Teach.3 恋のテクニックを、おしえて。
私の恋のテクニック。
男と目が合ったらちょっとだけ気付いたふりをした後、慌てるふりしてそらすのはあたりまえ。
いつも口元は上げて、にこにことしていること。
もちろん、鏡を見てその練習だってする。
それだけではなく、他にもイロイロ。そんな私の努力はいつしか周りの女の子たちにも知れ渡って、時にはどうすれば振り向いてくれるのか、そのコツを聞かれたりもする。
私がそのテクニックを普段から使っていることで、男たちは私に告白をしてくるようになっていたのだけど…私は全て断っていた。
だから女の子の間とは打って変わって、男たちの間では心をもてあそぶ悪魔のような女だというウワサが私本人にも届いていた。
「はぁ…こんなつもりじゃなかったんだけどな」
そう。私は別に、もてあそぼうとなんて思っていなかったのに。
いや、結果的にはそうなってしまったのかもしれないけど…
「おい、ずいぶん悪いウワサがたってるみたいだぞ…また誰かフったのか」
私にかかる、その声。
そう、元はといえばコイツがその元凶よ。
「知らない…勝手に仕立て上げてるだけでしょ。ゴシップ好きだもん、みんな」
「そうは言ってもな。毎回ターゲット変えて色目つかって…いくらなんでも雰囲気で気付くっての」
だけどこうして何も私に傾いてくれないと、本当に何をやってるんだかわからなくなってしまう。
そう、私はこの男が好き。
高校の時から一緒にいてその時から好きだったけれど、ずっと言えないままでいて、一緒の大学を目指すと決めた時には、
『大学に入ったら、テクニックをみがいて振り向いてもらうんだ!』
って張り切って、いざ同じ大学に入れたのはいいものの、勉強して実践したテクニックはことごとくこの男には通じなかった。
「何やってんだ、気持ち悪い」
そんなことを言われ続けた。
私は悔しくなって、こうなったら何が何でも意識してもらおうとして、なりふり構わず周りの男に気を持たせるようなことばかりして。
それで結果的には周りにカン違いさせているわけだけど…
でも、そこまでしてもこの男といったら嫉妬してくれるわけでもなく、慌てることもなく、あくまで友達としての付き合いしかしてくれなかった。
だいたい、高校の時に同じ大学を目指すって私が宣言してくっついてきているのに、私が好きになっていることを気付いていないの?
…それとも、私に気がないの?
もう本当に、誰かおしえて。
「気がないんだったらそういうのは止めた方がいいぞ。敵を増やすだけだ」
心配より、私のことをちゃんと見て欲しい。
そんなことは、今となっては直接言えなかった。
「じゃああんたはどうなのよ。なびかなかったじゃない」
そう、そのターゲットの1人目なのよ。
「バカか、そんなことされてなびくほどオレは軽くない」
「そう…なの…」
私の今までの努力が全て否定されているようにしか聞こえなくて、声があまり張れなくなる。
「ただな、ドキッとはする。おまえがそんなことをするとは思わなかったからな」
「フォローしなくたっていいわよ…どうせ気持ち悪かったんでしょ?」
「そりゃまあ、そうだ」
私から質問したとはいえ、はっきり返されるとかなりダメージが大きい。
心臓に針が刺さった気分というのはこういうことを言うんだろうな、と思えた。
「高校の時くらいの何も考えずにオレと一緒の大学に行く!なんて言ってたおまえが…その、好きだからな」
「えっ…」
雰囲気が突然打って変わるそれは、あまりにも突然の展開。
全身すみずみまでが、鼓動を打つような感覚。体が急激に熱くなる。
私が視線を向けると、彼はそむける。
「ま、何も考えずに目先のテクニックを使いまくるっていうのはおまえらしいわ。どうせやるんだったらオレだけにしとけ」
「な、何言ってんのよ、それを言うならもっと早く…」
熱い気持ちが、目にあふれた。
「悔しい気持ちばかりさせて…もう知らないんだから!」
「はいはい」
冷静に抱きかかえてくるコイツの胸の中はあたたかくて、優しい。
なんなの?最後には私のテクニックじゃなくて、コイツのテクニックにはまってしまっているの?
そう考えると、余計に悔しくなる。
私は知識におぼれて、私らしさを見失っていた。
でも、ありのままの自分を見てくれる人がいる。
そんな人が私の好きな人で良かったと、自信を持って今は答えられる。
でも、やっぱりこのままじゃ終われないから。
あなたに負けないくらい、もっと自分を磨いてやるんだから。
もちろん、それを見せるのはコイツにだけ。
だから、これからはコイツのためだけの。
本当の恋のテクニックを、おしえて。