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灰色のデッドライン  作者: 尾久出麒次郎
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第二章、その3

 彩はログイン前にみんなにメールを送り、パルファシティ駅構内の喫茶店で相談することにした。夕食を食べ終えると、すぐにレイヴンとしてログイン。

 以前集まった喫茶店で集合し、今日のことを話した。

「というわけなの、ごめんなさい……あたしの独断で勝手に承諾しちゃって、負けたらスカーフェイスに行くことになったの」

「気にするな、一人で抱え込むよりはマシだ。通りで弱小ギルドの俺たちから悪名高いスカーフェィスから対戦の申し入れが来たわけだ」

 ブラックマンバはスマホの画面を見せる、DUOのアプリに対戦の申し入れのメッセージが届いていて日時は明日の今頃で場所は以前、ブラックビーストと対戦したジャングルだ。

 すると今まで黙っていたバルドイーグルが訊く。

「僕は日本サーバーに来てからそんなに経ってない。スカーフェイスはどんな奴らだ?」

「とにかくヤバイ奴らさ、チートスレスレでハイテク装備である 無人航空機(UAV)に無人兵器は勿論、人統連が使ってるような強化外骨格や壁登りが出来るゲッコーグローブ、光学迷彩、プラズマ銃やレールガンを使ってくる……噂じゃ重課金プレイヤーの集まりらしい、とにかく課金アイテムやDUO通貨のGを一〇万くらいなら湯水のように使ってるらしい、米軍の財政担当も逃げ出すほどな」

 ブラックマンバが簡単に説明する。

「それに一回の対戦、今回のようなチームデスマッチでも多数の無人兵器などのハイテク装備を使ってフルボッコにされたという書き込みが多数ある、2chでは『スカーフェイス対策板』が出来るほどだ」

 ブラックマンバが説明を終えて紅茶を飲むと、ローンウルフはテーブルに顔を突っ伏して気だるげに言う。

「参ったわね……私たちなんか少ない小遣いとクエストで地道に金を稼いで実弾銃を買ってるのにあいつら苦労もせずに、プラズマ銃を買ってるのよ。DUOって割と貧富の差あるのよね」

 確かにそうだ、レイヴンも今身に着けてる装備も地道にクエストをこなして手に入れた物だ。そんな相手である重課金者たちに苦労はわかるまいと思ってると、ローンウルフは不敵な笑みと狼のような鋭い眼光を放ちながら顔を上げた。

「でも……勝てば賞金どっさり、私たちの拠点ができるかもね」

「そうだな、そろそろ拠点が欲しいところだな……ところでギルド名はどうする?」

 ブラックマンバが話題を変えると、そういえばまだギルド名決めてないと思い出した。

「適当でいいんじゃない? アウトキャスターズ、見捨てられた者たちっという意味の」

 バルドイーグルは適当に言うと、ブラックマンバが食い付いた。

「それいいんじゃない? 適当に言ったつもりだが、適当な名前だと思うぜ?」

「私たちにピッタリな名前ね、アウトキャスターズに決定ね。レイヴンはどう思う?」

 ローンウルフも賛同するとレイヴンも無言で肯いた、リーダーは……成り行きでいいだろう。

「決まりね……対スカーフェイス作戦なんだけど、いいものを手に入れたんだ……諸刃の剣だけど……使えるかもしれないわ」

 ローンウルフはアイテムストレージを見せるとレイヴンはギョッとして、ブラックマンバは顔を顰め、バルドイーグルは驚いてるのか目を見開いた。

「本当に使うの、これ?」

 レイヴンは正直な気持ちで言うとローンウルフは不敵な笑みを浮かべた。


 作戦会議の結果、今回はバルドイーグルとブラックマンバ、ローンウルフとレイヴンと組んで二手に分かれることにして、その日は装備を整えて明日に備えることにした。



 翌日、パルファシティ西三キロ地点のジャングル。


 バルドイーグルはブラックマンバとジャングルの深い茂みの中で配置に就く、目的は陽動と発動後はサーチ&デストロイだ。

 バルドイーグルはPBS1サプレッサーとショートフォアグリップを装着し、カモフラージュテープを巻いたAK103を装備してる。

 ブラックマンバは今回……カモフラージュテープを巻いたAR15系統なのは確かだがアッパーレシーバーにはトリジコン社製ACOGスコープを載せ、どこのメーカーかわからない軽量ハンドガードにサプレッサーを装着してる、口径は300BLK弾らしい。

