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即席チームとフィールドボス 前編

プロローグ入れて6話目です。前回、次は戦闘多めと書きましたが思ったよりも長くなりそうだったので前編と後編に分ける事になりました。今回は準備回となります。

 時刻は午前6時30分、僕は朝の日差しが差し込む階段の踊り場に居た。


 本当は6時で起こす予定の塁を寝かせたまま僕は背伸びをする。昨日の出来事が夢のような静かな朝を迎えていた。このまま何事も無かったかのように一日が過ぎるんじゃないかと期待したが、僕の期待は簡単に裏切られた。


 「パァーン!」


 近くで銃声が聞こえた。銃声は1発だけじゃなく何発も聞こえてくる。音はデパートの正面駐車場から聞こえてくる…もう少し寝かせてあげたかったけど急いで塁を起こす。


 「おい!塁起きろ!近くで誰かが戦ってる音がする!」


 寝ている塁の肩を揺する。ゆっくりと目を開けた塁は…


 「あれ…先輩なんで自分の部屋に居るんっすか?あ、そうかこれは夢が…先輩が自分のことを名前で呼ぶのはおかしいっすからね…」


 完全に寝ぼけている。


 「お前が名前で呼んでほしいって言ったんだろう!とにかく目を覚ませ!」


 僕は塁の頬をつねった。


 「イタタタタ!!あれ?夢じゃない!?」


 塁はようやく目が覚めたようだ。僕は急いで状況を説明する。


 「起きてすぐで悪いけど近くで誰かが戦ってるみたいだ。様子を見に行きたい。もしかしたら一緒に戦ってくれる仲間になるかもしれない」


 僕の説明を聞いた塁はすぐに状況を把握し「了解っす!」と言って上着を羽織った。動きやすいようにリュックは踊り場に置いて外へ出る。外では5人の人影が4匹の蜘蛛と戦っていた。蜘蛛の頭にはリトルスパイダーと表記されている。しかし実際のサイズは1メートルサイズの巨大な蜘蛛だった。


 「あれ詐欺っすよ!全然小さくないし!」


 隣で塁が蜘蛛を指さして叫んでる。確かにリトルと言うには大きすぎる。


よく見ると戦ってるのは5人中3人だけみたいだ。1人は両手に斧を1本ずつ持ち、1人は銃を構え、もう1人は弓を持っている、残りの2人は少し離れた場所で座り込んでいた。


 斧を持ったがたいが良い男が前線で蜘蛛と戦い、メガネを掛けた男が後方から銃を構え、弓を持った女が周囲を警戒しているみたいだ。


 弓を持った女がこちらに気付く、続けて戦っていた男二人もこちらに気付いた。


 しかし、こちらに気を向けた隙をついて1匹の蜘蛛が男達の横をすり抜け座り込む2人に襲い掛かる。僕はとっさに手を蜘蛛へ向け呪文を唱える。


 「詠唱:フレアボール!」


 僕の手から直径1メートルサイズの火の玉が放たれる。最初に塁と会った時に取った魔法スキルで使うのは今が初めてだ。使った僕もびっくりの特大な火の玉が蜘蛛目がけて飛んでいく。


 2人の方を見ていた蜘蛛は避けれるはずもなく蜘蛛の大きさと同じ火の玉が直撃する。一瞬で蜘蛛は燃え尽き跡形もなく消滅した。座り込む2人へたどり着いた僕は怪我が無いか確認する。


 「大丈夫?怪我はない?」


 僕が声を掛けると両手で顔を隠し下を向いていた2人が顔をあげる。


 「はい 大丈夫です。ありがとうございます」


 あれ?この子達どこかで見た記憶が…僕が座り込んだ子達を見ていると残りの3匹を倒した3人がこちらに駆け付ける。両手に斧を持った男の顔を見て思い出した。学生寮の前で会った人達だ。


 後ろからやって来た2人は僕達の顔を見て気まずそうな顔をする。


 「やぁ、また会ったね」「あんたらとはよう会うのぉ」


 弓を持ったポニーテールの女の子と眼鏡を掛け銃を背負った男が挨拶する。昨日の別れ方があまり良くなかっただけに気まずい空気が漂う。その空気を払うように斧を持った男が口を開く。


