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Teach.6 恋のはじまりを、おしえて。

 お正月の街並み。

 確か私が小さかった頃は店なんかやっていなかったはずなのに、今なんてまるで普通の休日…いや、それ以上に大型連休中のようなにぎわいを見せている。

 親子連れは普通にいるとしても、同じくらいにカップルもちらほら。

「何を正月からイチャイチャしてるのかねぇ…」

 恋だの愛だの言っているのがバカバカしくて仕方がない。恋をすると成長するなんていうのも、信じられない。

 ついこの前のクリスマスだって、その更に1年前の同じ日に集まっていたうちの2人がくっついて仲良くデートするなんていうから、集まりに来なかったりするし。

 まったく、どうりで『恋なんて絶対しないんだからねー?』とからんだ時、反応が薄かったわけだわ。

 あ、一応ことわっておくと、別にモテないからひがんでいるというわけでもない。

 告白されたこともあるし、街中で声をかけられたこともある。

 …って、誰に言ってるんだか。

「1人でさびしそうだねぇ、お兄さんが付き合ってあげましょうか?」

 私が1人ツッコミみたいなことをしているうちにもこれだ。

「いりませんっ…って、あれっ」

「よう」

 そこにいたのは、そのちょっと前のクリスマスの集まりにいた男。

 1年前の時にもいて、なんとなく気が合って友達としての付き合いを続けている人だった。

 そんな男が、手をあげて何の悪びれもなくあいさつしてきた。

「なんというベタな登場をしてくるのよ、アンタは」

「正月に1人でカワイイ子が歩いてりゃ、声かけないわけにはいかないよ」

「何調子いいこと言ってんだか…」

「と、いうわけで。今日は付き合ってくれ」

「何が『というわけで』なんだか…」

 ツッコミをする気も起きず、同じような言葉の返し方で対応する。

「このまま帰ったって、お互いヒマなだけだろ?」

「私は私で好きにするから、ついてくるならご勝手に」

 関わると面倒そうだったので突き放したつもりだったのに、どうやら彼は肯定の言葉ととらえたらしい。

「わかった、それでいい。ついていく」

 なんてポジティブなモノの考え方をするんだろう、と思いつつ、言ってしまった以上は仕方がないので何も反論できない。

 そう、じゃあ勝手にすればいいじゃない。

 心の中でつぶやいて、私は何も言わずに歩き出した。

 

 私のちょっと後ろを、彼が歩く。

 普通は逆なはずの光景だろう、周囲の好奇な視線を気のせいかもしれないけど感じる。

 それとも、彼のことを意識している…?

 立ち止まり、振り返って彼の方を見てみる。

「どうした?ようやく人と話せる気になってくれたか?」

 …やっぱり、それも気のせいかもしれない。

「ずいぶんと時間が経つけど、よくもまあそこまでヒマしてるわね」

「それ、自分が言えるセリフだと思ってる?」

「そりゃそうだけど。私にかまってるより、もっと有意義な時間の使い方もあるでしょうに」

 彼は一瞬黙ったけれど、それは言い負かされたといった感じではなく、大きく息を吸って何かを整えようとしているだけのように見えた。

「いいや、間違いなく有意義な時間だと断言する」

「簡単に言い切ってくれるのね。どこが有意義なのよ、後ろにくっついてきてるだけじゃないの」

「後ろにくっついてきてるだけ、ね…そうとしか見てないのか」

「それ以外に何かあるはずないでしょ」

「いや、あるぞ」

 さっきから話が一向に進まない。理由を言われないと、ずっとループしそうな気がする。

「根拠を言いなさいよ、納得する理由だったら普通に付き合ってあげるわ」

「本当だな?」

「変なところで確認するのね…大丈夫よ」

 後ろにくっついてきてたのを横に置いてあげるくらいのことだっていうのが、そんなに重要なこととは思えないけど。

「じゃあ納得する理由を言ってやる」

「何もったいぶってんのよ、さっきから。早く言いなさいよ」

「なんというか、だな。お前が1人で歩いてたら男に声をかけられる可能性があるだろ?」

「は?いきなり何の話を…そもそも声かけられてもついていかないわよ」

「多少強引にでも連れてかれるかもしれないぞ」

「話をそらそうとしてもムダよ」

 先にクギをさしておかないと本当に無限ループが始まりそうで、それは時間のムダでしかない。

「いや、話はそれてないぞ。誰かに言い寄られる可能性はなるべく少なくしておきたい」

「何を言ってるの?それがなんだって…」

「ずいぶんニブいんだな、誰かに持ってかれるくらいだったら自分が持ってくって、そういう話だ」

「なっ…!」

 言葉に詰まった。何かを整えようとしていたのはこのためだったの?

 それにしてはワンクッションさえ置かず、表情も変えずに簡単に言われてる気がする。

 というか、こんなに回りくどく言われるなんて…

「さあ、納得する理由を言ったろ?これで『付き合って』くれるんだよな?」

「バカぁ!『付き合う』の意味カン違いするなっ!」

 まったく、多少強引に連れてこうとしてるのはどっちの話なのよ。

 だけど、彼のペースに既にはまってしまっている私もいる。

 きっとこれからも、そういう関係が続くのかもしれない。

 恋をして成長する、なんて今は言えないけれど、でも今思うなんとも言えないこの気持ち…胸がふるえるような感覚は、不思議と悪くはない。

 こんな気持ちにさせられているということは、たぶん、私は…

 

 だから。

 

 恋のはじまりを、おしえて。


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