前置
0(1).前置
地球に対するイメージとして適当なものは?
上の設問が、2000年代初頭の高等学校入試として……他人の概念を問う問題が正しいかはこの際置いておくとして、出題されたこの問いに純粋に解を出すとするなら、大方、以下のような回答が得られるだろう。
青い。緑がある。人が住む。生き物が存在する。丸い。……
哲学や物理学の難しい知識を考慮しないで考えるのなら、これらの主観的イメージは決して間違いではない。たとえ己が見た具体的なイメージでなくても、おおよそ、それは地球の外観にそぐうものである。
厳密には、『そぐうものであった』という過去表現になるのが、西暦2199年になる現在では正しいのだが。
今から、150年程前の出来事である。(説明しやすいように)2016年の生活水準と比較しても大した違いもないその時代において、歴史を丸ごと覆すような大変動があった。第三次世界大戦ではない。もっと大規模で、恐ろしいほど凄惨な歴史だ。
ユーラシア大陸を構成する一国家が消滅したのは、その年の12月下旬であった。コマ落ちした映画を見ているようだったと、消失した国家の隣国に住む老夫婦は後に語っているが、実際に国境を映した監視カメラは、その前後で抜け落ちたコマが無いかを探したくなるほど信じがたい映像を記録していたのだ。しかし事態は、それだけで留まることはなかった。
その後も不可思議な消滅は相次ぎ、クリスマスにはついに、ユーラシア大陸そのものが地球から姿を消した。最初の消失から一週間も経たないうちに、地球五大陸の一つが、はじめから「そんなものはない」と言わんばかりに大海原へと変わってしまったのだった。
謎の大陸消滅現象により人間たちの生活基盤は大きく揺らぎ、生活水準は戦時中と同じかそれ以下に低下する事となる。但し、人々が貧しさを感じる暇は、正直なところ無かっただろう。
二十二世紀を後一年と少し残した2199年7月下旬。
人類が生活する大陸は、確認されていない。
モノローグに続きます。