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灰色のデッドライン  作者: 尾久出麒次郎
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第一章、その2

 ローンウルフ:死亡。

 レイヴンが射殺。


「よし! いいぞ!」

 バルドイーグルは思わずガッツポーズした瞬間、甲高い銃声が響き渡り、歓喜が一瞬で焦燥と不安に変わり、メッセージが表示される。


 レイヴン:死亡。

 ブラックマンバが射殺。


「Fuck!!(畜生!!)あと一人か……どうやって殺された?」

 バルドイーグルは悪態吐きながらどのように殺された? と修正する。バルドイーグルは木陰を慎重に出て死体を調べる、ローンウルフはうつ伏せで倒れてる、背後から撃たれたようだ。

 一方レイヴンは腸をぶち抜かれていたらしく、仰向けで倒れていた。

 

 だとすると狙撃手――ブラックマンバは移動したのか、レイヴンの言ってた狙撃位置にもいない。だがこの世界にも移動した痕跡は微かに残る、バルドイーグルは微かな足跡と茂みを掻き分けた跡を辿って追跡を始める。

 ブラックマンバはレイヴンを射殺した後、ローンウルフとは別方向に移動したらしくジャングルの奥に逃げたようだ。恐らく待ち伏せ(アンブッシュ)してるつもりだろう、どこから襲ってくるかわからない。

 バルドイーグルは視界の利かない茂みに入ると、バルドイーグルはAK103をフルオートに切り替える。

 ジャングルは視界が利かない、さっきいた場所は比較的開けた場所で密度の低い森だった。それで相手もここを選んだのだろう、だがここから先はジャングルだ。短機関銃やカービン銃、散弾銃を持ってるかもしれない、それだったらデッドウェイトである狙撃銃と弾薬を持って逃げるのだからそう遠くへは行ってないはずだ。

 だがそれをどこかで破棄、あるいは近接戦闘用武器以外全て破棄したら? 軽量化して一気に身軽に動けて手ごわい敵になる。

 バーチャルにも関わらず顎から汗が滴り落ちる。暑くてジメジメするし、さっき戦闘中に雨が降ったことから全身がびしょ濡れだ。草木の感触、ブーツに入った泥水がぐちゅぐちゅしてる、アラスカ支社の訓練所での野外演習を思い出す。

 五感を研ぎ澄まし、現実世界で培った勘を仮想世界で生かせるか? バルドイーグルは首を横に振った、ゲームと現実を一緒にしては駄目だ。それこそゲームと現実の区別がつかなくなる。

 だがこの光景は? 感触は? 滴る汗は? この緊迫感は? さっき見た微かな痕跡は? 現実そのものだ。

 バルドイーグルは茂みを掻き分けて小川のほとりに出る、上流の滝壺には草食の大人しいモンスターが数頭、水を飲んで喉を潤していた。

 奴は川を渡ったのか、足跡が途切れていて川向こうの木陰に何か置いてある。腰の深さぐらいの小川は身震いするほど冷たい、上流は確か雪の降る山脈だ。

 唾を飲んで慎重に接近して木陰の物を見ると。

 狙撃銃であるネメシス・ヴァンクイッシュとギリースーツだった。

 バルドイーグルが罠かと思って立ち止まった瞬間、小川のせせらぎに紛れて微かな金属音が聞こえ、反射的にバルドイーグルは体を振り子のように反転させて茂みに飛び込んだ瞬間、フルオート射撃が今いた空間を蜂の巣にした。

 次の瞬間にはバルドイーグルもAK103を聞こえた方向に制圧射撃を加えるとたちまち撃ち尽くした、残弾は表示されるがリアル派のバルドイーグルは非表示にしている。もう予備マガジンも手榴弾もない。

 残りは拳銃とナイフだけだとバルドイーグルはAK103を置いて右のヒップホルスターから1911を抜いて構える。

「お前もAK使いか? 俺のトラップを避けるとはな……リアルでも訓練を受けてるのか?」

 川向こうから姿を現したブラックマンバは短い天然パーマに毒蛇のような三白眼を持つ少年で恐らくリアルでは翔と同い年くらいで背丈も同じだが、若干細めだ。米軍のマルチカム迷彩にプレートキャリアと軽量装備の米軍特殊部隊隊員のようだ。

 強いてあげるなら……米海軍特殊作戦部隊(NAVY SEALs)みたいだろう。

「そういう君もかい?」

 バルドイーグルは立ち上がって姿を見せるとブランクマンバもAKを持っていた。

「ほう、ローデシア迷彩とは……白人傭兵かSAS(英国特殊部隊、英連邦加盟国にも同名の部隊がありかつてローデシアにも存在した)にでもなったつもりか?」

 マガジンのカーブ具合から見て七・六二ミリ口径だろう、ブラックマンバは両手でハンドガードとストックを持ち、セーフティはかかっていてそれを見せびらかすと地面に放り投げた。

 贅沢にカスタムされたAKが宙に浮いた瞬間、バルドイーグルは回避行動を取ると同時にブラックマンバも回避行動を取って対角線上に距離が開く、遠すぎる!

