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乱れた秩序と新たな覚悟 前編

小炉奈&衛パートのボス戦 前編になります

 ジュー…


 香ばしい香りと共に聞こえてくる音が途切れていた私の意識を刺激する。部屋の時計を見ると午前6時半過ぎ、外から入ってくる日差しが部屋を明るく照らしていた。私は立ち上がると音のする方へ行ってみる。


 「お!小炉奈ちゃんおはよ!今、朝食作ってるからもうちょっとだけ待ってて!」


 キッチンには衛が居て何やらコンロで焼いている。良く見ると分厚い牛肉だった。昨日までは無かった食材に私は疑問を抱いた。


 「このお肉どうしたんですか?昨日は無かったですよね?」


 「ああ、この肉か?ギアをいじってたら、なんか出てきた」


衛はギアを私に見せながら操作した。所持品の欄からアイテムのアイコンをタッチすると幾つかのアイコンが出てきた。そこから牛肉のアイコンをタッチすると目の前に生の牛肉の塊が現れた。


 「な!凄いだろう?」


 「そうですね…マジックショーでも見てる感じです…」


 私は素直に驚いた。私も自分のギアを操作してアイテム欄を見てみる。そこには牛肉×4 牛の角×2 石のかけら×6個がアイテム欄に入っていた。


 「モンスターを倒すと食材やアイテムが手に入るみたいですね」


 「なるほど、だからアイテム欄に肉がいっぱい入ってたのか。沢山あるしこれなら当分食事には困らないな」


 衛は嬉しそうに笑うと次々と肉を焼いていく。私はキッチンの隅にある段ボールを見つけた。中には傷んだジャガイモや人参などの野菜が入っている。


 「お肉だけじゃなく野菜も取らないと体に良くないですよ」


 私はその野菜を取り出して流し台で野菜を荒い傷んだ部分を包丁で丁寧に取り除いていく。傷んだ部分を取り除いたら皮をむいて一口サイズに刻んでいく。


 「へぇ~、小炉奈ちゃん料理出来るんだ」


 手際の良い私の行動に衛は感心しながら様子を見ていた。


 「まぁ…簡単な事なら誰でも出来ますし…」


 褒められて嬉しい気持ちを隠しながら作業を続ける。しばらくすると、匂いに釣られたのか寝室から葉月と弥生も起きてきた。


 「兄ちゃん、小炉奈お姉ちゃんおはよぉ」


 「まもにぃ、ころねぇおはよ…」


 二人は眠たそうな目を擦りながら挨拶した。


 「葉月くん、弥生ちゃん、おはよう」


 「おぅ!二人とも顔洗ってこいよ?それまでに飯用意しとくからさ」


 葉月と弥生は洗面所に向かっていった。私の料理も後は煮込むだけになった。衛が焼いた肉と私の作った料理を皿に盛りテーブルに置いていく。


 2人が戻ってくると4人でテーブルを囲んだ。テーブルの上の料理を見た2人は


 「お肉!」「肉ぅ!」


 「肉じゃが!」「じゃが!」


 2人は嬉しそうに食べ始めた。それを見た私達も食事を始める。私は自分で作った肉じゃがを食べてみる。若干芋が固い…煮込む時間が少し足りなかったかもしれない…私が一人で自分の料理を評価している周りでは「美味しい!」と言って肉じゃがを食べる3人の姿があった。


 「私的には50点ですが皆が喜んでるので良しとします…」


皆が食べ終えた皿を流し台で洗いながら今後の行動を話し合った。


 「これからどうしますか?」


 「そうだな、とりあえず避難所に行ってみるか」


 「昨日通った学校の避難所ですか?」


 「ああ、知ってる避難所だとそこが一番近いと思うし」


 「わかりました。じゃあ荷物まとめたら出発しましょう」


 私は昨日お風呂に入る時に洗った服が乾いてるのを確認するとたたんで鞄へ閉まった。その他にも衛に承諾を得て日用品も少し分けてもらい鞄へ詰める。


食料はアイテムとして手に入れた肉があるので持たなくても良さそうだ。そのため鞄はそんなに圧迫されず生活用品を入れる余裕が出来たのは大きい。


 準備が出来た順番に玄関に集合する。私が玄関に来てすぐに葉月と弥生もやって来た。葉月の背中のリュックにはフライパンの柄らしきものが見えている。弥生の鞄からはぬいぐるみの足が見えていた。