 バルドイーグルは気になって訊いてみた。

「なぁブラックマンバ、いつAR15に代えたんだ? 前はAK使ってたはずだぞ?」

「ああ、実を言うと俺はAR15派なんだ。DUOは米国の 全米ライフル協会(NRA)や銃器メーカーと提携していてね、特にAR15系統のパーツが星の数ほど出回ってるんだ……だからAK47や1911と同じく部品調達が容易だし、自分に合わせたカスタムが出来る、グルーピングはいいんだが攻撃力に不満があってね……つい先日この一四・五インチのノベスキー社製300BLK……300AACブラックアウト弾用アッパーレシーバーを手に入れたんだ。サプレッサーは300BLK弾を開発したAAC社製、バックアップ用アイアンサイトはマグプル社の物を使ってる」

「すまん、ストッピングパワーに不満があるのはわかったが……それ以降はチンプンカンプンだ、要するに沢山のメーカーが開発競争しまくってるおかげでユーザーは改造し放題ってことなのか?」

「そういうことさ、中には誰得な物や、これはひどい代物まであるぜ! それはこいつのライバルにも言えることだ」

 ブラックマンバやニヤケて言う、それってAKのことを言いたいのか? するとローンウルフから無線が入った。

『お二人さん、そろそろバトル開始よ……三〇秒前』

 視界の真ん中にデジタルタイマーが表示される、カウントダウンがゼロに近づくにつれて緊張感が高まり、心拍数が上がる。

 ……五・四・三・二・一・〇! いつもなら次の瞬間には走り出すが今回はそうはいかない、正直レイヴンがジャングルに選んでくれたのは正解だった。これがアフガニスタンやイラクのような荒野だったら間違いなくUAVに探知され、一分足らずでAGM114ヘルファイアミサイルでアボーンだ。

 さあ、どう来る? ここはベトナムのジャングルのようなものだ……相手は何を使ってくる? 沈黙した状態で時間が流れる、すると木々の揺れる音や風、モンスターたちの鳴き声に混じって微かにモーター音が聞こえた。

 一つではない、複数だ。しかも木々が薙ぎ倒される音も聞こえる、するとレイヴンから無線が入る。

『こちらレイヴン、敵の無人戦闘ロボット……ペルシュロンが四機、いえ八機も来てるわ……気をつけて、この無線もしかしたら傍受して盗聴されてる可能性もあるわ』

『既に盗聴されてるわよ、ペルシュロンの武装タイプの中に紛れて電子戦や索敵に特化したタイプもいる』

 ローンウルフも既にスコープに捉えてるのかもしれない。

 ペルシュロンは第三次世界大戦前から開発されていた四速歩行ロボット、ビッグドッグを大型化して改良したものだ。本格的な量産が始まる前に終結したが一部は試験的に実戦投入されたらしい。

 物資輸送型、索敵及び電子戦型、機関銃やオートマチックグレネードランチャー、対空及び対戦車ミサイル搭載した武装型とバリエーションは様々だ。

 ペルシュロンの足は炭素繊維や金属製等ではなく動物の筋肉細胞を培養して使ってるらしい、そのため動きは動物そのものでニコニコ動画やYou Tubeで見た時の感想は正直気持ち悪いという印象だ。

 草木を薙ぎ倒しながらペルシュロンが近づいてくる、胴体部にM2重機関銃やTOW対戦車ミサイルランチャーを搭載してる、ローンウルフの言う通り電子戦及び索敵型もいるが自衛用に汎用機関銃を装備してる。

「移動しよう……見つかったら袋叩きにされる」

 ブラックマンバが小声で促すと茂みの中を匍匐でバルドイーグルが続く、もし探知されたら情報がたちまち他の機体にも位置が伝えられて、攻撃を受ける。そもそも四対四のチームデスマッチにペルシュロンを八機に出してくるなんて、弱い物いじめってレベルではない、虐殺だ。

