職種と役割
プロローグ入れて5話目です。今回は幸一&白石パートになります
「後で裏切られて後悔してもしらんぞ」
「……ぱい… 先輩?」
心配そうにこちらを見てくる白石に僕はようやく気付いた。
「あ、ごめん考え事してた…何か用?」
「いえ 先輩顔色悪そうなので少し休憩しようって言ったっす」
学校を出てまだ1キロくらいしか歩いてない。その間、会話はなく黙々と歩き続けていた。白石は周囲を警戒しつつ僕の様子も見ていたらしい。
「まだそんなに疲れてないから進めるだけ進もう」
時刻は午前11時、お昼ご飯を食べるにもまだ早い。今のうちに避難できそうな場所を探さないといけない。周りを気にしながら進むから普段の倍以上の時間が掛かってしまう。それにこれ以上足手まといになるわけにはいかない。そんな僕の焦りを見透かしたように白石は言う。
「やっぱり休憩しましょう 疲れてから休むんじゃ休憩直前にモンスターに襲われたら逃げきれないっすから」
そう言うと白石は近くのデパートを指さした
「あのデパートの中で良いっすか?」
僕は頷き近くのデパートに向かう。デパートに近づくと窓や床に血の跡が付いているのが見える。僕は覚悟を決め中へ入った。デパート1階は食品コーナーがメインだが、殆どの食べ物は荒らされたり無くなっていたりする。
電気ケーブルが切断されているところを見るとモンスターではなく人の仕業みたいだ。ケーブルさえ切ってしまえば警報が鳴ることが無く簡単に持ち出せてしまう。普段であれば即通報だけど今は非常事態。誰もこの行為を咎める事が出来ない。出来る余裕が無い。
「先輩、こっちはあんまり見ない方がいいっす」
白石が立っている奥では客らしき人々が倒れていた。体のあちこちから血が滲み出ている、辺りは鉄や生臭い匂いが漂う。
「息は…してないよね…」
僕はわかりきった質問をした 白石も「はい」っとだけ答えた。もうすぐお昼だと言うのに食欲が全く無い。気を取り直して階段を上る。建物は3階建てで2階は洋服や小物などがあり3階はゲームコーナーやレストランなどが並んでいる。
2階に死体は無かった。ただ商品は棚には無く、ぐちゃぐちゃになって床に落ちている。誰かが持ち出したのか最初の地震で落ちたのかはわからない。
3階に上ると電気が通ってないため薄暗く静まり返ったゲームコーナーがあるだけだった。レストランの方を見てみると調理場が荒らされていて食料などは何もなかった。
1階と2階が見渡せて尚且つ逃げやすい階段の踊り場をを拠点にした。拠点が決まると白石は動き出す。
「ちょっと入口の方に行ってくるっす」
入口の方へ歩いて良く白石を見ながら僕はリュックを置き壁に背中を預け床に座る。張り詰めた緊張を少しでも落ち着かせようと目を瞑る。少しすると足音が聞こえ、目を開けると大量の空き缶を持った白石が戻って来た。
気になった僕は「何に使うんだ?」と尋ねると、白石はニコニコしながら説明を始めた。
「まずは購買部で買った裁縫セットから糸を取り出す。取り出した糸を下の階段の手すりに巻き付ける。反対側に巻く前に空き缶のプルタブを立ててそこの間に糸を通す。何個か通した後に反対側の手すりに巻く。この時あんまり強く張ると音が出にくいので少しだけ緩めて巻くっす!」
なるほど、確かにこれだと常に警戒しなくても音が鳴った時に警戒するだけで良くなる。
「白石は自衛隊志望だっけ?サバイバルの知識や運動神経も良いし十分素質あると思うよ」
「自衛隊は自分の憧れっすね。自分も困ってる人達を一人でも多く助けたいっす。まぁ、言ってるそばから何人か見捨ててますけどね、自分まだまだ未熟っす。これも本当は鈴とかの方が音が響いて良いんっすけどね持ってないので空き缶で代用っす」
