表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

即席チームとフィールドボス 後編

プロローグ含めて7話目です 今回は戦闘中心になります

 前方から来る2匹のリトルスパイダーを熊谷が2本の斧で薪を割るかのように真っ二つに切っていく。さらに現れたリトルスパイダーの額に3本のクナイが刺さる。蜘蛛は動きを止め砕け散る。


 前方上空から2羽のブレードイーグルが急降下してくる。斧を振り下ろした熊谷とクナイを投げ終わった塁目がけて突進してくる。接近してくる1匹のブレードイーグルの頭が銃声と共に吹き飛ぶ。


 もう1匹のブレードイーグルの突進を塁は短刀で受け止めそのまま地面へ叩きつける。


 「なかなかやるじゃないか」


 「熊谷さんこそ綺麗に敵が2つになってたっすよ!」


 互いの安否を確認しつつ戦闘態勢を維持する。


 「後方から鷲が3羽来ます!」


 陣形の中央に居る杏が後ろに居る僕と由利に叫ぶ。僕はすぐさまこちらへ急降下してくるブレードイーグルに向かって魔法をぶつける


 「詠唱:フレアボール!」


 巨大な火の玉が鷲へ飛んでいく左右のブレードイーグルは火の玉をなんとか躱したが中央のブレードイーグルは避ける事が出来ず直撃する。激しく燃えた鷲は一瞬で灰になった。


 火の玉を躱すために横へそれた鷲の翼に矢が命中する。バランスを崩した鷲はそのままビルの壁へ激突した。反対側に逃げた鷲も大和の撃った5発の弾丸の内1発が鷲の翼を撃ち抜き地面へ落ちた。


 「なかなか当たらんもんやな、由利のホーミングスキルわいにも欲しいで」


 由利さんのスキルには標的を追跡する必中スキルがある。ただしこのスキルを発動してると敵に与えるダメージが極端に下がる。この弱点は僕達がフォローすることでなんとかなる。由利さんが敵の動きを鈍らせ僕達が仕留めれば何の問題もない。


 「そうかな?私は大和さんの跳弾スキルも魅力的だと思うけど」


 大和さんの跳弾スキルは、弾丸が壁や地面を反射出来るようになるスキル。目標の前に障害物があってもこのスキルで弾を反射させて目標を狙うことが出来る。反射は3回まで可能で反射する度に威力は落ちる。銃は射程距離が長く連射も出来るため複数相手でも戦える。弱点は弾のリロードに時間が掛かるのと弾の消費が激しいくらいだ。


 「隣の芝生は青く見えるっちゅうことやな」


 大和がリロードしながら前方へ向きを戻すとさらに蜘蛛が3匹姿を現した。


 「にしても敵多すぎやで!こりゃあ全然前へ進めへん」


 「さらに上空に鷲5羽来ます!」


 大和が愚痴をこぼしてる横で葵が叫んだ。


 僕は考える。戦闘が始まって十数分、ボスが居るツインビルまではまだまだ遠い。個人差はあるが人間の集中力は15分が限界。このまま戦えばこっちが不利になるのは間違いない…一旦撤退して違う作戦を考えるべきか…


 僕が考え事をしていると上空から轟音が鳴り響く。その轟音は僕達の後方から聞こえ振り向くと1機の軍用ヘリがこちらへ接近してくる。


 ヘリに取り付けられた機関銃で上空のブレードイーグルを次々と撃ち落とす。


 ゲーム外の武器であるため穴だらけになったブレードイーグルは徐々に修復されていく。それでも復帰までには少し時間が掛かるらしい。その間にヘリからロープが垂れ下がり、迷彩服を着た人達が数名降りてきた。


 「我々は自衛隊だ!掲示板を見て加勢に来た!」


 男達はライフルやマシンガンを乱射し敵の進行を阻止する。僕は男達を見てギアを付けていないことに気付く。


 「ギアを付けるかゲーム内武器を使わないとあのモンスター達は倒せないです!」


 僕の忠告に男達は視線を敵に向けたまま答える


 「ああ、問題ない!我々の目的は君たちをボスまで送り届ける事、敵の足止めさえ出来ればそれでいい!」


 モンスターにダメージは入っていない。だけど彼らの連携はモンスターの動きを完全に封じている


 「やっぱり自衛隊はかっこいいっすね!」


 塁は自衛隊の方を見て目をキラキラさせていた。塁は自衛隊に憧れて将来は自衛隊になるのが夢なんだっけ…今目の前の彼らを見たら僕も入隊してしまいそうなくらいかっこよかった。


