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変わらぬ日々と変わりゆく世界

プロローグを含めて2話目となります 

2213年 4月中旬


 春先の雪が解けたとはいえ、まだ肌寒い朝の景色を見ながら僕、播間はりま 幸一こういちはため息をついていた。


 今年で大学4年生になる僕は就職先を探している。僕が居る帝桜ていおう大学は都市でも有名な全寮制の大学で、広大な敷地に様々な施設を建て文武両道をうたい文句に数々の功績を上げていた大学だった。


 しかし、今年の卒業生の就職率は5%だった。これでも他の大学よりも高く、一般の大学だと1%にも届かない就職率だった。


 その原因を生み出したのが科学者 神崎かんざき つかさだった。彼が作り出した粒子を生み出す装置の発明で100年掛けて機械化50%の進行だったものが、僅か3年で90%まで進んでしまった。


 「人の手を借りるより機械に頼る時代」になってしまったのだ。


 そんな絶望的な就職率の中でも僕は就職先を探していたのには理由がある。親を見返したかった。元々僕はこの都市の住人じゃない、山を1つ超えた先にある小さな町が僕の故郷だ。


 田舎育ちの僕がなぜ都市の有名な帝桜大学に入ったかと言うと単純に親の跡、つまり農家を継ぎたくなかったからだ。今思えは只の反抗期だったのかもしれない。代々続いてきた親の作った道を、ただ歩くだけの人生が嫌だった。


 最初は反対していた親も帝桜大学入試合格の通知を見せたら渋々了承してくれた。無理を通して送り出してくれた親を納得させたくて就職活動をしているが


 現実は非情だった。働き先が全く見当たらないのだ。


 僕は最初に吐いたため息よりも大きなため息を吐いた。


 ふと手首に付けてある物を見て思った。神崎 司は万能粒子を制御する装置を普及するにあたって幾つかの条件を出していた。


 1つ目 計測器メディカルギアの普及


 これは手首に巻くだけで身体機能の数値化や健康状態の詳細を細かく分析してくれる装置で、風邪を引いたり怪我をした時に音声アナウンスで適切な処置を教えてくれる機能がある。その他にも通話機能やネット検索などの様々な機能が付いている。正直これはありがたい機能だ。世界中の人達も便利だと言ってすぐに世界各地で普及した。


 2つ目 世界共通のオンラインゲームを普及させること


 このゲームは俗にいうRPGロールプレイングゲームで様々なジョブを演じでモンスターと戦うゲームである。正直、一部のゲーム好きにしか広まらないと思っていた。(ちなみに僕はこのゲームを気に入っている)しかし、3つ目の条件が今の世の中を変える原因になったと言っても過言ではない。


 3つ目 2つ目で上げたゲーム内で手に入れたお金は、世界共通の電子マネーとして使うことが出来る


 この3つ目の条件は、世界の機械化が進み働き口が無くなった人々が安定して生活を送るための救済措置だったのかもしれない。実際この条件のおかげで働かなくても生活が出来るようになってる。


 僕もこのゲームをやっている。最初は学費を稼ぐ目的で始めたゲームだったけど今ではその世界観に引き込まれた一人だ。


 パソコンの電源を入れオンラインゲームを起動させた。画面には「パンドラの箱」というゲームのタイトルが出た後ゲームの世界に僕のキャラが反映される。ログインしてすぐに話しかけられた。


 「お!先輩起きてたんですね、おはよーっす!」


 今話しかけてきたのは自分が経営する宿屋「黒猫亭」のメンバーの一人。っと言ってもこの宿屋を経営してるのは僕も含めて3人しか居ない。


 僕を「先輩」っと呼ぶ彼は、僕と同じ帝桜大学に通う生徒で、歳は僕の一つ下で顔見知り、ゲーム内のキャラ名は「†白石†」と表示されている。


 「おはよう白石、起きるの早いね というかちゃんと睡眠取ってる?」


 昨日も遅くまでINしてた白石を心配する僕の言葉に白石は「5時間は睡眠取ってるので大丈夫っす!」と返してきた後に続けて会話を挟んできた。


 「そう言えば今日っすね神崎さんの記者会見、あと30分くらいっすかね?」


 僕が時刻を見ると6時32分を回っていた。ネットで発表された記者会見の時間は7時 もうすぐネットの生中継が始まるみたいでネット上ではお祭り騒ぎになっていた。


 「なんでも今回は一大プロジェクトの報告があるらしいっすね、生物学の須王すおう 澪奈れいな教授と高性能IAのプログラムを開発した桐生きりゅう 貞雄さだおシステムエンジニアの共同研究のお披露目会らしいっす」


 もうすぐ始まる記者会見の話をしていたらもう一人のメンバーもログインしてきた。


 「おはようございます。日曜の朝とはいえ 二人とも早いんですね。他にやることはないんですか?」


 ログイン早々毒舌を吐くこの子の名前は「×コロコロ×」通称コロさんと僕達は呼んでいる。彼女の言葉はトゲがあるように見えるけど、本当に困ってる時は手伝ってくれたり相談に乗ってくれたりと面倒見の良い所がある。彼女は白石と違い少し離れた別の都市に住んでるらしく、直接の面識はない。


 「就活の気晴らしにINしてみたんだよ。まぁ現実逃避に近いのかもしれないけどね」


 僕は苦笑いしながら言った。するとコロさんは「大変なんですね。たまには息抜きも必要ですよね。ゆっくりしていくと良いですよ」っと返してくれた。続けて、「今日は白石さんが仕事全部引き受けてくれるみたいですから」と言った。