 「さっきは助かった。仲間を助けてくれてありがとう」


 「間に合って良かったです。とりあえずデパートの中に入りませんか?またモンスターが襲ってきても厄介ですし、色々話したいこともあるので」


 僕が提案すると5人は頷く。デパートへ向かおうとすると眼鏡を掛けた男が斧を持った男に声を掛ける。


 「大将、木材を少し補充したいので木を何本がお願いできますか?」


 「ああ、構わんぞ」


 男は手に持ってる斧で駐車場脇に生えてる木を伐採していく。切られた木は跡形もなく砕け散る。手早く2本の木を切ると僕達の居る方へ戻って来た。僕と塁は5人を自分達の拠点へと案内する。


 「へ~手製にしてはよー出来とるなぁ」


 眼鏡を掛けた男がトラップやバリケードを関心しながら見渡した。踊り場に着くと先ほど戦闘で座り込んでいた2人を座らせる。疲労が溜まっていたみたいですぐに寝てしまった。僕は2人を起こさないように残りの3人を2階へ案内した。


 「まずは自己紹介からが良いかな?僕は帝桜大学4年の播間はりま 幸一こういち、そしてこっちが…」


 「3年の白石しらいし るいっす」


 「俺は4年、熊谷くまがい 代地だいちだ」


 「わいは3年のたちばな 大和やまとや」


 「私は2年の桜井さくらい 由利ゆりよろしくね」


 「ほんで、向こうで寝とるのが1年の佐々木 あんずあおい、双子らしいで」


 自己紹介が終わると僕は一番気になっていたことを聞いてみる


 「3人が持ってる武器はどうやって手に入れたんですか?」


 最初に会った時は何も持っていなかった。けど今は斧や銃、弓矢を持っている。どれも現実世界で見た事が無い物ばかり、僕の疑問に大和が答える。


 「これはわいが生産スキルで作ったんや、わいのサブ職は鍛冶やからな」


 大和はギアを操作すると目の前に金床と金鎚が現れた。さらにギアを操作すると光の球体が現れた。その球体を金鎚で叩いていくと徐々に形を変え最終的には銃へと形を変えた。それを見た僕と塁は驚く。


 「今のどうやったんっすか?」


 興味津々の塁に大和は説明を加えながらもう1度やってみせた。


 「まずは生産スキルの武器作成を選択するんや、そうすると金床と金鎚が出てくる。金床の枠にアイテム欄から素材をタッチして枠へ移動させるんや。セットした素材で作成可能な武器一覧が出てくるさかい、そこから作りたい武器を決定して金鎚で叩けばその武器が出来上がるっちゅうことや」


 「大将、さっき取った木材少しもろうてもええか?」


 「ああ、今取り出す」


 「おおきに」


 熊谷がギアを操作すると目の前にさっき切った木材が現れる。目の前の出来事に僕は驚かされる


 「これどういう仕組みになってるんですか?」


 僕の疑問にポニーテールの由利が答える


 「私達もよくわからないんだけど、モンスターを倒すと素材が、木を切ると木材がデータ化されてアイテム欄に追加されるみたいなの。私達も最初はびっくりしたけどね」


 「大将の斧はブレードイーグルの羽6枚と木材で、由利の弓は木材とさっきの蜘蛛から手に入る糸、わいの銃はブレードイーグルの羽3枚で作れるで。わいと由利は弾と矢も作らなあかんけどな」


 「そうそうこれも知っといて損はないで、ギアの写メ機能やけど素材を写すとデータ化してアイテムに出来るで。ただし他人の所有物や生き物はデータ化出来へんみたいやけど」


 試しに僕は携帯食とミネラルウォーターを撮影してみる。すると目の前から食料と水が消えデータフォルダーに画像が追加される。そしてその写真を開くと目の前に食料と水が現れる


