独白
0(2).独白
呆気ないものだ。
形あるものいつかは崩れ去る、とはよく言ったものだが、よもやこれほど容易いとは……。
俺が信じたこの世界は何だったのか。王が、市民が、ーーこの地球に住まう生物たちが生きる明日は、天上人の気まぐれで無かった事にされるような、紙切れに書かれた走り書きだったのか。
「どうして、こんなことに……」
荒れ狂う烈風と矢の如く流れる閃光に恐れをなし、産み落とされたばかりの子鹿よろしく動けなくなった人間の男が呟く。
彼らの視線の先には、"この世のものではない何か"が浮かんでいた。俺には形容できないーーが、いつだったか、彼女が話してくれた神話上の存在によく似ている気がした。たしか、名前は……
「"天使"、か……ノア、君が言った通りだ」
二対の翼を生やした異形の高位霊体を前に、その者の名を知る俺以外は皆、心中こう思っているようだ。
(化け物!)
(こっちに来るな)
(ーー人殺しっ)
そうではない、違うんだ。俺が言うのは簡単だ、だが、そうとする確かな証拠はなかった。
遠くの方で、自衛団が天使に攻撃を開始する合図を放った。止めろっ、と叫ぶ間隙もなく、魔法による攻撃は天使を覆い隠すように着弾・破裂した。しかし、膨大な魔力の塊たる高位霊体相手に、人間の魔法などそよ風に過ぎない。そして物理攻撃もまた、実体が無い故に一切効果がない。つまり、俺達には対抗する手段が無いのだ。
「ノア、どうしたら……俺は、どうすれば助けられるんだ?」
無駄と知りつつ、俺はもはや返されることもない言葉を投げかけた。もちろん、答えてくれる声はなかった。