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虐められました

それにしても、この顔は見たことがある。


「あっ」


暫くの自問の結果、少年の顔が私の記憶の中の人物と一致した。


エミリオ・デ・ルジオール。


選王家の1つ、ルジオール伯爵の息子だ。エメラルドと同じ年の次男で、攻略対象の一人である。ルジオール家には才色兼備な兄がいるので、婿養子としてうってつけの彼との恋愛はそこまで障害は多くない。お互いが両想いにさえなってしまえば後はとんとん拍子に話が進む。むしろ、ルジオール家としても、エメラルドと次男坊との結婚は願ってもないことなのだ。

ただ気になるのは、


「何アホみたいに大口開けて俺を見てるんだ、馴れ馴れしいぞ」


この性格の悪さ、だったりする。

ゲームの舞台は貴族が通う王立学園が舞台なので、まだ十年先の話であるがその頃のエミリオの素行は酷いものだった。伯爵家の息子なのに町に降りては酒場に入り浸り、乱闘騒ぎを起こす。そもそも真面目に学園に来るタイプではないので、恋愛どころか会うのも困難なキャラだ。

彼と親睦を育むには授業中の中庭や、夜の町などエメラルドもお嬢様にあるまじきサボりを繰り返さなければいけない。エミリオと仲良くなるにつれて、学園の教師からは目をつけられるという困った展開を潜り抜ける必要があるのだ。


私が思いだしている間に、エミリオはふんぞり返ったままずかずかと偉そうに歩いてきて、いきなり私とエメラルドの髪に手を伸ばした。

突然のことで私達は抵抗する間もなく髪を掴まれてしまう。


「痛い痛いっ!」


ブチッと音がして、確実に数本髪を持っていかれる。思わず叫ぶが、エミリオは悪そうな顔で笑うだけだ。


「ふん、お前らが無視するから悪いんだ」


そうだった。

確かエメラルドは幼い頃エミリオに虐められていたという設定だった。

お嬢様のエメラルドにエミリオはカエルを投げつけたり、スカートを捲ったりとそれはそれは典型的なイジワルをする。これまた典型的な事に、


――小さい頃は悪かったな、かっ、可愛いからついこっちを見て欲しくて馬鹿なことしてたんだ


という理由だ。

しかしこの台詞が聞けるのは二人のハッピーエンドの結婚式、つまりエピローグだ。もちろんエミリオ以外のルートに進んだ場合、彼はただの虐めっ子というレッテルを貼られたまま物語は終わる。


エミリオルートをクリアした私から見れば、確かに彼はすでにエメラルドに好意を持っているようだ。髪を引っぱりながらも、その視線はじっとエメラルドの痛がる表情を見つめている。よく観察するとエミリオの耳は真っ赤だ。どうやら彼はこの初対面で一目惚れしたらしい。


……じゃあ私の髪も引っ張っているのは何でなのかは追及したいですけどねっ!?


ついでか、ついでに虐めてるのか!!

やっぱり只の虐めっこじゃないか!


「……モリー、知ってる人?」


ぽつりと、エメラルドが尋ねてきた。

エメラルドは顔を引きつらせたまま私に向かって笑顔を向けていた。もちろん彼女の綺麗な髪は引っ張られたままだ。この場合の「知ってる人」はゲームに出てきたか否かの事である。今生では初対面であるのはお互いよく分かっている。怖い。この人、すっごく怒ってる。背中からゴゴゴゴって怒りのオーラが見える。


「何二人でしゃべってるんだよ、俺はな、伯爵家なんだぞ、名前は――」

「エミリオ・デ・ルジオール」


私はエミリオの言葉を遮ってエメラルドに教えた。虐めっこが怖くないといえば嘘になるけど、目の前の黄金色の美少女の方がずっと怖いんです。


「攻略対象の一人の、不良、です」


とりあえず端的に説明しなければと、彼の特徴を一言で言ってみた。

ところが、それは間違いだったらしい。


「へぇ、不良、ねぇ」


エメラルドは地の底から出たのかと思うような低い声で呟いた。

うっかりしていた。不良と不良は相いれないものだというのに。いや、貴方は元不良で目の前の少年は後の不良なんですが。今現在この場所に不良はいないわけですが駄目ですか。……駄目ですね。


「じゃあ、遠慮はいらねーな」


えっと、とりあえずエミリオくん、ゴメン。謝っておきます。


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