求めるは平穏なる“夜”
・千堂陽子は勤務先のフラワーショップで一息入れながら、今日の夕食の献立を考えていた。
(冷蔵庫にじゃがいもと豚肉があったわね。じゃあおかずは肉じゃが......)と、そこで陽子の脳内プランは止まった。
(今日は学校午前中で終わるから、胡蝶ちゃんがやっててくれちゃうかしらねえ。)
夫が亡くなりはや12年。その後妹の協力もあって、一人息子の陽太をどうにかここまで育て上げた。
胡蝶が来てから、年頃の陽太は少し戸惑った様だが、夫がなくなってすぐの頃よりずっと家の中が明るくなった。
胡蝶自身は、それほど明るくも快活でもないが、自然に周りを明るくする様な、そういう才能がある。
我々家族のにおける胡蝶の必要性を最も強く感じているのは、他でもない陽子だろ
仕事中だからだろうか。おそらく家で待っているであろう妹や子供たちに無性に会いたくなる。
そういう時に限って、残業する日だったりするのだ
(母親の悲しい定めね。あーあ、早く夜になって、残業終わらないかなー。)
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同時刻、陽子の妹、夕日は、パジャマにはんてんを羽織ったままで、パソコンに向かっていた。
書き途中のファンタジー小説の原稿締め切りが、目前に迫っていたからだ。
ー異世界に飛ばされた主人公が、自分の使命を探して冒険する......。
本音を言えば、自分自身はこの作品が好きじゃない。
人の気持ちを汲み取れない無作法な主人公。
自分の短所を愚痴っている様で、一文字書くのも辛くなる。
甥っこ達はまだ中学生。頑張ればいくらでも成長できる。
自分はというと、気づけば三十目前。時期に体も動かなくなるだろう。
いい出会いもなく、このまま姉の臑齧りながら孤独に死んで行くのかな......。
お日さまがキライな陽太の気持ち、今ならよく分かる。
分け隔てなく皆を照らす様に見えるが、実はそうでもない。
太陽は、私みたいな外がキライなヤツに辛く当たる。
その光が心地いいのは、私と違い、誰に対しても明るく、優しく振る舞えるヤツだけだ。
まして太陽は、死の間際に自分を求めた姉の夫を見捨てたのだ。
太陽を拝む必要が無いように、最近の原稿は全て、担当編集者にメールで送っていた。
席を立ち、部屋の窓際に寄る。カーテンの向こうに広がっているのは、雲一つなく、太陽だけが輝く青空。
いつからだろう。この景色がたまらなく憎たらしくなったのは......。
(カオを出すなよ、私はお前なんか大嫌いだ。早く沈め、夜になれ......!!)