「十分立派だよ、僕なんて何にも出来てないし」
つい本音が出てしまった。
「やっぱり気にしてたんっすね。まぁ人には得意、不得意があるっすからね。普段からトレーニングしてる自分と違ってとっさに動けないのは仕方ないっすよ」
「それはそうだけど…なんか先輩の僕が不甲斐ないと駄目かなって…」
一度話すと止まらない。
僕は今まで思っていた事をすべて白石に話してしまった。僕が話し終わると白石は静かに口を開く。
「なるほど、先輩は見栄を張りたいわけっすね」
「へ?」つい変な声が出てしまった。白石は無邪気な笑顔を見せた。
「冗談っすよ 確かに今は何も出来ないかもしれないっすけど、それは仕方ないっす。だって先輩は誰よりも常識人っすから」
「周りが時代の流れに流され当たり前だった常識を忘れ、昔では考えられなかった世の中になったっす。まぁ今はさらに非現実的になってるっすけどね」
確かに…数年前までは世界の全自動化が完了するのはまだまだ先だったはず。だけど実際は飛躍的な技術の進化で数年で完成されようとしていた。周りの皆も働かない世界を受け入れ各々人生を楽しみ始めた。
「先輩が今の世界を受け入れるにはまだ時間が必要だと思うっす。それまでは自分が先輩を守りますよ」
「それに先輩自身が思っているほど役立たずじゃないっすよ!冷静な時の先輩は他の誰よりも頼りになるっすから!」
そう言うと白石は僕へ空き缶を差し出した。
「もう幾つかこのトラップを仕掛けたいので手伝ってもらえますか?」
僕は下していた腰を上げる。心なしか体が軽くなった気がする。話してよかった。今は自分に出来る事から始めよう。そう決意し空き缶を受け取る。
しばらくトラップの設置とバリケードやモンスターと遭遇した時の脱出ルートを確保してる間に夕方になってしまった。時間が掛かったけど手作りの簡単な拠点が完成した。
「これでようやく休めるっすね」
ずっと周りを警戒していた白石も緊張から解放される。湯船に入るおじいちゃんのように「ふぅ~!」という仕草に思わず笑ってしまった。
「お!先輩ようやく笑ったっすね」
世界が変わってからまだ半日も経っていないのに久しぶりに笑った気分だ。ようやく明るい雰囲気になった頃合いに白石が言い出す。
「ようやく落ち着ける環境が出来たし そろそろギアでこの世界について調べてみるのはどうっすか?」
「僕もその方が良いと思う。僕達はまだこの世界を知らなすぎると思う」
朝から何も食べてなかった僕達はリュックから携帯食料とミネラルウォーターを取り出し、拠点の踊り場の壁に並んで座り込み食事をしながらギアを操作する。
「まずはステータスから見るっすか?」
「そうだな、時間がなくてスキルしか取ってなかったし」
ギアに表示されるアイコンを押していく。ステータス画面が表示された。
白石 塁 職種 忍者 Lv42
HP(体力)5600 MP(魔力)1500
STR(筋力) 346
DEX(器用さ) 365
AGI(俊敏) 382
INT(知力) 126
僕も同じ操作をしてステータスが表示される
播間 幸一 職種 魔術師 Lv58
HP(体力) 1820 MP(魔力)9999
STR(筋力) 52
DEX(器用さ) 81
AGI (俊敏) 48
INT(知力) 999
「先輩のステータス偏り過ぎじゃないっすか?MPとINTがMAXって…もしかして前世 賢者とか?」
「前世に魔法は存在しないよ」
白石のボケにツッコミを入れつつ自分のステータスを見る。MPとINT以外は平均以下、むしろかなり低いと言ってもいい…それに対してMPとINTがおかしいくらい高い。何代か前は本当に賢者だったんじゃないかと思えてきた…