 「え!コロさん手伝ってくれるんじゃないんすっか!?」


慌てたように白石がコロさんに助けを求める。するとコロさんは


 「私これからコンビニにお菓子買いに行くから放置します白石さん頑張ってくださいハート」と言葉を残しキャラの上に離席中と表示された。


 「先輩…自分あんな棒読みの「ハート」って言葉初めて聞いたっす…」


 唖然としてる白石が可哀想に思えてきた僕は「僕も手伝うから頑張ろう」とだけ告げた。記録の整理をしていると白石が話しかけてくる。


 「そう言えば先輩、今回の学年テストで三位になったそうじゃないですか。おめでとうございます!」


 僕は複雑な気持ちで返答する。


 「正直あんまり嬉しくないかなテストを受けたのが半分も居ないし、参加した生徒の大半は出席日数のために出てるって感じだったし」


 実際テストの点数なんてあんまり関係ないのだ、最低限の知識を持って出席日数さえあれば誰でも卒業出来てしまう。誰も真面目に受けてないテストで上位を取っても嬉しくないのだ。そんな投げやりな僕に対して白石が言う。


 「手を抜いても何も言われない中で、手を抜かずに頑張ってる先輩だからこそ自分は先輩を尊敬してるんですよ」


 普段の調子にのった口調とは少し違った雰囲気で白石は言った。だから僕も素直に感想を述べる


 「テストで上位を取れても嬉しくなかったけど、今の白石の言葉は凄く嬉しいよありがとう」


 そうこうしてる間にネットの記者会見が始まった


 「皆さんお待たせしました!これより神崎 司さん率いる新チーム「トライデント」の研究発表会を開始します!」


 リポーターの元気な掛け声と共に3人の人物が会場に入ってきた。


 「では最初に生物学の須王 澪奈教授から聞いていきます!今回の研究はどのような内容だったのですか?」リポーターがマイクを向けた


 「今回の私の仕事は生物のあらゆる動作や仕草、特徴を桐生さんに伝える事が私の役目です。現代の機械プログラムによりリアルな生き物の動きを加えることで本物と区別がつかない思考回路を持ったIAが作成可能になります」


 「おお!なんと物を生み出す技術からさらに進んだ生物を生み出す実験をしていたのですね!」リポーターが興奮する。それもそのはず、万能粒子から生物が作れる事が可能になればもはや神の領域なのだ。


 今の発言を聞いたネットの掲示板では「生物を生み出すって神みたいだ」「私、大人しい犬が欲しい」「これって人も作れるの?」といった話題で盛り上がっている。


 「えーっ続いてはシステムエンジニアの桐生 貞雄さんに聞きたいと思います。今回の研究で大変だった事はなんですか?」


 「そうですね 生物のデータをプログラムに組み込む事自体は問題ないんですけど膨大な数のデータを入力しなければいけないというのが一番の難所でしたね。おかげで1年もパソコンに釘付けでしたよ」


 「地球上の生物のデータを一年で作り上げる時点でかなり凄いことなのではないでしょうか!」リポーターの声が弾む


 「それでは最後に神崎 司さんに今回の研究の成果を発表してもらいましょう!」リポーターが彼の前にマイクを近づけた。神崎はそのマイクを自分の手に持ち話始める。


 「皆さん本日は私達の研究発表会にご来場下さり、誠にありがとうございます。世界中の人々の協力を得て、先月建てられた電波塔で世界の9割で万能粒子を使った実験が可能になりました。私一人ではここまで早く普及することは不可能でした。深く感謝申し上げます」


 「両隣に居る二人にも深く感謝を申し上げます。二人のおかげで私の長年の夢が今現実のものとなります。」そう言って神崎は手首に付けた測定器メディカルギアを操作し始めた。


 すると目の前に一匹の犬が表れた。リポーターは驚きつつも「可愛らしい犬ですね、これが研究の成果ですか?」と神崎に質問した。しかし、彼から返ってきた言葉は意外なものだった。


 「今までの実験は只の第一段階に過ぎません。ここからが私の本当の研究テーマです」そういうと彼はさらにギアを操作する。


 すると先ほどまで可愛かった犬の姿が見る見る変化していく、体が大きくなり牙や爪が鋭くなる。


 「え…?」


 呆然と立ち尽くすリポーターの前には頭が3つに分かれた巨大な犬がこちらを威嚇している。ギリシャ神話に出てくるケルベロスそのものだった。


 会場に集まった人達のギアが大音量で警告音を響かせアナウンスが流れる


 「パンドラの箱をインストール中…パンドラの箱をインストール中…」


 ざわつく会場の中 神崎が落ち着いた様子で話し出す


 「今私の本当の研究テーマを発表しよう!技術に置いて行かれた人間が過酷な環境に放り込まれた時、人類は技術に滅ぼされるのか?それとも技術を上回る成長を見せるのか?私はそれが知りたい!皆さんにはそのための実験体になってもらう!」


 駆け付けた警備員達が神崎達を取り押さえ説得する「今すぐこの化け物を消しなさい!」っと。しかし取り押さえた神崎達3人の体が崩れ始めた。3人共万能粒子で作られた偽者だったのだ。崩れゆく偽者の神崎が笑顔で言う


 「現実世界が仮想世界と今一つになる!」と…

次回以降、本格的なサバイバル生活が始まります。過激な描写も入ってくるので苦手な方は注意して下さい。

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