 「君たちこっちへ!」


 彼らが案内したのは狭い路地を少し進んだ路地裏だった。周りはビルの壁に覆われて行き止まりになっている。


 「行き止まりやないか!こないなとこきて何すんねん?」


 自衛隊は大和の質問に行動で答える。ひとりの隊員が暗視スコープを付けて地面のマンホールを外して中へ入る。他の自衛隊メンバーはライフルのスコープを外してライトを取り付け次々マンホールの中へ入っていく。一人の隊員が無線を使う。


 「こちらチームアルファからチームベータへ これよりチームアルファは下水道を通りボス付近のF地点へ移動する」


 「こちらチームベータ、了解!我々は燃料と弾薬を補充しに一旦戦闘を離脱する」


 「了解!チームベータはこちらから指示があるまで待機!」


 「チームベータ、了解!」


 何度か会話を交わした後 ヘリは周囲の蜘蛛へ弾丸の雨を浴びせた後、旋回して来た道を戻っていった。


 下水道の中へ入った僕達は一旦装備を整える。消費した矢や弾丸を大和さんの鍛冶で補充する。


 「だいぶ火薬が少なくなっとるな…鉄と木材はぎょうさんあるんやけどな」


 「そう言えば火薬はどこから手に入れたの?鉄や木材はわかるけど火薬を落とすモンスターなんて居たっけ?」


 僕の素朴な疑問に大和は眼鏡を中指でクイッと上げる


 「わいの家な代々続いとる花火師なんや。夏祭りとかで上がるあれもわいの家で作っとるんや。昨日何か武器になる物がないか倉庫に行ったんや。その時に由利が「打ちあがる前の花火を見れる機会なんて滅多に無い」言うてギアで記念撮影したんや、そしたら写した花火が消えてアイテム化してな、あの時の由利の顔おもろかったで」


 「仕方ないでしょ…いきなり目の前にあった花火が消えるんだもん」


 「まぁそんな感じで火薬をゲット出来たっちゅう話や」


 なるほど、そうなるとまた火薬を取りにその倉庫まで戻らないといけないのか…僕が不安そうにしていると自衛隊のメンバーが「爆薬ならあるがそれでは駄目か?」と提案して来た。試しにC4をギアで撮影してみると…


 「いけるみたいやな。しかも花火よりも多い火薬が手に入るで」


 大和は早速弾丸を作り始める。その間に僕達は自衛隊の人達と作戦を練る。


 「さっき言ってたF地点ってどこですか?」


 「ボスが居るツインビルの200メートル手前の路地裏、だいたいこの辺りになる」


 自衛隊の隊長は地図を広げて指をさす。向こうからは死角でいきなり襲われることは無さそうだ。後はボスの種類次第か


 「事前に集めた情報だとボスは巨大な蜘蛛ってことになる。僕がしる限りで巨大な蜘蛛は2種類居ます。一つはキングスパイダー。体長は8メートルで力と装甲が高いがHPが少ない、皆で一斉に攻撃すればごり押し出来るボスだと思う。もう片方は…」


 僕はここで言葉が詰まる。歯切れの悪い僕の言葉に熊谷さんが口を開く


 「もう片方はなんだ?」


 「もう片方はクイーンスパイダー、体長は10メートルでこっちはかなり厄介です。出来ればキングの方であって欲しい」


 「補充終わったで、まぁ実際どっちかは見てみるまでわからんし先に進んでみん事には始まらんやろ」


 大和の意見に皆頷き移動を再開する。十分くらい歩いたところで隊長が地図を確認する。


 「ここがF地点だ、我々が先に出て安全確認をする」


 自衛隊は手際よくマンホールをずらすと次々と外へ出て行った。数秒後「安全確保!」の掛け声の後、僕達は地上へ出た。僕はボスの名前を確認するために路地から顔を出した。200メートル先には巨大なビルが2つ並んでいる。近くで見るとより大きく見えるビルの間に僕達が戦うべきボスが居た。


