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悲恋の始まり


「大木。大木草介と申します」


由紀からの誉め殺しを散々受けた後、ようやく俺は事の本題に入ろうとしていた。

大木草介と名乗る依頼主は、由紀から聞いていた十八歳という年齢相応の顔立ちに、まだ強張った表情を浮かべている。


「草介さん、話が随分とそれてすまなかったね。それじゃあ早速依頼の件…聞かせてもらおうかな」







依頼主は大木草介、十八歳。

町丘にある八百屋、といっても手広く商売をやっていてかなり規模の大きい店に丁稚として子供時分から働いているらしい。

一つ一つ丁寧に、それでいて必死に依頼内容を俺達に伝えてくるこの坊主頭の青年の話しぶりからは、その真面目さがしっかりと感じ取れる。

依頼の内容は由紀から聞いた内容通り、殺された少女、田中カツ子の遺体捜索であった。


「カツ子さんと草介さんが出会ったのはわカツ子さんが働いていた食堂なんだね」


「はい、あの食堂にはうちの店の主人がよく連れて行ってくれるので、その時から顔見知りになりました」


「それはどのくらい前の話なんだい?」


「今から半年程前でしょうか、カツ子が食堂で働き始めたのもその頃からのはずです」



彼等が出会ったのは今から一年前。面倒見も気前も良い草介の店の主人は草介の様な店の若い者を連れて飯に連れていくことがよくあるらしい。

その店である日偶々見かけたカツ子に草介が一目惚れをし、その日を境に毎日食堂に通い詰めて、なんとかカツ子と恋仲になったというわけだ。


「あの店、食堂って言ってもかなり高い店なんで、そこの代金だけで一月の給金ほとんど使ってしまったんです」


商売を学ぶ為に働く丁稚の給金は安い。というかほとんど小遣みたいなものだろう。

彼がどれほどカツ子に入れ込んでいたのかがよくわかる。


「それで、とうとうお金が底をつくっていう時に、一か八かでカツ子に想いを告げたんです」


「へぇ、それで恋人になれたんだね!」


人様の恋の話を聞きながら目を輝かせる幸。これぐらいの年頃ならばそういうものに興味があるのだろう。


「いいえ、その時は振られてしまいました」


「えっ!振られちゃったの?」


「はい、私には恋なんて出来ませんって」


その時の事を思い出してか、草介が苦笑いを浮かべる。


「それでも諦めきれなくて、何度も何度も想いを告げて…それで今から半年前にようやく」


「なんか良いなぁ…ねっ、旦那様?」


「いや、俺にはそう言った真似到底出来ないな」


「でしょうねっ」


「それで、そこから彼女が亡くなるまでの二ヶ月間、恋人同士として過ごしてきたと」


「亡くなるまで…ではありませんね」


亡くなるまでではない、何か含みのある言い方をするじゃないか。

瞬間、由紀の方に身を向けると、彼女自身も知らないのであろう首を小さく横に振って返して来た。


「正確に言うと彼女が亡くなる二日前に、彼女から別れを切り出されているんですよ僕は」


「えぇっ⁉︎また振られちゃったの?」


場の雰囲気を読めない幸が大袈裟なぐらいに驚く。


「ほう、それはまた何故?」


「わかりません、別れを告げられた時に僕も聞いたんですが…もう会えませんの一点張りでした」


「なんか可哀想…」


由紀から前もって聞いていた話では、彼等は恋人同士であり、その恋人の無念を晴らすためにせめて死体であっても見つけてやりたいというものだと解釈していたが。


「そうするとね草介さん、少し失礼な事を聞くかもしれないけど良いかな?」


俺は草介に問いただす。




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