 「これかなり使えるね。一度に大量の物を簡単に運べる」


 リュックに必要最低限の物だけ残して後はデータ化すれば移動もかなり楽になる。僕が色々考えていると熊谷が小声で僕と塁に話しかけてくる。


 「こうしてお前たちに助けてもらうことになるとはな、昨日はすまなかった」


 熊谷は申し訳なさそうに小さく頭を下げた。昨日とは違う態度に僕も慌てる。


 「いや、突然の出来事だったしパニックになっても仕方ないですよ。実際僕も昨日は何も出来ずに塁の後を付いて歩くのがやっとでしたから」


 僕は苦笑いしながら熊谷を見る


 この人も僕と同じ常識人なのかもしれない。最初塁が彼らと会った時モンスターと戦ってたらしい。仲間を守るために必死だったんだ。だから見捨てた塁に怒鳴ったし僕にあんな事を言ったのかもしれない。


 「熊谷さん僕達が得た情報によると、この双子市にフィールドボスが居て、そのボスを倒すと都市が解放されるらしいんです。良かったら一緒に戦ってもらえませんか?」


 この人達とならボスが相手でも心強いと思った。それは向こうも同じ意見らしく


 「わかった、共にボスと戦うのは賛成だ。しかし1つ条件がある」


 思わぬ返事に緊張する。しかし熊谷からの条件は意外なものだった。


 「昨日のお前たちの行動は忘れる だからお前達も俺の言った事を忘れてくれ」


 「手を組む以上、小さなわだかまりも無くしたい。たった一つの不安要素が大きな亀裂を生む事もある。俺はそんな事で仲間を失いたくない」


 僕は昨日の彼と今の彼の違いの原因が何だかわかった気がした…


 「その条件と今ここに居ない2人と関係あるんですか?」


 僕達が最初に会った時、彼らは7人だった…だけど今は5人しか居ない。それに異常に怯えていた2人も気になった


 「一人は死んだよ 二人1組で見張りをしてる最中に敵に襲われた。鷲を警戒するあまり空ばかり見て暗闇に潜む蜘蛛に気付かなかった。」


 「すぐ助ければ死なずに済んだのかもしれない。だがもう一人は蜘蛛の糸に絡めとられた仲間を見捨てて逃げ出した。俺達が駆け付けた時には地面に転がる死体が1つあるだけだった」


 「俺のミスだ。力のバランスばかり気にしたせいで仲があまり良くない2人をペアにしてしまった」


 「最悪な事に死んだ一人は佐々木 洋介ようすけと言って杏と葵の兄なんだ。それ以来2人はモンスターに出くわすと怯えて足がすくんでしまうらしい」


 「大和と由利は逃げ出した仲間を追おうとしたが俺が止めた。仲間を殺したモンスターがまだ近くに居るかもしれない。一人を探すために他の仲間の命を危険にさらすわけにはいかなかった。こうして俺達は一晩で2人の仲間を失った」


  自分のミスで仲間を失った…それを後悔したからこそ今の熊谷さんが居るんだ。もう同じミスで仲間を失いたくない、その強い意志がさっきの条件に結びつくんだ。


 「わかりました 昨日のことは忘れます だから僕達に力を貸してください」


 僕は彼に手を差し出す。熊谷は差し出した僕の手を握る。


 「ほな、これからの作戦考えなあかんな」「そうだね今度はこっちから攻めていこうよ」


 僕達の会話をこっそり聞いていた大和と由利がこちらに近づき握った僕達の手に手を重ねた。その後集まった5人でお互いに持ってる情報を交換しつつ今後の行動について話し合う。


 「まずはボスの位置を特定しないといけない。何か良いアイディアはないですか?」


 「ギアを使ってネットで情報を集めるのはどうっすか?」


 「私もそれ思ったけど情報が多すぎてどれ信じればいいのかわかんないのよね…」


 僕と塁と由利が頭を抱えながら考える、その様子を見た大和が


 「情報が多いなら絞ったらええんとちゃうか?検索機能にあるローカルエリアに絞ればこの辺の情報だけ見れると思うで」


 「それだ!」×3


 僕達は顔を見合わせた後ギアの検索機能をローカルエリアに絞る。すると都市中央のビルに巨大な蜘蛛が巣を作っているという情報が書かれていた。周囲の情報も少し載っている。投稿された動画には巣の近くに大量のリトルスパイダーがうごめいている映像が映っていた。