 最後に家の戸締りを確認した衛が出てくる。私は1日お世話になった家を、衛は数年暮らした家に背を向け歩き出した。


 少し歩くと道路には石牛が何体か歩いている


 「昨日倒したのにまた出てくるのかよ」


 「一定時間でリホップ、つまり復活するみたいですね」


 「後で囲まれるのも嫌だし面倒だけど全部倒していくか」


 「ちょっと待ってください」


 木刀を構え敵に突っ込もうとする衛を私は止めた。


 「ここから先、しばらくは私が敵を倒します」


 「ん?構わないけど何かあるのか?」


 「作戦とかそういうのではないのですけど、私は召喚士サモナーなのは知ってますよね?」


 「ああ、でっかい鉄の巨人に命令して戦ってたのは知ってるぞ?」


 「昨日も言いましたけど私の戦闘は目立ちますし避難民が居るところでは周りをパニックにさせてしまうので召喚しづらいです。仮に召喚出来ても避難民が多数居る中では召喚したモンスターをうまく動かせる自信がありません」


 「なので人目が気にならない今は私が戦って避難所が近くなったら衛さんに頑張ってもらいたいんです」


 「なるほど、了解。それじゃあ戦闘は小炉奈ちゃんに任せるよ。一応危ないと感じたら俺も動けるようにはしとく」


 「はい。その時はお願いします」


 「召喚サモンアイアン巨人ゴーレム!」


 私の言葉と共に目の前に2体の鉄巨人が姿を現した。それを見た葉月と弥生は目を輝かせていた。


 「カッコイイ!」 「おっきぃ!」


 「避難してる皆もこの子達のように受け入れてもらえれば苦労しないんですけどね…恐怖が先行してしまう大人の方には厳しいかもしれないですね…」


 私は少しだけ苦笑いした後、気持ちを切り替え鉄巨人に指示を出す。


 「いくよイッシー、ゴレオ、目の前の敵を殲滅して!」


 「随分可愛い名前付けるんだな小炉奈ちゃんは」


 隣で笑う衛を無視して私は2体のゴーレムに指示を出し立ちはだかる敵に向けて前進させた。


 7体目の石牛を倒した辺りで避難所である小学校への案内看板が見えた。私はゴーレムの召喚を解除して衛さんと交代した。交代してから学校までの距離を警戒しながら進んだが敵は出てこなかった。


 「敵…居ませんね…」


 「だな…居ないのは良いことだが全く出ないのは逆に不気味だな…」


 警戒しつつ進むと校門が見えてきた校門の前には3人の男達が立っている。私達が近づくと1人が校舎の方へ走り残りの2人はバットや料理包丁を構えたが小さな子供を連れているのを見ると武器を下した。


 「君たちは避難民かい?」


 「ああ、あんた達がここを守ってるのか?」


 「いや、俺達は見張り役だ。モンスターや知らない人達が来たらリーダーに知らせる事になっている」


 「なるほど、それでさっき1人校舎に走っていったのか」


 衛と見張り役の人が会話していると校舎の方からさっきの男と老人が1人出てきた。その老人を見た衛が笑顔で駆け寄る。


 「小鉄師匠!無事でしたか!」


 「おお!衛、おぬしも無事でなによりじゃ」


 「小鉄さんの知り合いでしたか!?」


 「こやつはわしの弟子じゃ」


 衛と小鉄さんが知り合いだとわかると男達はこちらへ頭を下げてきた。


 「先ほどは武器を向けてすみませんでした。まさか小鉄さんの知り合いとは…昨晩から不安に駆られた人々が暴動を起こしてるとネットの情報で流れていたもので、つい厳しい対応を取ってしまいました」


 「仕方ないですよ。見張りがしっかりしないと非難した人達が安心して暮らせませんからね」


 頭を下げて謝る男達をフォローした。彼らは自分達の役割を果たしたにすぎない。むしろ厳しく取り締まってるからこそここはまだ安全な場所を保てるんだ。


 向こうから男が一人走って来た。汗だくの男は息を切らしながら小鉄さんに駆け寄る


 「小鉄さん北側の方に4体のモンスターが現れたようです!至急撃退お願いします!」


 「わかった。すぐ向かおう」


 「師匠!俺も行きます!」


 男が来た方向へ駆け出す2人を私も追いかけた。


 学校の北側に着くと4体の石牛が門を塞ぐように置いてあるスクールバスに体当たりしていた。石牛が突進するスクールバスの裏側では男達が6人がかりで押し返していた。


 「おぬし達よく堪えた!下がっておれ!」


 小鉄さんが来たのを確認すると男達は喜びバスから逃げ出した。支えが無くなったスクールバスは石牛の突進で押し戻され門とバスの間に隙間が出来た。すかさずそこから4体の石牛がなだれ込んでくる。


 こちらに向かってくる石牛に小鉄さんが腰に付けた刀に手を掛け構える。


 「風牙流剣術!舞風!」


 振り抜いた刀身が見えなかった。鋭い4つの斬撃は4体の石牛の鎧を一撃で砕き後方にあるバスの側面に激突した。しかしギアを付けていない攻撃のため石牛のHPは減っていない。


