アリスと眠り鼠
「よ、よろしくお願いします?」
「どうかした?」
きょとんとして、根住さんは答えた。
今、この流れで『どうしてごみ箱の中に居たんですか?』って聞いていいのかな。気になるけど、聞くに聞きにくいし、そもそも触れない方が安全じゃないだろうか。
そう思っていると、弥生さんが面倒そうに言葉を吐いた。
「こいつが何でごみ箱に居たか、って気になるなら聞けばいいじゃん。」
「ごみ箱?ああ、さっきのあれのこと?」
弥生さん、確かに気にはなってたけども、今聞くことじゃないから。
根住さんはそんなことも気にせずに淡々と言葉を続けた。
「あれねー、寝るつもりは無かったんだよ。」
「寝る、って寝てたんですか?」
ごみ箱で寝るって身体を痛めそうなんだけど。
「寝てたよー、おかげで身体が痛い痛い。」
案の定痛かったらしい。
「いやー、弥生達をびっくりさせようと、わざわざ早くに学校に来てごみ箱を綺麗にしてから忍び込んだのに。」
根住さんは残念そうに溜め息を吐いた。
「まさか、寝るとか考えてなかったなー。」
「そのくらい考えつけよ、馬鹿。」
弥生は鬱陶しいそうにしているのに対して、根住さんは弥生さんの一挙一動を嬉しそうに見ていた。なかなかに対照的な2人だな。
「ドッキリをする為に入ってたんですか。」
「うん、でも逆にびっくりさせられたよね。」
根住さんは横目で弥生さんを見た。
「そんな目でこっち見んな。」
「いや、もうちょっと手加減してくれてもいいじゃん?」
「しねえよ、そんな面倒くさいこと。」
手を抜かずに蹴りを入れる方が疲れそうだけど。
「そういえば、2人ってどういう繋がりですか?」
「繋がりも何もないけど。」
「友達とか。」
「違う。」
「じゃあ、兄妹とか身内は」
「違う。」
「…恋人?」
「縛くぞ。」
どうやら禁句だったみたいだ。凄い顔が怖い。
その向かいじゃ、照れ笑いしている人も居るからよく解らない状況になっている。
「…もういい、帰る。」
弥生さんは急に立ち上がったと思ったら、そのまますたすたと歩いていった。
「え、ちょっと待ってくださいよ!」
「弥生と恋人…うぇへへ、弥生と…恋」
「弥生さん待ってくださいって!」
私は根住さんの手を引いて弥生さんを追いかけた。
弥生さんの足にやっとのことで追いついたのは信号の所だった。
そのまま帰ったと言いたいけど、そこから迷子になったから、結局弥生さん達にお世話になって家に帰った。
早く1人で帰れたらと思いながら私は、最後の角を左に行った。右だったのに。おかげでまた帰るのが遅くなった。