 その頭の上にはクイーンスパイダーと表示されていた。周囲の巣には糸に絡めとられた人達も居る。


 最悪だ…よりによって面倒な方のボスと当たるなんて。僕は急いで皆の元へ戻った。


 「ボスはクイーンスパイダーでした。ごり押しの作戦が出来なくなりました」


 「そんなに厄介なのか?どう違うのだ?」


 僕の渋い顔を見た熊谷さんが聞いてくる。


 「クイーンスパイダーは力も装甲もあまりありません。その代りHPがかなり高いんです。今の話だけだとごり押し出来そうに見えるかもしれませんが、クイーンスパイダーには特殊な体質があるんです」


 「ダメージを受けると体内に卵を形成してHPが20%を切ると大量の蜘蛛を産みだすらしいです」


 「大量ってどれくらいっすか?」


 「少なくとも50匹のリトルスパイダーが発生したって戦った事がある人が言ってた。当然チームは全滅して復活地点からやり直したらしい。あくまでゲーム内で得た情報だけど…」


 「もしそれが本当だとしたら私達じゃ対処出来ないよ」


 由利の顔が青ざめる。無理もない、数体相手にするだけでも胃がキリキリするのに50匹を超える数が襲ってきたら絶望的だ。


 「何か方法は無いのか?生まれる前に倒すか生まれた蜘蛛を倒す方法は?」


 「無いわけじゃない…範囲攻撃が撃てる数人で囲んでひたすら範囲攻撃をしていれば倒せる」


 今この場に範囲攻撃が出来るのは僕だけ、しかも1度使うとMPが無くなり続けて攻撃することが出来ない。何より固定型のスキルは動いている敵に当てにくい。


 僕は自衛隊の人が持っていた地図とギアの地図を見比べる。考えろ…このまま何もしないで時間が過ぎれば被害は広がる。迷ってる暇は無い。


 「僕に考えがあります」


 僕の発言に皆が注目する。ここから先はリスクの高い賭けになる。それでも僕達はその賭けに挑まなければいけない。


「まず大和さんと由利さんは近くのビルの屋上に行ってください。あんまり近づくとボスの攻撃が届くので100メートル以上離れた場所からの攻撃でボスのHPを50%まで削ってください」


 「50%を切ったら蜘蛛の目が緑から赤に変化するので攻撃を一旦止めて待機」


 「HPが50%を切ったらボスは巣から降りて地上に来るので、自衛隊の人達はさっきのヘリで蜘蛛の糸に絡めとられた人達を救助して下さい」


 「杏さんと葵さんも救助の手伝いをお願いします」


 「はい」 「わかりました」


 その間、由利さんと大和さんはヘリの護衛をお願いします」


 「わかったわ」 「ええで」


 「熊谷さんは由利さんの周りに来た敵を駆除してもらいます。大和さんの方にも自衛隊の方を最低1人は配置してください」


 「ああ、了解した」 「2人配置しよう」


 「あと僕が指定した場所へC4を設置欲しいんです。場所は地図のここへ4つほど」


 「我々が設置しよう」


 「最後に塁、君にはこの作戦の一番の要をお願いしたい。降りてきたボスを引き付けて時間を稼いでほしい。糸に絡めとられた人達の救助、爆弾の設置までの時間とそこへの誘導…出来るか?」


 「自分は先輩の期待に応える…それだけっす!」


 「20%を切った時はどう対処するんだ?」熊谷が心配そうに聞いてくる


 「僕がまとめて吹き飛ばします!」


「爆破のタイミングは君に任せる 我々はギアを持っていないのでこれを君に預ける」


 隊長は僕へ無線を渡した。僕の指示でそれぞれの配置へ移動する。準備が整うと大和と由利の攻撃が始まる。体の中で一番大きい腹部めがけて矢と弾丸が撃ち込まれる。攻撃を受けた蜘蛛は糸疣いといぼから糸を飛ばしたり口から毒液を飛ばしてくる。しかし150メートル離れた2人にその攻撃は届かなかった。


