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お茶をしました

あの日、エミリオくん親子が家に来たのはやはりというか何というか、エメラルドお嬢様の今後について話し合うためだったらしい。

要は、「ぜひ身寄りのないエメラルド様を我が家の嫁に」という事だ。

エメラルドも5才になり、そのたぐいまれなる美貌が噂になるとそういう人達もでてくるということだった。


「まあ、お父様は断ったらしいけどな。『そんな重大なことは私の一存では決められません』ってな」


現在はエメラルドの部屋となっている我が家で一番良い客間で紅茶をすすりながら、彼女は言った。

エメラルドは実の親子ではないと公言されている現在でも私の父のことを『お父様』と呼ぶ。彼女曰く、それがいちばんしっくりくる呼び方らしい。父はエメラルドの事を様付けで呼ぶが、それは彼女にとって寂しいことのようだ。口にだしては言わないが、私と父が会話をしているときの視線が物語っている。精神年齢は大人のはずなのに、まだ親が恋しいのだろうか。


「確かに、我が家が伯爵家の結婚話を勝手に決める訳にはいかないわね」


たっぷりのジャムを塗ったスコーンを手に取りながら、エメラルドの向かいに座っている私は頷く。おやつタイムのテーブルにはこれでもかと沢山のデザートが置かれている。

この世界では、食事を採るのは朝と夜だけだ。朝は家族で楽しく食卓を囲むが、夜のディナーはテーブルマナーが完璧に備わらないと参加することができない。平均的な子女がテーブルマナーを覚えるのは7才頃らしいので、私もエメラルドも夜はまだマナーを教える先生のマルグリッドと3人で食事をすることになっている。そこではとても食べた気はしないので、おやつの時間が本当の食事時間といっても過言ではない。


「他にもいろんな家が結婚話を持って来ているらしいからな」


まるで他人事のように、エメラルドが言い放った。オレンジがたっぷり乗ったタルトを口にねじ込む。マルグリッド先生が見たら悲鳴をあげそうなお行儀の悪さだ。


エメラルドの言う通り、エミリオ親子が帰ってからほとんどの伯爵家から求婚の誘いがあったらしいが、父はすのすべてを断った。当然である。一つの家を立てれば、他の家から恨まれることになるからだ。そんな決定を我が家の分際で承諾することはできない。それは先方も承知の上だろう、これらの訪問は実の所、求婚のお願いというよりは『他の家と勝手に手を結ばないように』というけん制の意味合いの方が強い。


……まあ、あのお父様の事だ。そこまで深く考えずに『エメラルドの好きになった人と結婚させてあげたい』なんてことを本気で考えていそうだが。


「ほんっと、お人よしなんだから」

「全くな」


ため息交じりにこぼした愚痴が誰へのものかわかったのだろう、エメラルドも苦笑いを浮かべた。と、ケーキの上にのった苺をつまみながら声を潜めて彼女は囁いた。


「話は変わるけど。最近、変じゃないか? この家、いつもにまして質素というか」

「そうよね。メイドたちは何も言わないけどやっぱり変よね」


目の前にだされた豪華なお菓子にたいしてそんな感想を持つなんて、生前の貧乏な私からすれば三段蹴りをお見舞いしたいくらい不届きな発言だろう。しかし、現在は人並み以上に豪華な生活を送っている身だ。いつもと違うことがあれば家の財政事情に気づいてしまう。


例えば、いつもよりお菓子の数が少ないとか。

添えられるお茶が高級ランクからちょっと下がったようだとか。

毎月5着は贈られる新品のドレスが3着に減ったとか。


いくら普通の貴族と比べて質素な生活を送るとはいってもそこは別。特に今はエメラルドを立派な伯爵家のお嬢様に育て上げないといけない時だ、こんな所でケチケチする我が家ではない。


「その事で、あいつ(・・・)から話があるそうだ」


エメラルドがそう言った瞬間、ドアをノックする音が聞こえた。

どうやら、メイドがそのあいつ(・・・)を案内してきたらしい。


「どうぞ」


エメラルドの言葉に、扉が開く。

案内されて部屋に入ってきた人物は私達に向かって深々とお辞儀をした。

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