『あれを使うわ、奴らが立て直す前に叩くわよ……いい?』

「OKだローンウルフ、むしろ早くしてくれとレイヴンに伝えてくれ。ステルスミッションは苦手だ」

 そう言ってバルドイーグルは無線のスイッチを切った。



 丘の上でレイヴンはマルチカムマントを被って双眼鏡を覗き、耳をすませて上空に無人航空機がいないことを確認すると頭を出した。マルチカムマントは赤外線センサー対策が施されていて被ると赤外線探知から隠れることが出来るのだ。

 バルドイーグルに急かされたローンウルフは少し呆れたような口で言う。

『聞こえたかしら? いつでもいいってよ』

「わかってるわ、発動したら一気に丘を駆け下りる。援護してね」

『任せて、短時間で決めるわよ!』

 ローンウルフは既に準備万端のようだ、レイヴンは持ってきたアタッシュケースを開ける。電子機器に依存してる現代戦では核兵器に匹敵する悪魔の兵器と呼ぶに相応しい代物の安全装置を解除、一呼吸入れ、親指を乗せた。

 五・四・三・二・一・ON!

 レイヴンは躊躇わずにスイッチを押した。

 遠くに聞こえた機械音が途絶えると、レイヴンはこの前手に入れたガリルACE31に持ち替えた。



 益永一雄ますながかずおことマスカズは今回のチームデスマッチには暇つぶし兼数合わせとして参加したが、突然何の前触れもなくペルシュロンたちが一機残らず沈黙して電子機器や銃に取り付けてるダットサイトも沈黙した。

 それどころか強化外骨格も動かなくなり、光学迷彩も機能停止、スマホも使用不能になり思わず苦笑した。

 一八五センチの長身で肩幅の広い筋肉質な体型、ハンサムな顔立ちに顎髭を生やしたイケメンスポーツ選手のような風貌のマスカズは、動かなくなったペルシュロンの物陰に隠れながら警戒する。

 間違いない、連中 電磁パルス(EMP)を使ったな。

 マスカズは強化骨格を外して光学迷彩装置を破棄し、メインアームであるAR15の 分隊支援火器(SAW)モデルM27IARのダットサイトを外してバックアップ用のアイアンサイトに切り替えてると、マナが苛立ちを露にしていた。

「ちょっと! いきなりなんで止まるのよ! 動きなさいよ!!」

 ペルシュロンをゲシゲシといくら蹴っても動くはずがない、電磁パルスではただのガラクタ同然だ、この分だと無線機も使えない。

「アル、コクイチ、マナ、よく聞け! 連中はEMPを使った、あれは今のところEMP対策は発表されてない諸刃の剣だ」

「つまり……電子機器を使えないのは連中も同じってことかコクイチ?」

「そうだろ普通、だって電磁パルス対策とか具体的には確立されてないんだぜ?」

 アルとコクイチの言う通りだ、連中はまだ組んだばかりだし装備も連携もバラバラなのかもしれない。

 敵だけではなく自分にも影響が出るという正に諸刃の剣だ。

 電磁パルスをこうも早い段階から使うとすれば……まさか! 

 マスカズが嫌な予感がした瞬間、風で茂みが揺れる音に紛れて激しく揺れる音が近づいてきた。反射的にマスカズはM27IARをフルオートで掃射し、アルもAR15カービンをフルオート、マナはサイドアームである短機関銃MAC10を掃射する。

 だがコクイチは電子機器であるプラズマ弾突撃銃PEA2の引き金を引くが、肝心の弾が出ない! マスカズは咄嗟に叫んだ。

「コクイチ! 実弾銃に持ち替えろ!」

 コクイチがはっと気付いた瞬間には既に手遅れだった、コクイチがサイドアームの自動拳銃に切り替える一瞬の隙の間にそいつは茂みから飛び出した。

 マルチカムマントを羽織り、その下の強化スーツから見えるボディラインは生存競争を生き抜くために美しく鍛えられ、それでいてしなやかだ。不気味なケブラーマスクを被って顔はわからないが長い黒髪の女だということは確かだ。