時間を掛け少しずつボスのHPを減らしていく。しばらく攻撃していると蜘蛛の目の色が赤へ変わった。それを見た大和と由利は攻撃を止める。蜘蛛は糸を伝って下へ降りた。


 「さぁ鬼さん…じゃなかった蜘蛛さん、鬼ごっこに付き合ってもらうっすよ!」


 「スキル:三連クナイ!」


 下で待ち構えていた塁が蜘蛛へ攻撃する。蜘蛛は目の前に居る塁めがけて突進してくる。塁は攻撃の手を緩めず次々とクナイを投げながら移動を開始する。


 「チームベータからチームアルファへ 我々はこれより巣に絡めとられた市民の救助を開始する」


 「こちらチームアルファ、了解した」


 自衛隊は巧みなヘリ裁きで命綱を取り付けた自衛隊が巣から市民を救助していく。救助するヘリの周りにブレードイーグルが集まってくる。由利が必中スキルを使って鷲に矢を当てる。矢が当たった鷲は軌道を変え由利めがけて突進してくる。


 「悪いがお前の相手は俺だ」


 由利めがけて飛んできた鷲を熊谷は斧で真っ二つにする。


 大和も由利に続こうと銃を撃つがなかなか当たらない。「チッ」っと舌打ちした大和を見て護衛していた自衛隊の一人が大和の後ろに立つ


 「動いてる相手を狙う時は相手の行動を先読みして狙わないと当たらないぞ。相手の行動パターンを予想してその先を狙って引き金を引く」


 言われた通り相手を観察しその先を予想して撃った。弾はブレードイーグルの頭に命中する。自分の思った通りに敵が動き自分の撃った弾丸に敵が吸い寄せられたかのように当たる


 「これめっちゃ気持ちええやん」


 「良い腕だ。次も頼むぞ」


 後ろでアドバイスをくれた自衛隊がほほ笑む。大和は由利の負担を減らすべく次々とブレードイーグルを落としていく。


 ツインビルから遠ざかりながら塁は進行状況を確認する。ヘリの救助は思いのほか順調だ。後は自分が指定した場所へこのボスを移動させるだけ。塁が作戦を確認していると毒液が飛んできた。


 「おっと危ないっす!」


 塁はバックステップで毒液を躱す。あまり離れすぎると標的が変わってしまうため塁は常に相手の射程距離内に居ないといけない。長い足を掻い潜り目標地点へ敵を誘導する。

 

 100メートル先に幸一の姿が見えた。幸一は交差点の向こう側に立っている。塁は焦らずゆっくりとその距離を縮めていく。幸一とすれ違い様に塁はハイタッチをしながら


 「何とかしたっす。後は頼みますよ先輩!」


 クイーンスパイダーの標的が塁から幸一へ変わる。幸一との距離を詰めたクイーンスパイダーは交差点中央へ進んだ。それを確認した僕は無線で叫んだ。


 「一斉爆破!」


 僕の掛け声と同時にクイーンスパイダーの足元にあったC4が爆発する。近くに居た僕も爆風に巻き込まれるがなんとか踏ん張る。土埃が舞う中には足が吹き飛んだクイーンスパイダーの姿があった。


 「由利さん大和さんありったけの攻撃お願いします」


 救助を終えたヘリが現場を去ると同時に援護から攻撃へ切り替える。蜘蛛の足を吹き飛ばしたのはC4のため蜘蛛の足は修復されていく。


 「あかん…敵のHP削りきれへん!」


 蜘蛛の足が再生し立ち上がった瞬間、クイーンスパイダーの足元が崩れそのまま下へ落ちた。


 「あれはさっき俺達が通った下水道が?」ビルの上から見ていた熊谷が様子を窺う。


 「でも下水道の奥へ逃げられたらやばいんとちゃうか?」大和が不安げにつぶやく。その様子を見ていた隣の自衛隊が


 「なるほど、考えたな。さっき爆破したのは下水道の通路の上、つまりあのモンスターを下へ落とすと同時に通路を塞ぐ一石二鳥の作戦というわけか」


 土埃が晴れ開いた穴の下には瓦礫に埋もれるクイーンスパイダーの姿があった。再度動けない蜘蛛目がけて大和と由利の攻撃が降り注ぐ。敵のHPが20%になると蜘蛛のお腹に亀裂が入る。それを確認した僕は蜘蛛へ手を向ける。


