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アリスと三月兎

半ば強引とも言える、まあ、流されただけだけどお茶会は楽しかった。弥生さんの方へは顔を向けられなかったけど。

それでいざ帰ろうと思ったら、私は学校出てから忘れ物に気づくし、迷惑掛けたくないからって、1人で戻ったと思ったら、何故か弥生さんと用が被って、一緒になってしまった。

初手で何だこの人と思ってしまったけど、ケーキも取り分けてくれたし、紅茶だっておかわりを淹れてくれたし、第一印象からは考えられないような優しい人だったし。

あれ、今日凄い弥生さんに失礼したんじゃないか、どうしよう、これからどう接しようか、謝るにしてもどう謝るんだ、とお茶会が始まった時から今に至るまで色々と考え込んでいた。

おかげで、紅茶の味しか印象に残っていない。

「おーい。」

そうやって色々と考えていた私の頭に例の人は声を淹れた。不思議と、ごちゃごちゃとした中にそれは素直に入った。

「は、はい!」

咄嗟に返事をした所為で変に声が裏返ってしまった。

それでも彼は淡々と言葉を続けた。

「何考え込んでんだよ、気持ち悪い面して。」

「き、気持ち悪いってちょっと失礼ですね。」

失礼なのはこっちだというのに、何言ってんだろう。

「あのさー」

「はい!」

「…そんな身構えんの止めてって。」

弥生さんは面倒そうにして言う。

「別に俺は怒ってないし、気にもしてないから。」

「でも…」

「そういうのが鬱陶しいんだって。」

「…すみません。」

そりゃあ、私にだって鬱陶しい自覚はあるし、こうやってどうでもいいところで変に落ち込んだり、引きずったりするし、でも、どうしようもない、これはどうにもならない。だから。

「だから、もう良いって言ってんじゃん。」

弥生さんは一層面倒そうに言葉を吐いた。

ああ、もう嫌だ、こんな自分が嫌だ。

どうしても許しを乞いたがる自分が嫌いだ。

「ん、だから、そういう意味じゃなくて、えっと。」

弥生さんは言葉に詰まったかと思えば、また言葉を続けた。

「…怒ってないから、そんな顔しないで。」

さらに言葉を続けた。

「女の名前だとか散々言われたし、第一印象が悪いのだって知ってる、でも。」

さっきみたいに途切れ途切れじゃなくて、真っ直ぐと優しい声を注いだ。

「それが嫌かと言われたら嫌だし、だからといってお前を責める訳じゃない。」

ただ、と少し言いにくそうにして、また言葉を紡ぐ。

「お前がそうやって気遣ってくる方が俺は嫌だから。」

「…はい。」

「俺も、最初の時に嫌な思いにさせたんだから、別に、これでおあいこでいいんだよ。」

「でも」

「でも、もやっぱりもないの、変に罪悪感背負い過ぎなんだよお前。」

「…そう、なんですかね。」

「うん、背負い過ぎ。」

弥生さんの声は優しかった、とっても優しい声だった。

「だから、もう大丈夫だから、安心していいから。」

お前のことなんて嫌いにならないから、と言葉が聞こえた、気がした。

私は安堵して、強ばった顔が柔らかくなるのを感じた。

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