画面を凝視してる僕に白石が補足してくる。
「MPやINTはゲーム内知識、または現代知識によって数値が決まるって書いてるっす」
ゲーム内知識と現代知識か…宿屋を経営することで泊まったプレイヤーと雑談や攻略法なんかの話をよく聞いてたかな。現実の方もテスト勉強しに図書館に行った時に気分転換で色々な本を読んでた気がする。
「名前とステータスは現実のもので職種はゲーム通り、本当にリアルとゲームがごっちゃになってるな…」
他の機能も調べてみた。一番気になっていたフレンド機能。フレンド機能は相手の名前をリストに登録することでメッセージや通話が可能になる機能。ちなみに登録は相手の承諾が必要。一方的な登録は出来ない仕様だ。
「駄目だ…数が多すぎる上に皆の名前が本名に変わってて誰が誰かわからない…」
一般のオンラインだとフレンドリストには上限がある。しかし世界共通の規模のオンラインとなると上限が無い。僕は宿屋を経営している関係上お得意様との連絡用に2つフレンドリストを作っていた。
お得意様用のリストを見ても誰一人わからない名前ばかり、それに名前が白い人と赤い人が居るこれって…
「なぁ白石…この名前が赤いのって…」
「多分…もうこの世に居ない人達かもしれないっす…」
僕はお得意様用のリストを閉じ、もう片方のリストを開こうと指を運ぶ。しかし押す直前で指が止まる。このリストに入っているのは2人だけ、今僕の目の前に居る白石と黒猫亭のもう一人のメンバーコロさんしか居ない。つまりリストを開いて名前が赤かったらコロさんはすでに死んでることになる…
仲間が死んでるかもしれない
その不安と恐怖が指を止める。しかし数秒後覚悟を決める。見ても見なくても結果は同じ、ならば不安は1つでも無くそう…そう決意しリストを開く
そこには白文字で 安藤 小炉奈と書かれていた。
「よかった…コロさんは無事みたいだ」
安堵のため息が出る。隣に居た白石も同じく安堵する。
「とりあえず 黒猫亭は全員無事みたいっすね」嬉しそうに白石が言う。僕はすぐに通話しようと思ったけど向こうの状況がわからない以上安易に連絡するのは危ないと思った。
「今は生存がわかっただけ良しとしとこう」僕の言葉に白石も頷く。
画面を見ていくと右下に ヘルプ と書かれたアイコンがある。気になって押してみた。
「ゲームの進め方?」 さらにそのアイコンを押した。画面には
各都市や町に居るフィールドボスを倒すことで都市や町を解放することが出来る。
「フィールドボス?解放?白石どう思う?」
「あくまで自分的な解釈ですけど、ボスを倒すとモンスターが居なくなるとか襲って来なくなるってことっすかね?」
それが本当だとしたらボスを倒せたらこの都市は安全な都市になる。勝てるかどうかはわからないけど、このまま怯えて過ごすより何倍もましに見えた。
「明日 一緒に戦ってくれる仲間を集めながらフィールドボス探してみないか?」
「そうっすね 今より良くなるなら多少のリスクがあってもやってみる価値はあると思うっす」
僕達の方針が決まった。とりあえず一緒に戦える仲間を集めてこの都市のボスを倒す。
戦闘の事を考えているとあることを思い出す。
「そう言えば、最初にスキル画面見た時1つだけスキルがあったんだ」
僕の言葉を聞いた白石が驚く。「え?自分最初は何も覚えてないっすよ?」興味津々で僕の画面をのぞき込む。スキル画面の一番下にマスタースキルって項目があった。そこに1つのスキル名が書いてある。白石がそれを読み上げる。
「マスタースキル?ブラックバースト?ゲームの時には無かったスキルっすね」