 そいつは大型の 軍用山刀(マチェット)を右手に持っていてまるで演舞のように舞い上がったかと思った瞬間、コクイチの断末魔が響く。

「ひゃあああああああっ!」

 両腕が切り落とされたかと思ったら、次の瞬間には胴体を斜めから切り下ろし、腹部を水平に深く切り裂くと、両膝を降ろして両足で地面を思いっきり蹴ってコクイチに向かってジャンプ! 氷上で華麗に着地したフィギュアスケーターのように一回転を決めた瞬間にはコクイチの首がゴロリと転がり落ちた。


 コクイチ:死亡。

 レイヴンが斬殺、オーバーキル。


「い、いぎゃああああああっ!」

 コクイチの生首がボールのようにアルの元に転がってくると、アルは断末魔に近い悲鳴を上げた。

 レイヴン、あいつがスカーフェイスに入れようとしていた奴か? なるほど、欲しがるわけだ! だけど一人優れているだけで勝てるほどチームデスマッチなんざ甘くねぇ! くたばって俺たちのものになれ!

「アル、奴を撃て! マナは襲撃に備えろ! どこかに援護射手がいるはずだ!」

 マスカズが瞬時に判断して指示すると、アルは離脱するレイヴンにヴェクターSMGをフルオートで追撃するが、数発撃たないうちにマズルフラッシュが止んで代わりにマナがヒステリックに叫んだ。

「なにやってのよバカ! 速くリロードしなさい!」

「わ、わかってるよ!」

 アルは上ずったような甲高い声で素早く、マガジンチェン――中止して物陰に飛び込み、茂みからの銃撃を回避すると抑えられたような銃声が響く、どこからだ!? 奴らサプレッサー付き銃で素早く近づいたのか!? マスカズは銃声の聞こえた方向にM27IARをフルオートで掃射すると後方に気配を感じ、ワルサーP99自動拳銃をレッグホルスターから勢いよく抜きながら右腕を伸ばして振り向くと目を見開いた。

 AR15カスタムを持ってSEALsみたいな格好した少年だった、それも至近距離で対峙して確実に自分を捉えている。

 へっ、特殊部隊気取りのガキに負けるかよ!

 マスカズは余裕の笑みを浮かべながらP99の射線を捉えようとした瞬間、少年は素早く正確に機械のような動きで両膝落とし、ギリギリで射線を外すとマスカズは目が開き切ってトリガーを引いた。

 素っ気ない銃声が空しく響いた瞬間、SEALs気取りの少年はまるでSEALs隊員そのものの動きで、がら空きになって両腕開いた状態のマスカズはデカイ的でしかなかった。胴体に精密に狙いを定め、マスカズは初めて自分が大誤算を犯していたことに気付いた。

「ヤバッ……」

 一瞬だけ見えたAR15のセレクターはフルオート、一瞬の出来事なのに引き金を引く瞬間がスローモーションで見え、次の瞬間には胴体にデカくて太い槍で突かれたような激痛が走り、ぼやけ行く視界の中にメッセージがハッキリと表示された。


 YOU ARE DEAD


 マスカズ:死亡。

 ブラックマンバがハートショット、オーバーキル。



 敵の指揮官らしきプレイヤーが倒されると、バルドイーグルは素早くAK103のマガジンチェンジを行う。

 至近距離からフルオートで決めるつもりだったが向こうも勘はいいようだ。

 新しいマガジンでAK103のトリガーガードのノッチを押し出して空マガジンを外すと、フル装填されたマガジンを装着。

 左手をAK103の下に通し、チャージングハンドルを引いて甲高い金属音を響かせて七・六二ミリ弾を装填した。

 敵との距離は目視で凡そ二三メートル、これはベトナム戦争での平均交戦距離だ。

 ジャングルでは精度よりも攻撃力があり、過酷なジャングルでも動くAK47系統が有利!

