探しものはなんですか
「話は変わるけど由紀ちゃん、俺たちがここに来たっていうのは何も仕事から逃げて来ただけってわけじゃないんだよ。もし何か手伝えそうなモノがあったら紹介してもらえないかと思ってさ」
そう、何もただ麗子から逃げて来たわけではない。俺達は定期的に冠氏からの紹介による依頼を解決してなんとか生活しているのだ。
「あっ、お仕事ですよね?一応あるにはあるんですけど、先生に頼んで良い仕事なのかどうか…」
「この際仕事の大小は問わないよ、そんなこと言える身分でもないしな」
「でもでも…やっぱり先生にこんなお仕事頼んで良いのか」
由紀が申し訳なさそうにこちらの様子を伺う。余程小さな仕事なのだろうか、いつもと少しばかり様子が違うように見受けられる。
飼い犬探しや、猫探し。依頼内容はこんなところだろうか。
「由紀ちゃん!今はどんなに小さなお仕事でもやらなきゃまずいの!そのお仕事紹介してもらえないかな?」
仕事の話となると眠たそうな顔になる幸がえらくやる気を見せている。
「おぉ、幸。珍しく仕事に対して積極的じゃないか…」
「だって、仕事しないとずっとおやつ抜きなんだもん」
「まぁ、そんな事だろうと思ったけどな」
「旦那様だっていつまでも隠れて珈琲飲むのは嫌でしょ?」
「そりゃそうだな…ビクビクしながら飲む珈琲はいつもの美味さの半分にも満たん」
「ね?早く仕事を見つけて、麗子さんに許してもらわなきゃだよ」
まさか、幸に仕事の事でとやかく言われる日が来るとは思わなかったが、しかしこれは正論だ。
一刻でも早く仕事を見つけなければ麗子に何を言われるかわかったものじゃない。無論その間の珈琲は表立っては飲めなくなる。
「…と、いうわけなんだ由紀ちゃん。なんとかその仕事を俺達に紹介してもらえないかな?」
「そこまで、おっしゃるなら…でも、もし私の話を聞いて嫌だと思ったら断って頂いても構いませんので」
「大丈夫だよ、どんな仕事でも大船に乗ったつもりで紹介してくれ」
「時々おマヌケさんだけど、旦那様は名探偵だからね!大船だよっ大船っ!」
「誰がおマヌケだっての」
「旦那様のことだよーっだ」
「生意気言うのはこの口か?」
大人を間抜け扱いする小娘にはそれ相応の教育をせねばならない。
俺は右手に持っていた珈琲をすぐに机に置いて立ち上がると、向かいの席に座っていた幸の左頬を抓り上げる。
「いひゃい!いひゃいひょっ!」
「痛い事されるお前の口が悪いんだぞ、幸」
「しゃちひゃひゃるきゅにゃいみょんっ!ひょんとにょきょとにゃみょんっ!」
幸は悪くないもん、本当のことだもんと仰っているご様子。これはいけない。
「口が減らないな、幸」
「いひゃいいひゃぃっ!ぎょめんにゃさいっ!ゆるひへっ!」
「せ、先生っ!幸ちゃんのほっぺ取れちゃいますよ!」
「どっちが間抜けかわかるまで続けてやろうかと思ってさ」
「もう!そんな意地悪しないで、手を放してあげて下さい!」
これ以上やると由紀ちゃんにも怒られかねない。そう思った瞬間に幸の頬から手を離す。
「酷いよ旦那様ぁっ!ほっぺ伸びちゃったよぉぉ…」
幸が今日二度目の涙を目にたっぷりと浮かべながらこっちを睨む。
朝から頭に頬にと本当に忙しい奴だなコイツは。
「自業自得だ」
「うぅ…」
「おっとすまんすまん、それで由紀ちゃん、仕事の話だけど」
「あっ、はいそうでした、お仕事の内容なんですけど」
由紀の態度からして、そう大きくも厄介でもない仕事なのだろう。
きっと幸の頭にも俺が今しがた思い浮かんだ飼い犬か猫探しなんてところが思い浮かんでいたんじゃないだろうか?
「えっと、その…」
そう、由紀の口から飛び出たこの言葉を聞くまでは。
「死体を見つけて欲しいんです」
「「えっ?」」
うむ、前言撤回だ。