アリスと特別学級
「着きましたね。」
「そうかもしれないね。」
何故“かもしれない”なんて言ったのか、理由は解らなくもなかったけれど、敢えてスルーすることにした。
「ところで、私達はどっちが先でしたっけ?」
「何が?」
「教室に行くのと、体育館に行くのと、です。」
「教室待機じゃないかな、知らないけど。」
「あー、教室待機ですか。」
「まあ、どっちでもいいんじゃない。」
「良くはないですから。」
なんてアバウトに生きている人なんだろうと思った。…私もだけど。
「じゃあ、教室に行きましょうか。」
確か、合格通知の紙に書いてあったはずだから。
「じゃあばいばい、だね。」
「何でばいばいなんですか?」
「だって俺は違う学級だから。」
「どうしてわかるんですか?」
だってまだ、知らないことなのに。
「合格通知にクラスが載っているからだよ。」
「みんな書いてあるものですよね、それ。」
「え。」
きょとんとしている玲音さんを不思議に思いながら、鞄の中のファイルから折り目ひとつない合格通知の紙を出した。そこには、
※あなたは特別学級に在籍することになります。
という文字がクラス表記の下に小さくあった。
玲音さんもそれを見るなり一瞬驚いた顔をして、また普段のにんまり顔に戻った。
「特別学級、って」
「特別な学級のこと。」
「…私、なんかしたんですかね。」
「心当たりがないんだ?」
「少なくとも私の中では無いですね。」
「手違いかもしれないね。」
だったら良いと思いながらも、私はそれが気になって仕方がなかった。こういうものといったら、普通学級に居られない人が行く場所だと思うけど私には、今の私にはまるっきり心当たりのない話だった。
「まあ、俺もそのクラスだし、気楽に行けば?」
「なんか、いやです。」
知ってる人と一緒というのは心強いだろうけれど、玲音さんもそれと考えるとなんだか不安だ。
「大丈夫だって、俺そんなヤンキーとかじゃないし、そんな心配しなくてもいいよ。」
「じゃあ、なんで特別学級に」
「周りの人を虚言で混乱させた、だったかな。」
「…虚言というと、嘘ってことですよね。」
嘘をつくのが癖だということは私にもついたのだろうか。
私は急に怖くなって、後退りした。
「アリスには嘘ついてないよ。」
「それも嘘ということも」
「でもアリスは、これを聞くまでは俺のこと信用してたでしょ。」
「それとこれとは別です。」
「でも、今嘘ついたって何もないよ。」
それは嘘をつく意味ということだろうか。確かに、ない、かもしれない、かな。
「別に、なんでもかんでも嘘はつかないよ。」
「そう、なんですか?」
「だってアリスは嘘つかなくても面白いから。」
そういうと、にんまりだったのが口角を吊り上げて、白い歯を見せた。
そういえば、こう笑う時に彼は瞳に私をしっかりと捉えるのだなと、それに気づくと少し気恥ずかしかった。
「じゃあ、嘘ついた方が面白いと思ったらつくんですね。」
「そうとも限らないけどね。」
その言葉にきょとんとしていると、彼はまた笑った。というよりにやけた。
相変わらず変な人だと思いながら、私は玲音さんと一緒に教室へと足を運んだ。
わりとすぐそこに教室はあった。