 「風牙流剣術!舞風!」


 さらに4つの斬撃が4体の石牛を襲う。今度は石牛のHPが減りOになり消滅した。小鉄師匠の隣では衛が木刀を振り抜いていた。


 皆でバスを押して開いた隙間を再度塞ぐ。見張りを何人かに任せて校舎の中へ進んだ。


 職員室に入ると男女が十数人居た。手にはバットやノコギリなどを持っていて皆の視線が私達に集まる。


 「早速ですまんが衛よ、おぬしはどうやってあのモンスターを倒したのじゃ?」


 「それはですね…」


 私達はギアの存在とギアで集めた情報を皆に教えた。話を聞いた男性が職員室の隅にある段ボールからギアを取り出す。未使用のギアは全部で5個見つかった。職員室に居たメンバーのほとんどはすでにギアを身に付けている。


 「この未使用のギアは各方角の見張りに1つずつ渡して残りの1つは小鉄さんでどうだろうか?」


 男性の意見に皆頷いて答える。ここに居る誰もがそれが一番良いと判断した。さっきの戦闘を見た私もそう思う。衛でさえ石の鎧を壊すのに4回の攻撃が必要だった。だけど小鉄さんは1回の攻撃で石の鎧を壊し石牛を吹き飛ばした。


 「わしはこんなハイテクな機械使いこなせんぞ?」


 「大丈夫ですよ師匠。登録して身に付けるだけで敵にダメージを与えれます」


 衛の指示に従って小鉄さんは登録を始めた。周りの人達はギアを使った情報収集を始めている。私もギアを操作して情報を集めた。しばらくして女性の人が1つの掲示板を見つける。


 「ねぇ、ここに書かれてるボスを倒すと周囲のモンスターが消えるって書き込みがあるんだけど?」


 皆の視線が女性のギアに注目する。そこには大きなモンスターを倒した映像とギアのアナウンス、地図にあるエリアの色が赤から緑に変わってる画像が張り付けてあった。


 「つまりこのエリアに居るボスを倒せば周りの敵は現れなくなるという事ですな!?」


 「おお!早速ボスとやらを探しましょう!」


 職員室に居る皆の表情が明るくなる。モンスターに怯える事が無くなるかもしれない…という期待が皆に希望を与えた。


 「さっそくボスの情報を集めよう!」


 男性の掛け声と共に皆がギアを操作しこのエリアのボスの情報を探す。しばらく調べた結果いくつかの情報が上がった


 「集めた情報をまとめるとボスはここから10キロ離れた牛尾アイランドに居るらしい、目撃情報によると巨大なワームで敷地内を徘徊していたらしい。大きさにして約12メートルくらい、今わかってる情報はこれくらいだ」


 「急いで討伐の準備をしましょう」


 「戦力はどうする?ここも守らないといけないし送り込めても10人ちょっとが限界だぞ」


 皆で作戦を考えていると衛が小鉄さんの方へ近づく。


 「師匠はここを守ってください。ボスは俺が倒しに行きますので」


 「なんじゃ?わしでは役不足か?」


 「その逆です。守りが薄くなるからこそ切り札の師匠はここを守ってほしいんです。実際ここの人達は師匠を頼っています。それに師匠が居てくれれば葉月や弥生も安心だと思います」


 「葉月と弥生は他の子供達と教室で遊んでいる。師匠が守ってくれるなら此処は一番安全な場所になる、安心して戦闘に集中出来る」


 衛の意見は正しい。私達がここに来た時も真っ先に呼びに行ったのが小鉄さんのところだった。だから私も衛の意見に賛成する


 「小鉄さんボスは私達が何とかします。それまでここの人達を守ってください」


 「うむ…皆が言うなら仕方ないのぉ…必ず戻ってくるのじゃぞ」


 「はい!」「わかりました」


 「それじゃあ討伐組は各自車に乗り込んで下さい」


 5人1チームを3組作り各自車に乗った。私と衛は行動を共にしていた事もあって同じチームになった。

運転席に座る男がこちらを向く。


 「俺はこのチームのリーダーを務める森塚もりづか 賢治けんじだ。今回の作戦必ず成功させるぞ」


 「九重ここのえ まもるです。皆さんよろしく!」


 「私は水瀬みなせ ともえあなたが小鉄さんのお弟子さんね。期待してるわ」


 「僕は楠木くすのき 拓真たくま…今から緊張してきた…」


 「安藤あんどう 小炉奈ころなです。足を引っ張らないよう頑張ります」


 自己紹介を終えると森塚が車のエンジンを掛ける。門付近を見張っていた人達が周囲を見渡し敵が居ないのを確認すると門を開けた。森塚はアクセルをゆっくりと踏み徐々に車を加速させる。


 門を出た車3台は徐々に学校を離れていく。目標はボス討伐、これからの戦いは逃げるための戦いではない。平和を取り戻すための攻めの戦い…不安と期待を胸に私の乗った車は戦場へ向かった…

次回は小炉奈&衛のボス戦 後編 になります今回投稿までに少し時間が空いてしまいましたが次回もよろしくお願いします

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