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恋愛短編~1~

作者: 鬼灯 一夏

「あ、あのっ」

 聞き覚えのある声にふっと振り返る。 視線の先には小さい頃からずっと一緒だったあいつが、妙に緊張した面持ちで立っていた。 けれど私の顔を見た途端、力が抜けたようにへにゃへにゃと緩み、いつもの顔のぽけーっとした能天気な顔に戻る。

「なんだ、お前かよ…」

「お前かって何よ、私が悪いみたいじゃない」

 とんだ因縁のふっかけだ。 こちとらただ廊下を歩いていただけなのに、なぜ私が悪者のような扱いを受けなければならないのか。 そんな私の心情を理解できるはずもなく、あいつは普段の調子で口を動かす

「紛らわしいんだよ、バッサリ髪切りやがって。 中学もずっとロングだったじゃねえか」

「なに? 切っちゃ悪いわけ? イメチェンすらやっちゃいけないんですか私は」

「そういう意味じゃねえよ! ただなんでショートカットするん―」

 そこまで言った瞬間、しまったという顔をしながら慌てて言葉をつぐみ、視線をどこか遠くに逸らした。 あまりにも不審な行為に、後ろを振り向くと私と同じくらいの髪の長さの女の子が自分のクラスに入っていくところだった。

「ははぁ…そーゆーことね」

 ちょっと引いちゃうくらい悪い笑みをあいつに向けると、心底嫌そうに眉を寄せた。

「へぇーあの娘ね。 ふぅーんふぅーん、中々いい趣味してんじゃん」

「あぁくっそ…本当最悪…。 お前こういう時だけ変に勘働かすのやめろって」

 勘を働かすまでもないことは言うまでもないことなのだけれど、それに気づかせてしまっては面白みがなくなるというものだ。 

「まあ色恋で惚けるのもいいけれど、想い人と幼馴染の区別くらいきちんとできるようにね」

「ばっ!? 声がでけえんだよ!」

 一瞬で耳まで真っ赤になったあいつを笑いながら自分のクラスに向けてまた歩き始める。 

 けれど、途中零れそうになる涙をなんとかこらえて人気のない教室に駆けこんだ。

 知ってる知ってる。 全部知っている。 決まった時間に外をみているのも、用がないのに廊下に出ては誰かを探すようにしていることも。

 何気ない動作の一つ一つが私の心に深々と突き刺さり、大きく切り裂かれた。 あっちじゃない、私を見てほしいのに…。 近すぎる距離感は関係を変えることが難しい。 昨日までは抱き合うことはできても、今日は肩がぶつかるだけでも意識が変わってしまう。

 関係が崩れることを恐れた私は、姿を真似た。 視線の先のあの娘に。 そうすれば私を見てくれると思って、またいつもの話ができると思って。

 その行動は逆に、私の中の何かを完全に壊すことになってしまった。 全部知っていたと思っていた私の傲慢にも似た優越は見たこともないあいつの表情一つで崩れてしまった。 どんな顔をして前に立てばいいのかさえもわからない。 この心のぐちゃぐちゃした感情が嫉妬なのか、悔しさなのかもわからない。 ただただ苦しい。 どうしようもない思いだけが渦巻いている。 どうすればいいのかわからない私は、答えを求めるようにあいつの前に立つのだろう。 たとえそれが自分を一番傷つけることになるとわかっていても、私は笑顔で笑い続けるしかないのだから。


 







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