 「スキル:ブラック…」


 僕がスキルの構えをすると蜘蛛の上空へ黒い球体が現れる。黒い球体は徐々に大きくなりお腹に亀裂が入った蜘蛛の体を包み込んでいく。黒い球体に包まれた蜘蛛の動きが止まる。


 「バースト!!」


 僕の叫びと共に黒い球体が弾け飛ぶ。強烈な突風が周囲を駆け抜けていく、周りの注目が穴へ集まる。穴の中には黒い球体に収まらなかった蜘蛛の足の先が数本残ってるだけで蜘蛛の本体は跡形も無く消滅していた。クイーンスパイダーとの決着を理解するよりも早くギアから音が鳴り響く。


 「双子市のフィールドボスが撃破されました。これより双子市の戦闘エリアを解除します」


 アナウンスが流れると同時に地面を這っていたリトルスパイダーと空を飛んでいたブレードイーグルが砕け散る。


 周囲に居た仲間達が集まる。まだ実感がない勝利に熊谷が周りを見渡す


 「終わったのか…?」


 「どうやら終わったみたいっすね」


 自然と皆の顔に笑みがこぼれる。アナウンスが本当ならこの双子市のモンスターは全部消えたことになる。僕達はこの都市をモンスターから救ったんだ。


 ふと交差点の中央に開いた穴を見る。そこには蜘蛛の姿はもう居ない。瓦礫だけがそこにあった。


 「あれ…?あの瓦礫ってクイーンスパイダーと一緒に黒い球体に包まれたはずじゃ…」


 目の前にある瓦礫は確かにさっき黒い球体に包まれていた瓦礫だった。瓦礫は無事でモンスターだけ消滅した?このマスタースキルはモンスターだけに効くスキルなのか?それにボスのHPはまだ19%近くあった。それが一瞬で消滅した…まだまだこのスキルには僕の知らない効果があるみたいだ。こうして僕達の最初のボス攻略戦が終わった。


 「自衛隊の皆さんはこれからどうするんですか?」


 「我々は各シェルターに避難した市民を解放しにいく」


 「え?ジェルター?」


 聞き慣れない言葉に由利が聞き返す。


 「ああ、最初に揺れが起きた時にテレビでシェルターに避難するようにテロップと速報を流してるはずだが?」


 自衛隊の質問に僕達は…


 「僕はネットを見てました」「自分も先輩とネットを…」 「俺は朝練で道場に居た」「私も朝練してたかな」「わいは部屋で寝てたで」「私達も部屋で寝てました」


 誰一人テレビを見ていなかった…


 「ボス退治に協力してもらったので僕達も市民の解放手伝いますよ。戦闘エリアが解除されたとはいえ、本当にこの都市のモンスターが消えたか確認したわけではないので…塁もそれでいいよね?」


 「もちろんっす!自分はもっと訓練とかの話も聞きたいし賛成っす!」


 「それは助かる。良ければ力を貸してほしい」


 こうして僕達はシェルターに避難した市民の解放を手伝うことになった。シェルターは全部で7か所、チームアルファとチームベータの二手に分かれて解放する。僕達はチームアルファのメンバーと一緒に近くのシェルター3か所を見て回ることになった。


 最初のシェルターはツインビルから700メートル離れた駅の地下にあった。入口は分厚い壁のような扉

になっている。自衛隊の人がカードを機械に通し目の前の画面に指を押し付け指紋認証する。


 「この扉は暑さ50センチの分厚い鉄の板を2枚重ねにして、その2枚の隙間に衝撃を吸収するジェルを流し込んだ耐震と衝撃に特化した防壁になっている」


 自衛隊の人はシェルターの説明をしながら先へ進む。僕達は周りを見渡しながら後を付いていく。シェルターの扉は2段式になっていて同じ作業をもう1度繰り返し2枚目の扉が開く。その向こうには沢山の人が居た。


 「おお!ネットで見たよ!モンスターを退治してくれたんだってね 本当にありがとう!」


 僕達の顔を見るなり沢山の人達が押し寄せてきた。周りを見渡すと150人くらいの人達がこのシェルターに避難したみたいだ。自衛隊の人達はゆっくりと丁寧に地上へ誘導する。


