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灰色のデッドライン  作者: 尾久出麒次郎
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第二章、その1

 第二章、仲間になろう


 四月二六日二一時三五分、パルファシティ駅前広場。


 倒れたオッドタイタンが沈黙するとレイヴンは呼吸を荒くし、緊張感を緩めると初めて全身の筋肉がギスギスし、肺と心臓がオーバーヒート寸前であることに気付いて水が飲みたくなった。

「はぁ……はぁ……やったかしら?」

「まだ油断するな、モンスターの中には死んだふりする奴もいる。アラスカのハンターたちの間でも、グリズリーを倒したからと言って銃を降ろすなと言われてる」

 バルドイーグルはリンクスのマガジンを交換しながら精力のみなぎった声で言う。

 戦闘開始から約一時間、ようやくオッドタイタンを撃破したのにも関わらず疲れたという表情はない。すごい……ついて行くのに精一杯でへとへとなのに……何この充実感。

 レイヴンは一時間重い銃を持って狭い石畳の路地裏等を走り回ってへとへとだが、バルドイーグルはそれよりも重い五〇口径対物ライフル持ってるにも関わらず、平然とした顔をしている。

「いつ起き上がってもいいように頭部に照準を合わせておけ、怪しい動きがあったら躊躇わずに頭を撃て!」

 レイヴンの知る限りこの戦闘で三〇人くらいのプレイヤーがやられ、いくつもの赤い屋根の建物が壊された。その中にはロケット弾や近郊から放たれたミサイルの誤射で破壊されたものも少なからずあり、瓦礫が他のギルドが所有する戦闘車両の進入を阻んだ。

 レイヴンはサコー85のスコープの照準を倒れたオッドタイタンの頭部に合わせ、バルドイーグルも慎重にリンクスを構えたまま接近。

 ブラックマンバとローンウルフも駅舎の屋上からダネルNTW二〇ミリ対物ライフルをいつでも発砲できる状態で待機してて、無線でローンウルフが注意を促す。

『気をつけてバルドイーグル、わかってると思うけどDUOのモンスターを倒しても死亡判定表示が出るまで二~三分はかかるわ……その間に起き上がる可能性もあるってことよ、ヤバイと思ったら合図するわ』

『その時は俺が止めを刺す。こっちは二〇ミリのHEAIP弾(徹甲弾、榴弾、焼夷弾の三つの機能を持った弾頭)を装填してる、あのデカブツの池沼が動いたらその汚いケツの穴をファックしてはらわたをミンチにして、生焼けにしてやるさ』

 ブラックマンバも既に照準に捉えてようだ。レイヴンは膝射の姿勢で両腕を震えさせながらサコー85を構える。弾頭はホローポイント弾で動いたら眼球をブチ抜き、脳味噌をミンチにしてくれるが、貫通力は劣るので頭蓋骨に当たったら弾かれる。

「ふぅ……ふぅ……ふぅ……」

 パルファシティ駅前広場は張り詰めた空気に包まれる。いつ動き出すかわからない緊張感がレイヴンの心拍数を速め、スコープの照準が上下左右ランダムにぶれる。

 いつでも撃てるようトリガーに指をかけてるが早く死亡判定が出ることを祈った。

「早く……早く……お願い……」

 レイヴンは祈りの言葉を口にする、もし三つの眼球を外したらオッドタイタンの分厚い頭蓋骨は弾かれ、頭部に接近するバルドイーグルは虫ケラのように殺される。DUOの厄介なところは死亡判定表示を待たずに攻撃すると目を覚まして反撃してくるのだ。