「何やってるのよみんな! もういい!! あたしがやるわ!!」

 相手の女プレイヤーがヒステリックに叫ぶ、指揮官を失って冷静さを失えば敗北は目前だ。

 木陰から覗くと今の女プレイヤーがペルシュロンの背中に登って小柄な女の子には大きいAR15――いやマガジンの大きさから見て七・六二NATO弾を使うAR10系統だろう。

 ペルシュロンの背中に立ってスコープを覗いて探す、これではジャングルに潜んでる狙撃手に狙って下さいと言ってるようなもの、ローンウルフからすれば 絶好の獲物(ターキー)だ。

 バルドイーグルは躊躇わず、だが油断せずに姿勢を低くしたまま木陰から身を乗り出すと、女プレイヤーは右側頭部から頭蓋骨と血肉と脳漿で花を派手に咲かせ、左半分がスイカが砕けるような気持ち悪い破砕音と共に砕け散り、そのままペルシュロンから滑り落ちた。


 マナ:死亡。

 ローンウルフがヘッドショット。

 

 あと一人、俺が決める! ローンウルフに感謝!

 バルドイーグルは狙撃手に感謝すると、ペルシュロンの陰に隠れてる最後の一人を探すと着弾音が聞こえ、物陰に隠れると最後の一人……確か名前はアルだ。

「ひっ、ひいぃぃぃいいいいいいいっ!」

 アルは泣き叫びながら闇雲に乱射するという、なんとも情けない醜態を晒していた。だが迂闊に飛び込んだら危ない、すると足元に生首が転がっていてバルドイーグルはいいこと思いついたと笑みを浮かべると、それを鷲掴みして大きく振りかぶって呼びかけた。

「おおい、救援物資だ。受け取れ!」

 バルドイーグルはアルに向かって投げると生首が宙を舞い、ペルシュロンの背中でバウンドすると見事にアルの下へGOAL!

「ぴゃあああああぁぁああああああっ!」

 アルの甲高い絶叫と共に銃声が響き、バルドイーグルは苦笑しながら飛び出す。

 この距離ではAKよりもこれだと、1911に持ち替えてアルの姿を捉えた。

 情けないことに尻もちついて顔面ぐしゃぐしゃに泣きじゃくり、失禁までして縮こまっていた。

 地面にはヴェクターSMGの予備マガジンと45ACP弾の薬莢が散乱していた、アルと目が合った瞬間、奴はサイドアームを抜こうとするがバルドイーグルはそれより素早く、精密に1911の銃口を向けて全弾ラピッドファイア! 撃たせる暇を与えない! 

 全弾撃ち尽くし、ホールドオープン状態になるとゼロコンマ数秒以下なのに嫌に長く感じた。


 アル:死亡。

 バルドイーグルがヘッドショット、ハートショット、オーバーキル。


 メッセージが表示され、バルドイーグルはマガジンチェンジしてスライドを引いてストップを解除した瞬間、あの派手に彩られたメッセージがファンファーレと共に表示されて今回は納得のメッセージだった。


 YOU TEAM VICTORY!


 視界がぼやけ、次の瞬間には待合室にいた。

 目の前にはローンウルフがいて彼女はレイヴンを見るなり、満面の笑みを浮かべて思いっきり胸に飛び込んだ。

「やったああああっ! やったよレイヴン!」

「ふあっ、ローンウルフ! くすぐったいよぉ」

 いきなり抱きつかれたレイヴンはケブラーマスクの下では困惑してるに違いない、ローンウルフの思いっきり抱きつく姿はもはや狼じゃなくてご主人様に思いっ切り甘える大型犬だ。

