翼のない龍と嘘のある僕の秘密
こんにちは。ChiRoL✿ちろる✿のボーカルをしています。ハルと申します。3年前に突然タイトルが浮かびました。そのあと放置しましたが、そろそろこのタイトルで曲を作ろうと思い、タイトルにある龍と僕のキャラクターを掘り下げていったら、そこそこ長い物語の骨子ができてしまったので曲と並行作業で書いてみようと思います。普段は文章というよりも短くて曲に乗せる歌詞を書いています。生暖かく見守って頂ければと思います。
【プロローグ】
昔々、森の中のそのまた奥に大きな翼の美しい龍がひとり静かに暮らしておりました。
広いその翼は絹のように軽く鋼のように強靭で晴れの日は、陽の光を受けて玉虫色に輝き
雨の日は天鵞絨のように艶やかでした。
深く輝くルビー色の瞳は慈悲をたたえておりました。
サファイアの爪は傷つけるためでなく魂を救うためにありました。
空高く舞い上がり人々の営みを遠く眺める日々でした。
ある時、人が人同士殺める諍いを始めました。
龍は王たちを招きなんども理を説きました。
異教の者も辿れば同じ人であるのに、傷つけ合うその様に龍は酷く傷つきました。
ある国の王子がある日龍を訪ねました。
龍よ、その翼を私に託してくれるならば私がこの諍いを久遠に止めるであろう、と。
龍は悩みました。
翼がなければ世界を眺めることができぬ。
しかし諍いが止まり、人々が健やかなることがいちばんの望みでもある。
7つの夜と昼、悩んだ末に龍は美しく広いその翼を王子に差し出しました。
若い王子よ、私のこの翼は私の宝だ。しかし民は私のみならず世界の宝。
どうかこの世界の宝を救っておくれ。
と。
その日から龍は深い緑の冷たい森の奥に棲む大きな蛇となりました。
大空に飛び上がり全身に光を浴びることもなく、エメラルドの鱗はいつしか苔に覆われていました。
しかし諍いは鎮まるどころか日に日に酷くなり、遠くから争いの声が龍の元に毎日届いてまいります。
龍はかつてやってきた王子に騙されたことをまだ知りません。
国を追われた人々が、この深い龍の森に迷い込み、恐れながらも助けを請いました。
「おお、大いなる異形のものよ。あなたは蛇であられるか。」
「私はかつて龍だったモノだ。」
龍は、その者たちから、異国の王子がある日、神の翼を手に入れて他の異教徒を瞬く間に滅ぼし
世界最大の王になったという話を聞きました。
龍は怒り、そして悲しみました。そして、王がいつしか得るであろう最愛の世嗣ぎから瞳を奪う呪いをかけました。
「どうか私たちをお助けください、国を追われ、棲むところももうございません。異教の王に見つかれば一族皆
殺されてしまいます。どうかお知恵とご慈悲を。」
龍はしばし思案しました。龍は物を食しませんでした。
その大きな口は世界を浄化するためにありました。
「この森は深く平安だ。しかし、いつ異教の者に見つからぬとも限らない。
少し窮屈やも知れぬが、私の中に匿うことにしよう。私の腹の中にいる間、人は老いず、飢えず、命は絶えぬ。
いずれ再び世界に平穏が訪れたならばその時に皆を吐き出そう。」
龍は一人ずつ、異教徒を口から飲み込み、腹の中に匿うことにしました。
さて。
異教徒を全て腹に収めた龍は、翼もなく、長い体はとても重く、動くこともままならなくなり、何年も、何年も
岩のようにじっとしているばかりでした。
じっと平穏の知らせを待つういつしか自分は本当に岩なのだと思うようになるほどでした。
さらに時は経ちある日。
ひとりの少年が森に迷い込んできました。
実はこの少年は、嘘をついて龍から美しい翼を奪った王の息子、ある国の王子でした。
王子は生まれつき目が見えませんでしたが、とても賢い少年で、目が見えぬことに周りが気づかないほどでした。
王子は王子であることを隠し、いつも城から出ては異教の者とも会話し、食事し、遊びに行きました。
王子は国と国がお互いに信じる神が違うという理由で民を傷つけ合うことにとても心を痛めていました。