金髪の少女は青ざめる
「えぇっと、一応確認なんだが」
「はい」
「したいってのは死んだ体と書いての死体で間違い無いんだよな?」
「はい、間違いありませんっ」
探しものぐらいの仕事だろうと踏んでいたが、探すは探すでもまさか死体とは驚いた。幸も相当びっくりしたのだろう、口は塞がらないし目もキョロキョロとさせている。
「犬とか、猫の?」
とは言っても人のしたいとは限らない、何より人の死体ならばそれこそ俺達ではなく警察の出番じゃ無いか。
わざわざ俺達に出してくる仕事ということを考えれば動物の死体の可能性が高い。
「いいえ、人の死体なんです」
人?人ってのは人間様の事を言っているんだよな由紀ちゃん。
「ちょっと待ってくれ⁉︎人の?人の死体探しの依頼だって言うのか⁉︎」
声を張り上げた俺に店内の客の視線が集まる。それなりに混んだこの場所で聞こえる言葉としてはいささか不味いか。
しかし人間の死体探しとは一体どういう事だ。
「先生っ、あんまり大きな声では」
「すまんすまん…いやしかし、人の死体っていうのはどういう事なんだよ由紀ちゃん」
「ですから死体を探して欲しいという依頼があるんですよ、人間の死体です」
「あっ、幸なんだかお腹痛くなって来ちゃったみたいだから帰るね?」
「腐った魚食って一人だけピンピンしてた奴が何言ってんだ、座れ」
死体探しと聞いて一目散に逃げようと席を立った幸を早々に俺が止める。
一ヶ月前に痛んだ生魚を食べた俺と麗子二人はその日から二日間酷い目にあったのだが、どういうわけか幸だけはピンピンとしていたのだ。
そんな幸が急に腹痛なんて起こすわけが無い。
「ホントだもん!ホントに痛いんだってぇ」
なおも腹痛を主張する幸の首元を掴んで無理矢理元にいた席に座らせると、途端に聞きたくなくなって来た依頼の詳細を由紀に問いかける。
「話が読めないんだが、何でもいいから死体を持って来いって言う事か?」
「そういう事じゃなくてですね、殺人現場から消えた死体を探して欲しいみたいなんです」
「さっ、殺人…」
いつも無駄に元気なくらいの幸が、殺人なんていう恐ろしい言葉を聞いた途端に青ざめた顔をする。一方いつもどちらかと言えば気弱に見える由紀は死体だの殺人だの平然と言ってみせるのだから、人は見かけによらないものじゃないか。
「もしかして、町丘で起きた殺人事件の事か?」
「やっぱり先生はご存知でしたよね」
今から大体三ヶ月ぐらい前だろうか、寿町から路面電車で少し行ったところにある町丘という地域である殺人事件が起きた。
殺されたのは町丘の食堂に住み込みで働いていた15歳の少女。未だ犯人も見つかっていないのだが、何より奇怪なのはその少女の遺体が見つかっていない事。
「まぁ死体が見つからないなんていう変な事件だったし、騒ぎにもなったからな」
「え?そんな事件あったの?」
「お前は世間の事に興味が無さすぎるんだよ、少しは勉強しろ」
「むぅぅ…」
未だ顔を青ざめさせながらも俺の一言に頬を膨らませる幸。コイツはいっつもむくれてるな。
「でも待って!今旦那様、死体が見つかってないって言ってたよね?それなら何で殺人事件になるの?まだ生きてるかもしれないじゃん」
「まぁ、この話だけ聞いたらそうなるな」
「でしょでしょ?」
「それがですね、その殺された女の子が寝ていた部屋に夥しい血と斬り落とされた腕が落ちていたんですよ」
「おっ、おおお夥しい血と腕…」
またもや恐ろしい言葉をサラリと言ってのける由紀と、それを聞いて今度は顔が紫になるんじゃないかというぐらい狼狽える幸。
由紀が言った通り、この事件では殺されたであろう少女のものと思われる血と腕しか現場では見つかっていない。
「腕は…確かその子の腕に生まれつき大きなあざがあったんだっけか?それでわかったと。血は人が死ぬには十分な量。その日を境にその子も居なくなったって言うならそりゃあ警察もそういう判断をするだろうな」