「もっと血を流して……もっと、もっと……」

 オッドタイタンの体中にできた銃創からボタボタと鮮血が流れる、このまま失血死してと思った瞬間、微かに眼球が動く。

 動いた? 反応が一瞬遅れてレイヴンは咄嗟に引き金を引いた。

 甲高い銃声と共に放たれた30-06弾の弾頭は眼球を逸れて頭蓋骨に弾かれた! いけない! オッドタイタンは視界にバルドイーグルを捉えた。

「ヴォォオオオオオオッ!!」

 オッドタイタンは怒りに満ちた咆哮を上げながら右腕を振り上げ、バルドイーグルを叩き潰そうとする。

 バルドイーグルはそれに怯む様子もなく、リンクスの銃弾を右肩に叩き込むと今度は悲鳴に似た声を上げ右腕の神経が破壊されたのか、糸が切れたように崩れ落ちた。

「レイヴン! 撃て!」

 バルドイーグルが叫ぶと、レイヴンは冷静にボルトを起こし、思いっきり引く! 空薬莢を排出すると押し戻して次のソフトポイント弾を装填。スコープの照準に捉えて躊躇わずに発砲! 同時に複数の銃声が重なった。

 オッドタイタンは再び糸の切れた人形のように崩れ落ち、そして。


 オッドタイタン:撃破。

 レイヴンがヘッドショット。


 ほんの数瞬、世界が沈黙した。

 そして次の瞬間には惜しみない歓声と拍手に包まれた。


 ウォオオオオオオオオ!!――


『やったなレイヴン、あんたの手柄だ!』

『やったじゃないあんた! 今日のMVP! いいえ町を救った英雄よ!』

 ブラックマンバとローンウルフは高い声で賞賛してくれると、レイヴンは口元が緩みそうになってる。 すると男女問わずプレイヤーたちが続々と集まってきた。


「すげぇよあんた! この初期装備だけで倒したのか?」「凄腕が沢山来てたのに、あんたが止めを刺すとは大したもんだよ!」「ねぇ、お顔見せて是非見たいの」「うちのギルドに来てくれないか?」「いや、是非うちに! いい装備あげるからさ!」「こっちならお望みの武器装備を提供するぜ!」「おいおいそんなに迫らずに交渉するなり連絡先交換しようぜ」


 いつしか勧誘合戦になってレイヴンは困惑してると、一際大きな声が上がった。

「すまない、レイヴンはもううちのギルドメンバーなんだ!」

 バルドイーグルだ、みんな静まり返って「えっ?」って顔をして目を丸くするとリンクスを背負ってドロップアイテムなのか、ガリル突撃銃の改良型であるガリルACE32の短銃身モデルーーガリルACE31を持ってやってきた。

「賞金二五万Gとサプレッサー付きガリルACE31……君の物だ」

 バルドイーグルから賞金と新しい武器を渡され、レイヴンはもう断る理由がなくなってしまい、恐る恐る訊いた。

「ねぇ……顔を見せるのできないけど……いい?」

「ああ、別に詮索しようなんて思わない」

 バルドイーグルが肯くと、レイヴンはホッと胸を撫で下ろした。


 神代彩かみしろあやはログアウトしてベッドの枕元の時計を見ると、午後一〇時を差していた。ヘルメットを脱ぎ、スーツを脱ぐと汗でビッチリだった。一時間走り回ったから当然だろう、仮想空間内のことなのに現実のように感じる。

 彩はそのまま部屋を出ると、風呂場で下のスーツを脱いで下着姿が露になり鏡を見る。 長く艶やかな黒髪に雪のように白い肌、潤んだ桃色の薄い唇、人形のように整った顔立ちは少女の可愛らしさと大人の日本人女性の美しさを程よく調和させたかのようで、少女から女性への成長途中にしか見られない顔立ちだ。

 体を見ると胸もそれなりに大きくなっていて、四肢も現実でPMCの訓練場で鍛えた訓練の成果が出てるのかだいぶ違って見える。

 ほっそりしてるがパワーとスタミナが秘められてる……DUOで見た姿そのままだと思いながら下着も脱いでお風呂に入った。

 ああ生き返る……DUOでもお風呂があったらこの気分も再現されるのかしら?