 ローンウルフに尻尾でも付いてたきっとブンブン振ってたに違いない。

「だって私達のギルドの初陣にして初勝利よ! おまけに賞金がっぽり! これで週末観光エリアに行こうよ!」

「う、うん……どこがいいかな?」

 レイヴンは困惑しながらもまんざらではないようだ。やれやれだと思いながらとブラックマンバと顔を合わせると、屈託のない笑みを浮かべる。

「やったなバルドイーグル。作戦通りだった、最後のラピッドファイアは見事だったよ」

「いや最初の攻撃は失敗した。ブラックマンバこそ、至近距離から敵に三〇口径弾を全弾フルオートでぶち込むとはえげつないな」

「ははははははっ、本当は背後から口を封じで喉を切り裂いてやるつもりだったんだ。バルドイーグルこそ事実上無抵抗の人間に八発も至近距離から当てるからさ」

「おいおい、俺は八発しかぶち込んでないぞ、君だってフルオートでオーバーキルしただろう」

「ははははははははっ!」

 バルドイーグルが言うとブラックマンバは笑ってごまかす、ゲーム上とは言え死線を潜り抜けた戦友同士。

 バルドイーグルはブラックマンバと拳をぶつけ合った。

「やぁやぁ参ったよ、まさかEMPで短期決戦とはね」

 相手のギルドメンバーたちが悔しそうだったり、憔悴し切ったようだったりしてる中、リーダー格のマスカズという男が参りましたと言いたげなばかりに柔和な笑みを浮かべながら歩み寄ってきた。

「君かな? 僕を倒したブラックマンバというのは?」

「そうです。まさか……結成間もない弱小ギルドの俺たちが、重課金でペルシュロン八機も導入してくるような人たちに勝てるとは思いませんでしたよ」

 にこやかに言うがブラックマンバはどうやら「課金厨のあんたたちが弱小ギルドに負けるなんて情けないですね」と挑発してるらしく、目は笑ってない。

 少し間をおいてマスカズも微笑みながら言う。

「……礼を言わせて貰うよ、おかげで戦術の洗い直しをするいい機会だった。次は負けないよ」

 もしマスカズがブラックマンバの意図を読み取ってるとすれば「次はボコボコに叩きのめしてやる」と考えてそうだった。

 するとローンウルフに頭をぶっ飛ばされたマナが不機嫌そうにレイヴンとローンウルフに言い寄ってきた。

「人前でイチャイチャしていいご身分ね……ギルドのメンバーになったんだから、そろそろその気持ち悪いマスクを取ったら、レイヴン?」

 マナに指差されたレイヴンは動じる様子もない、するとローンウルフが代わりに言い返す。

「あら、あんたに言われる筋合いはないわよ、いつマスクを取るか取らないか……それはレイヴンが決めることよ」

「あーら強気ねローンウルフ、そのマスクの下がすんごいブスだったら?」

「そんなこと絶対ないわ!」

 ローンウルフは断言するとレイヴンの滑らかな体に絡みつき、レイヴンも身の危険を感じたが動けない様子だ。ローンウルフは発情したメス狼の顔になっていた。

「だってレイヴン、澄んだ綺麗な瞳、キスしたくなるくらい唇もセクシーで官能的、おまけに抱き心地も良くておっぱいも大きくて、触り心地もいいわ。今夜はベッドでお互い貪りあうように激しく、情熱的な夜にしたいくらいよ」

 アウトだ! こいつ完全にガチレズだローンウルフ! バルドイーグルはドン引きした。するとブラックマンバはツンツンと背中を突き、なんだと思って耳を貸すとブラックマンバは耳元で囁いた。

「俺ローンウルフと知り合って半年なんだけどさ、こいつ実はそっちの気があるんだと思ってたんだ」

「マジか?」

 ブラックマンバは肯くと、マナはドン引きしていた。

「し、信じられない……あんた本当に男より女のほうが好きなの?」

「少なくとも……キモオタがブタのようにブヒブヒと喚いて喜びそうな守ってくださいキャラを演じてるくせに、頭の中は四六時中、臭くて不潔なカス塗れのソーセージでクソとドブまみれのガバガバな下水管みたいなアソコをファックされたがってる猫被りのぶりっ子ロリビッチよりはマシよ」

「……信じられない……もう! 先にログアウトするわ!!」

 ローンウルフは涼しい顔をして過激な放送禁止用語をフルオートで乱射。マナは開いた口が塞がらないっという顔になって次の瞬間にはキレてログアウトした。

 うわっ!? すっげぇ口悪い!! バルドイーグルは苦笑するとブラックマンバは再び耳打ちする。

「あいつ育ての親、元フォース・リーコンの前哨狙撃兵なんだ」

「納得だ、時々君の口が悪いのもローンウルフの影響?」

「いや、それで意気投合した……異性としてと言うより波長の合う友達という感じだ」

 ブラックマンバは首を横に振りながら苦笑した。

 他の二人は既にログアウトしていてマスカズとの挨拶を済ませ、バルドイーグルもログアウトして早めに寝ることにした。

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