺はねー、不必要に嘘やデタラメ、噂なんかを広めて、学級崩壊とかを転校先でも繰り返して最要注意人物にされたからでしょ。」
「学級崩壊なんて出来るんですか。」
「言葉1つでも結構影響力ってあるんだよ、アリス。」
言葉でそんなことが出来るなら、人からの信用も得たいように得ただろうに。
「次はねー、根住って人。」
あっさりと話を済まして、彼は続けた。
「彼女は、時と場所問わずに眠っちゃう病気の子で、急な眠気に襲われるんだって。それで、普通学級じゃ難しいだろうって感じで理由。」
二番手がまともな理由過ぎて玲音さんが余計に怖い。
「あとはねー」
玲音さんが続きを言おうとした瞬間、がちゃりと鍵が開いた。