 四月二九日一二時一三分SIJ社訓練所。


 週末になり翔はSIJ社の訓練所で昼食を食べ終えて屋内射撃練習場に行くと、この土地の所有者である資産家の男が来ていた。

「やあ、探したよ真島君」

「あっ、佐竹さんお疲れ様です」

 翔はペコリと会釈する。

 佐竹洋彦さたけひろひこはよれよれのジーンズにフリース、スニーカーでよれよれの天然パーマでとても資産家には見えず、どちらかと言えば底辺職かフリーターの青年という感じだ。

 土地の所有者でSIJ社に月数十万で土地を貸してる、他にも阿蘇にも土地を所有してSIJ社の広大な演習場として貸していてそれなりの収入を得てるという。

「真島君、注文の品物が届いた。君の欲しかった1911のカスタムモデルだ」

 佐竹は右手に持っていたガンケースを差し出した。

「あ、ありがとうございます」

 翔はお礼を言うと、ケースを受け取ると佐竹はニヤけた顔で開けるよう促す。

「開けてごらん、試し撃ちしてみるといい」

「はい!」

 翔は心を躍らせながらケースをテーブルに置いて開けると、その中には四五口径自動拳銃の代名詞であるM1911A1のカスタムモデルとマガジン三つ、それに弾薬である45ACP弾が五〇発入りの箱とサプレッサーが入ってた。

「弾薬はウィンチェスター社の弾頭重量二三〇グレイン(約一四・九グラム)のフルメタルジャケット弾、マガジンはメックギア社の八連マガジン、サプレッサーは アドバンスド() ・アーマメント() ・コープ()社製だ。サービスするよ、本体のパーツは全部アメリカ製だ組み立てもアメリカの腕利きガンスミスにお願いしたよ」

 佐竹の言う通りだ。漆黒のボディでスライドの刻印には『SPRINGFIELD ARMORY』と刻まれ、三点ホワイトドット付きノバックサイト、ビーバーテイルグリップセーフティにアンビセーフティ、ピカティニーレール、三ホール軽量トリガー、サプレッサー装着できるよう銃身が延長されている。

 グリップはパックマイヤーのラバーグリップなのだが、なんだこのメダリオンは? 何かの花が彫られてる。

 翔はマガジンが入ってないことを確認してスライドを前後させながら訊く、スライドの動きも滑らかだ。

「このグリップは?」

「パックマイヤーだ、メダリオンはエーデルワイスが彫られてる……花言葉は思い出、勇気、忍耐とかだ……早速撃ってみてくれ、感想が聞きたい」

「あ、はい」

 そう言われて、早速持参のマガジンにも弾薬を込めて装填する。

 八発×六個でフル装填すると本体の作動チェックを行う。その間に佐竹は標的をセッティングしてくれた。

「標的との距離は一〇ヤード(約九・一メートル)だ」

 佐竹はお手並み拝見と言わんばかりに後ろで両腕組んで仁王立ちしてる、翔はシューティンググラスとイヤープラグをして弾を装填し、発砲した。

 トリガープルは四ポンド(一・八キロ)くらいだろう。軽く、それでいてトリガーの引き具合も滑らかでガク引きも殆どない、その代わりなのかグリップセーフティが若干重い感じがするがしっかり握れば苦にならない。

 大口径だから反動は強いが、スライドの作動がキビキビしていて、ダブルタップやラピッドファイア容易だ。グリップも手に吸い付くような感じで握り心地もいい。

 八発撃ち尽くし、試しに精度を確認するため、標的を引き寄せて見ると佐竹は感心した表情になる。

「ほう……初めていや、1911に慣れてる君なら当然か」

「いや、練習がまだまだ必要ですよ」

「そうか頑張ってくれ……因みにこいつはEW1911、エーデルワイスマッチと呼んでる」

「エーデルワイスマッチと言う割には黒いですね、耐久性のテストはしてます?」

「勿論! カリフォルニアのロサンゼルスでテストしたよ。落下テストは勿論、長時間泥や海水に漬けても文字通りガンガン動いたさ、米国海兵隊武装強行偵察部隊フォースリーコン出身の ロス市警特殊部隊(LAPD SWAT)隊員に見せたら言い値で買うから是非売ってくれと言ったくらいさ」

 佐竹の言う通りだ、フォースリーコンやLAPD等、一〇〇年以上前の拳銃である1911を未だに使う人たちも数多い。

 改めて見ると全弾バイタルゾーンに命中してるがそれでもショットガンを撃ちこんだかのようにばらけてる、出来れば手のひらに収まるくらいまで上げたい。

 翔は気を引き締めて、マガジンを装填して練習に戻った。

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