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仲間ができました

その人物とは、エミリオだった。


「お久しぶりです、お二方。イソラ・モラ・カジュール」


恭しく膝をつき、エメラルドと私の手に口づける彼は依然の虐めっ子の片りんは一つもない。

まるで、エミリオの皮をかぶった紳士だ。中からデオールパパが出てくるんじゃないだろうか。


「ご苦労だな、立っていいぞ」


エメラルドが声を掛けると、エミリオくんは嬉しそうに立ちあがる。

慣れない、慣れないよこの光景。どうみてもお嬢様と下僕のSピーだもの。特にエミリオくんの目が輝いているのがヤバイよね。若干5才にして新たな扉開いた感じだよね。


「心の声がダダ漏れだぞ、モリ―。そういういかがわしい話を一体どこで覚えてきたんだ。そういうのじゃなく、コイツは只の舎弟だ」


あら、声が漏れてましたか。いかがわしい話は基本ナナちゃんのゲームから覚えましたが何か。そして伯爵家の息子を舎弟と呼ぶ貴方が凄いです。

心の中で一気に突っ込んだ後、私は椅子に座り直してクッキーを食べた。ちょっとバターが少ないのか、しっとり感がイマイチである。


この間の喧嘩の後、どうやらエミリオくんはエメラルドに絶対服従することを決めたらしい。なんでそうなるのか私には全く理解ができないが、エミリオくんが舎弟にしてくださいと土下座した時、エメラルドは当然のように頷いていた。

何でも、弱いものが強いものに従い保護下に入るのは当然の行動なのだとか。不良の世界意味不明。


「これはお土産です。つまらないものですが」


エミリオくんがおずおずと差し出した箱の中に入っていたのは、プルプルと軟らかそうなプリンだった。しかも、生クリームとチェリーで飾りつけがしてある。思わず涎が垂れてしまいそうだ。


「ありがたく受け取っておくよ」


エメラルドはそっけなく言うと、プリンの1つを私の前に置いた。エミリオくんにお礼を言って早速一口食べる。美味しい。卵の濃厚な甘味が口の中いっぱいに広がる。これを冷えたまま壊さずに持ってきたのだというから、彼の相当な努力と財力が垣間見える。


そういえば、前世でも私はたまに兄から高級チョコを貰ったりしていたのだが、あれは兄の舎弟からの貢物だったのだろうか。今さらだけど、ご馳走さまでした。


「で、さっきの話だが――」


エメラルドが私の方を向き直って話し出す。エミリオくんは直立不動のままだったので、仕方なく私が空いている椅子とお菓子をおススメした。「ありがとうございます、姐さん」という声が聞こえたけど気のせいだと思うことにする。


「どうやら最近、この家の財産が神殿に納められているらしい」


全く不本意だ、と腕を組んでエメラルドは鼻を鳴らす。一方で私は予想外の話に頭がついていかない。


神殿。

中世ヨーロッパ世界で教会が重要な役割を果たしていたように、この世界にもそれに似たような祈りの対象が存在する。ただ、ゲームの中ではあくまでこの世界の雰囲気づくりの一環という認識だった。

学園の授業の前にお祈りの時間があって、それに参加するかどうかという選択肢がある。それくらいの関係だ。

因みに神殿へのお祈りを断って中庭に行くとエミリオくんという不良に会えます。


「神殿ねぇ。なんでまた」

「実は、伯爵家は毎月神殿に多額の寄付を収めています。それがステイタスですから。アナベル家がフランベール伯爵家の分を肩代わりしているのでしょう」


私の疑問に、エミリオくんが説明してくれた。


「エメラルドを育てているのは我が家には、フランベール伯爵家の収入も入っているはずよ」


フランベール伯爵領はモザンリア王国の南方に位置する。農業・漁業はもちろんだが、何といっても有名なのは港町ソラ・シーガイだろう。世界各国の貿易の拠点となり、その町の財政収入だけでモザンリア王国中の庶民が一月暮らせるとも言われている。

当然、管理など様々な事にお金は必要だが、アナベル家が肩代わりするほどお金に困る必要はないはずだ。


「一体どれくらい寄付してんだ、あの馬鹿は」


人の父親を指して、エメラルドは呆れた声を出す。が、エミリオくんは平然と言った。


「わかりません」

「ああ?」

「っ、わわからないんですよ。寄付金なんて公表するものではないですから……みんな、お互いがどれくらい寄付しているかなんて知りません。だから、自分の家だけ極端に少なくならないように多めに払うんです」


エメラルドの睨みに、縮こまって丁寧に言い直す。


しかしそれは……

伯爵家の方々ならいつもの事だから大体の相場ぐらい知っているだろう。

ところが、我が家ではそんな情報はない。お父様はエメラルドが恥をかかないようにと相当多めに支払っていることだろう。


「クソ馬鹿お人よしめ」


エメラルドの言葉に、今度は私もおおいに頷いたのだった。

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