 全員の移動が終わったのを確認したら次へ移動する。次の場所は…


 「まさか自分達の学校の地下にもシェルターがあったなんて…灯台下暗しっすね…」


 僕達は苦笑いする。まさかこんな近くに避難場所があったなんて…よく考えてみれば校舎は壊れてたけど人の影は全然なかった。皆外へ逃げたんじゃなく地下へ逃げたのか…


 2枚の扉が開くとそこには200人くらいの生徒と数名の教師の姿があった。安堵してる人も居れば衰弱してる人も居る。僕と塁は自衛隊の人達と一緒に動けない人達を手当てし地上へ運んだ。


 手当に少し時間が掛かったが、なんとか全員の移動が終わり最後のシェルターへ向かう。最後のシェルターはオフィスビルの地下に設置されてるらしい。さっそく地下へ降りていく。


 「なんかここ錆臭くないっすか?上のビルは新しいのに地下はジメジメしてるっすね」


 僕はさっきの2か所と少し雰囲気が違う事に気付いた。確かに空気が重いというか変に静まり返っているって感じだ。1つ目の扉が開いた時、嗅ぎ慣れた臭いが僕の花を刺激する。


 「先輩…この臭いって…」


 「ああ…多分塁の予想通りだと思う…」


 塁の顔が険しくなる。自衛隊のメンバーも銃を構え2つ目の扉へ向かう。中の様子を警戒しながらロックを解除して扉が開く、そこには…


 「ここで一体何があったんだ…」


 部屋には大量の血が飛び散っていた。あちこちで血まみれで倒れている人達は誰一人動かない。


 「モンスターが入って来たんっすかね?」


 塁の言葉に僕は首を横に振る。


 「この都市に現れたモンスターは蜘蛛と鷲、でもこの人達の死因は鈍器で殴られた跡や胸にナイフが刺さっている…どうみても人の手で殺されてる」


 「ああ そうだ、このシェルターは内側からは簡単に開くオートロック式になっている。外から侵入された形跡が無い以上 この死体を作ったのは中に居た人と言うことになる」


 自衛隊の皆も険しい顔で死体の山を見る。絶望に顔を歪めた表情ばかりの顔、ここで何があったのかは僕達にはわからない。だが一つだけわかることがある


 「人を襲うのはモンスターだけじゃないって事か…」


 僕達は死体の山を弔ったあと熊谷さん達と合流して先ほど見た光景を伝える。


 「皆で力を合わせないといけない時に何をやっているのだ…」「そんな…人が人を襲うなんて…」 


 熊谷さんは呆れていた、由利さんは信じられないという感じの顔をしていた。大和さんは少し考えた後に口を開いた


 「モンスターが居なくなったとは言え、まだまだ安心出来へんっちゅうことやな、播間さんはこれからどう動くんや」


 「僕は…両親が心配だから実家に一旦戻ろうと思う。親は昔ながらの人でギアとか苦手らしくて付けてないんだ。だから直接会って安否を確かめたいんだ」


 「なるほどな、ならワイらはここで自衛隊の手伝いしながら様子見た方がええかもな」


 「そうだな、俺らはしばらくここで自衛隊の手伝いをする。都市の復旧には人手が必要だしな由利、杏、葵もそれでいいか?」


 3人は熊谷の提案に首を縦に振る。


 「自分は先輩に付いて行くっすよ!」


 「ありがとう塁、心強いよ」


 僕はギアを操作しメッセージ機能を使う。相手はコロさんへだ。僕達が手に入れた情報をまとめて送る。最後の一文には「人間同士の争いもあるみたいだから気を付けて」と添える。


 「先輩!出発は明日にして今日はあの拠点で休もうっす!」


 「そうだな、何だかんだであの場所は居心地が良かった。今日はあの拠点で泊まるか」


 僕達の最初のボス戦が終わった。モンスターから解放された人々は取り戻した平和を喜ぶ。しかし新たな脅威が息を潜めている現状に気付いてる人は少ない。僕達はより一層気を引き締めて「敵」と戦わなければいけないと心の底から思った。


次回は小炉奈&衛パートになります

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