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弔いのために


「草介さん、君自身も犯人の候補の一人として警察から睨まれていたんじゃないですか?」


「睨まれていたではなく、今も睨まれているというのが正解のような気がしますね」


この国の警察組織は半ば決め打ちで犯人を捜してしまう悪い癖がある。勿論中には優秀な人物もいるが、能力的に疑問符がつく人物がその大半を占めているだろう。

カツ子が殺される二日前に自ら別れを告げた元恋人の存在があれば、まず一番に彼が疑われているはずだ。


「事件があった夜…僕は店の主人と他の若い衆で千葉まで出掛けていました。それを主人が警察に証言してくれたのですが」


「まだ犯人だと思われてるってこと?」


「えぇ、悔しいですが…主人が僕をかばって嘘をついているんじゃないかと疑われている様ですね」


「なるほど…続けて失礼な事を聞いてしまうけれど」


「はい」


「今回の、カツ子さんの遺体探しを俺達に依頼して来たのは自分の潔白を晴らすっていう面もあると考えて良いのかな?」


彼が未だ警察から疑われているのであれば、自身の手で潔白を証明する他ないのもまた事実だ。

もし俺達がカツ子の遺体を見つけ、そこから捜査の進展が進めば真犯人が見つかる可能性だってずっと高くなる。


「いいえ、そういう気持ちで先生のところにご相談させてもらっているわけではありません。僕はただ一刻でも早く彼女を弔ってあげたいだけなんです」


「それじゃあ次、彼女の遺体が今現在見つかってない中で、彼女の生存を信じていたりはしないのかい?もしかしたらまだ生きている可能性だってあるじゃないか」


「信じたい気持ちはあります。でも警察の取り調べの中で聞いた現場の状況を考えると…悲しくて悔しくて堪りませんが」


意地の悪い質問だったと思うが、草介は落ち着いた様子でこちらに返す。


「ごめんね、うちの旦那様の言い方冷たいでしょ?腹が立ったら怒って良いからね?」


「お前は余計な事言わんで良いっ」


「二人とも、喧嘩するなら後にしてください」


「おぉすまない由紀ちゃん…それじゃあ草介さん、これは何度も警察に聞かれたかもしれないけれど、カツ子さんを殺害した真犯人に何か心当たりはないかい?」


「すいません、確かに警察からもその質問を聞かれましたが…」


「心当たりはないと」


「はい」


「彼女、田舎の出身だって聞いたけど周囲に友人とかはいなかったのかい?」


「あまり口数も多くなかったですし、静かな子でしたから、こちらの方に友人と呼べる人間はいなかったと思います。私と話してる時も友人の話題が出てきた事はありませんね」


貧しい田舎の家庭から口減らし半分で子供が働きに出される事は良くある事だ。殺されたカツ子もそういった環境で育ってきたのだろう。


「そうか、それじゃあ二人の会話ではどういった話が良く出ていたかな?」


「兄弟の話ですかね、彼女の家はたくさん兄弟がいたみたいで。よく下の弟や妹の話を聞かせてもらいました」


「草介さんは直接カツ子さんのご両親やご兄弟に会ったことは?」


「真剣な付き合いでしたけど、まだ日も浅かったですからお会いした事はありません」


「それもそうか…じゃあまた少し話が変わるけど、カツ子さんが働いていたお店のご主人は二人の交際を知っていたのかな」


「知っていたとは思います、直接そういった話をした事はありませんが、うちの店の主人とカツ子の店の主人は友人同士なので、うちの主人から話が伝わっていたんじゃないでしょうか…僕は彼女との話も主人にしていましたし」


草介が店にやって来る前に由紀から聞いた話によれば、カツ子が働く定食屋の主人というのもなかなか裕福な人物であらとの事だから、草介の主人とは金持ち同士の付き合いといったところなのだろう。

元々は貧しい武家の家系だったが、先代の主人の代から金回りが良くなり、道楽で食堂を始めたとの事だ。


冠國松といい、金持ちっていうのはこういった店を始めたくなるものなんだろうか。


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