アリスと三月と帽子屋
教室を覗いてみると、すでに数人が来ているようだった。男子も女子も居るようで、女子1人じゃなくて良かったと思った。
それでも、私は中に入るのを躊躇った。
「入らないの?」
「いや、この学級の人って一応問題児みたいな人達でしょうから、入りづらいなと。」
「俺もアリスもそういう人達だけどね。」
「私はまだ確定してませんから。」
「でも、ここのクラスなんでしょ?」
「それでも、ちょっと…」
「入るんなら入れよ、鬱陶しい。」
急に低い声が飛んできてびっくりしながらも、上を見ると、後ろから男子が色素の薄い髪から顔を覗かせていた。どうやら機嫌が悪いみたいだ。
「何、ぼけっとしてんだよ。冷やかしなら帰れよ、邪魔だから。」
色の白い、整った顔からは想像できないような罵詈雑言が浴びせられる。
「すみません。」
「入るんなら入るで、さっさと入れよ、通行の邪魔なんだって。」
何でここまで突っ掛かるんだろうと、思うと同時に怒りがこみ上げてきた。
そんならこっちだって、その気でやってやるから。横に居る玲音さんに構わず、口を開いた。
「あの」
「ごめんね。僕の友人が失礼を言っちゃって。」
言い返そうとした瞬間、柔らかい優しい声が、すっと空間に入ってきた。
「ほら、謝らないと、ね?」
「…………すみませんでした。」
さっきまでの威勢はどうしたんだと言わんばかりに、彼は大人しくなり、謝罪の言葉を無理やり吐き出して、そのままぷいっと廊下の向こうへ行ってしまった。
「ごめんね、彼、ひどいこと言ったよね。」
「別に大丈夫ですよ。」
本当は、大丈夫と言えるほどではなかったけれど、変な事は言わない方が良いと思った。
「あ、でも勘違いしないで欲しいんだ。」
癖のある髪をくるりと指に巻きながら彼は言った。
「彼、恥ずかしがり屋だからさ。」
「恥ずかしがり屋…?」
それを聞いた玲音さんは珍しく口元を押さえながら、苦しそうに笑った。
私は彼のその言葉を理解出来なかった。
あれが恥ずかしがりなら、だいぶアレだと思う。
なかなかに口の悪い恥ずかしがり屋って、情報が多い。
「まあ、だから彼の事を嫌いにならないで。」
頭1つ分高いのが頭を下げて、同じになった。
「お願い。」
どうしてあの人にそんな情けをかけるのだろうと、思ったけど、彼は彼であの人の良いところを知っているからこんなことを言うのだと解釈をした。
「わかりましたから、頭上げてくださいよ。」
「ほんと?」
急に顔を上げたと思ったら、明るい笑顔はこういうのを言うのだと思わせる表情が見えた。
「良かった、そう言ってくれて。」
少しほっとしていると、かわいらしい声が聞こえた。
「早く教室に入りなさいよ。」
教室から顔を覗かせていた女子の言葉で私ははっと時計を見上げた。
どうやら、もう集合時間になるみたいだった。
私は素直に教室に入った。
入学式はすぐに終わった。