 「さすがにこの数はきついんじゃないっすか?」


 映像を見ただけでも20匹以上の蜘蛛がビルまでの通路を塞いでいた。僕達のチームは戦えるのが5人…しかも戦えない2人を守りながら戦わなければいけない。塁の判断は正しい。


 「一応ボスと戦ってくれる人が居ないか募集を掛けてみよう」


 掲示板に僕達のこれからの行動を書き込む。その横で塁がつぶやく。


 「なんだが本当にゲームのクエストやってる感じっすね…ちょっと不謹慎かもしれないっすけど」


 時刻は午前8時前、作戦が決まった僕達は出発を10時に決めた。それまでは各自自由に時間を使うことにした。


 熊谷さんと由利さんは踊り場で寝てる2人と一緒に睡眠を取ることにした。塁と大和さんは4人の見張りをしつつ鍛冶で何かを作っている。


 そして僕は一人屋上に居た。ボスと戦う前に知っておきたいことがあったからだ。僕の視線はギアを見たまま空へ手のひらを向け呪文を唱える。

 

 「詠唱:フレアボール!」


 大きな火の玉は空高く飛んで行った。僕はまだギアを見続ける。数秒後ギアから視線を外した。


 「フレアボールのMP消費は500でMPの回復量は3秒で99か…」


 僕が今使える攻撃は2種類、今のフレアボールとブラックバーストのみ この2つでボスと戦わなければいけない。僕の攻撃はMPを消費する攻撃ばかり、ちゃんとMPを管理しないと肝心な時に攻撃が出来ず命取りになる。


 「今の感じだとMPの回復は3秒で1%ってところか…MPを使い切ってから再度フレアボールを使うには18秒必要になる」


 これはかなり痛い…戦闘時の18秒は長すぎる。たった1秒で勝敗が分かれる事がある以上MP切れだけは避けたい。そうなるとMPを全部消費するブラックバーストは簡単には使えなくなる。とりあえずMPを切らさないように立ち回らなければいけない。


 屋上から戻ると塁以外の皆が寝ていた。僕が近づくと塁が手招きをしてくる。僕が近づくと小声で


 「先輩、見てください…さっき大和さんに作ってもらったっす」


 塁は嬉しそうに短刀を2本見せてきた。刀身は30cmくらいで柄は黒でシンプルなデザインだ。塁の腰にはベルトがあってそこに短刀を収納する鞘も付いていた。


 「元気なのは良いけどボス戦前に燃え尽きるなよ…」


 テンションが上がってる塁に釘をさしておく。出発までもう少しだけ時間があったから僕は塁に見張りをお願いして休むことにした。


 時刻は10時、デパート入口には7人の姿があった。最初はここの拠点に隠れさせようと思った杏と葵だったが「皆の役に立ちたい」と強く言ってきたので同行することになった。


 実際、怯えてる人達の方が周りのちょっとした変化にも気づきやすい。僕達みたいに戦う力がある人ほど一瞬の油断が生まれる事がある。


 デパートから一時間ほど歩いた先に都心が見えてきた。周りはビルだらけで大きな迷宮に迷い込んだかのような感覚になる。ビルの群れの向こうにひときわ大きな建物がある双子市のシンボルと言われている高さ60メートルのツインビルが見えてきた。


 「どうやら簡単には通してくれそうにないみたいだ」


 熊谷さんが斧を構える。その先には3匹のリトルスパイダーと2羽のブレードイーグルが待ち構えている。僕達は素早く陣形を組む。


 前線に熊谷さんと塁、その後ろに大和さん、中央に杏さんと葵さん、その後ろに由利さんと僕がしんがりとして構える。


 「前線は俺と白石に任せろ!しんがり頼んだぞ由利と播間!」


 「わいも居る事忘れんといてくださいよ大将!」


 こうして僕達即席チームによるボス攻略戦が幕を開けた

次回 ボス攻略戦の後編になります。

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