ゲームパンドラの箱にはマスタースキルなんて項目は無かった。それにスキルの説明も何も書かれていない。普通は消費MPやスキルの内容が書いてあるはずだけどスキル名しか書いてない。
「試し打ちしてみるっすか?3階から屋上に行けるっすよ。万が一モンスターに見つかっても自分が守るっすから」
白石はスキルの内容が知りたいらしく、積極的に屋上に行こうと言う。もちろん僕もこのスキルについて知りたかった。このスキルがボス戦で使えるかどうか気になるからだ。
トラップやバリケードに当たらないように屋上を目指す。屋上はヒーローショーのステージや休憩するためのベンチなどが置いてある。
屋上に着いた僕は少し考える。物に向かって使うのが一番威力がわかって良いのだけれど、派手な音を出すと周囲のモンスターを引き付けてしまいそうでためらった。考えてる僕に白石が提案する。
「上空に向かって打ってみたらどうっすか?」
僕は白石の提案に頷く。空に手をかざす。
「スキル:ブラック…」
僕がスキルの名前を言うとかざした手の向こうに黒い球体が発生する。開いた手のひらを握っていくとMPが徐々に減っていくと同時に球体が大きくなっていく。MPが0になる頃には上空には10メートルくらいの黒い球体が浮かんでいた。
「バースト!」
残りのスキル名を叫ぶと黒い球体が弾け飛ぶ。弾けた衝撃で少し強めの風が吹き抜ける。その様子をみた白石は
「固定型の範囲攻撃っすかね?」
「多分そうみたい。でもこれMP全部使うのは割に合わないような…」
「まぁ攻撃の選択の幅が広がったと思えば良いんじゃないっすか?あって困るものじゃないし」
「とりあえず下に戻った方が良いっす。あんまり長いするとモンスターに見つかるかもしれないっすから」
階段へと戻るドアの前で振り返り空を見る。大きな月が薄暗い夜空を照らしていた。
拠点へ帰ると白石と僕は床へ座り込む。一日中走ったり歩いたりで疲労が貯まっていた。
「先輩、一応トラップやバリケードはあるっすけど交代で見張りませんか?」
「そうだな、それが良いと思う」
いくら拠点を作ったからと言っても急ごしらえ、モンスターが襲ってきてもすぐに対応出来るように片方は起きていた方が良い。
「先輩、どっちが先に寝ますか?」
「白石で良いよ。僕は昼に少し休んだからまだ大丈夫」
「そうっすか、じゃあお言葉に甘えるっす。2時間くらいしたら起こしてください」
そう言うと白石は床へ寝転がった。毛布代わりに拝借した2階の試着室のカーテンを白石に被せた。その横で僕は座り込み今日を振り返る。
朝に突然の記者会見があって、その後世界がおかしくなって気づいたらデパートを拠点に一泊しようとしている。自分でも何を言っているんだって思えるくらい理解できない出来事が沢山あった。
僕が今ここに居れるのは白石のおかげだ。
頭が真っ白になった僕の手を引いてくれ支えてくれた。頼もしい後輩だ。だから僕は…
「一緒に居たのがお前で良かったよ ありがとう塁」
僕は小声で寝てる白石へお礼を言った
「どういたしまして」
突然の返事に驚く。顔を見ると目が開いている。
「お前…狸寝入りかよ…ちゃんと休め!」
「いや~そんなすぐには寝れないっすよ、それに今の先輩の言葉を聞いたら尚更っす。」
「ようやく名前で呼んでくれたっすからね。2年ちょっと一緒に居るのに未だに苗字なんて距離感じてたんっすよ。これからは名前でよろしくっす!」
僕はテンションが上がってる白石をなだめる
「わかったから早く寝てくれ、あと一時間五十五分しかないぞ。」
「そうっすね、じゃあ本当におやすみっす」
「ああ、おやすみ塁」
こうして僕達の長い一日が終わった…
次回も幸一&白石パートになり戦闘も多めになる予定です