 AKなら当てられるが自動拳銃では厳しい、双方立ち止まると同時に高速連射ラピッドファイアするが当たらない! 向こうは精度がいいのかバルドイーグルの右足と左腕、左頬を銃弾が掠めた、マガジンチェンジしてスライドストップを降ろし、弾薬を薬室に装填! 

 ほぼ同時に走るがまだ撃たない! 

 命中するギリギリの距離まで撃つな! バルドイーグルは次の瞬間にはに撃たれるかもしれないという恐怖感、対等な敵と戦えてるという高揚感、そして充実感が入り混じっていてバルドイーグルはブラックマンバの名の通り、冷酷なまでに命奪う毒蛇の目を合わさったまま覚悟を決めて急停止した。

 奴の表情が微かに動揺してるのがわかった。

 次の瞬間にはブラックマンバのいない空間に照準を合わせて再び発砲! マガジン内の45ACP弾八発全弾を数秒で撃ちつくしてそのうちの何発かはブラックマンバを撃ち抜いた。

 銃弾を受けたブラックマンバは断末魔を上げずに、運転手を失った車のようにコントロールを失って転がり、糸の切れた人形のように動かなくなった。


 ブラックマンバ:死亡。

 バルドイーグルが射殺。


 メッセージが表示されると、張り詰めていた神経がようやく緩めることができた。

「勝った……死ぬかと思ったぜ」

 バルドイーグルは全身の力が抜けて跪き、全弾撃ち尽くした1911を思わず地面に落とすと、派手に彩られたメッセージがファンファーレと共に表示される。


 YOU TEAM VICTORY!


 せめて生き残った(SURVIVED)にして欲しいなと苦笑すると、視界がぼやけて次の瞬間には待合室と呼ばれてる仮想空間にいて、赤い山猫団と相手のギルドであるブラックビーストの面々が拍手して出迎えてくれた。

「いやあ見事だった、あの撃ち合いは思わず息を呑んだよ!」

 さっきヘッドショットされたトルネードマンが拍手しながら出迎える。

「くそー悔しい……けど面白かったからいいか、ハッハッハッ!」

 ブラックビーストのギルドマスターとメンバーは全員モヒカン頭にサングラス、両肩にトゲ付きのショルダーアーマーを装備してそれぞれAK系統の突撃銃やカービン銃、軽機関銃にRPG持っていて見るからに「ヒャッハー!」していそうだ。今回使わなかったが重機関銃を搭載した即席武装車両テクニカルも持ってるらしい。

 みんなお互いの健闘を称え合い、翔もブラックマンバと相棒のローンウルフと称え合っていた。

「ねぇ、君もブラックマンバや私と同じリアルでも戦闘訓練受けてるんでしょ?」

 驚いた、女の子だった。ギリースーツを着て顔はフェイスペイント塗ってるが鋭く、青い瞳の可愛い子なのは確かだ。

「まさかAKだけでなく1911まで僕と一緒だなんてな……バルドイーグル、ネット空間で言うのもなんだが……もしかして細高の一年生かい? SIJの訓練場で君を見たことがあるんだが」

「……じゃあということはまさか君も? どうしてわかったんだ?」

 バルドイーグルが言うとローンウルフも微笑んで肯く、ブラックマンバは懇願するように言った。

「なぁ、もし同じ学校なら明日の昼休み中庭に来てくれないか? 二人だけでは変な噂が立ってしまいそうなんだ」

「わかった……実は学校では学食でぼっち飯だったところさ」

 バルドイーグルは微笑んで肯くと、トルネードマンが訊いてきた。

「なぁ、レイヴンがゲームセット早々ログアウトしたんだ、今度会ったらお礼言ってくれないか?」

 周囲を見るとレイヴンの姿はなかった。ローンウルフは首を傾げた。

「またあの子? ゲームが終わると賞金とドロップアイテムだけ貰って早々ログアウトしちゃうんだよね」

「そういえばフィールドに来る前のブリーフィングにもみんなから離れて聞いてた」

 バルドイーグルはゲーム開始前の酒場でのことを思い出した、孤高ぶってるのかそれとも単に一人がいいのか? 

 時計を見るともうすぐ夜の一〇時でそろそろログアウトする時刻だった。


 翔は夜一〇時過ぎに寝ると朝起きるのは午前五時三〇分だ、起きたらスターリングと一緒に一〇キロのランニングでそれが終わったら七時過ぎに朝食を摂り、すぐに制服に着替えて学校に行く。

 翔は学校に来ると授業を受けながら昼休みを待つ、今日の授業に英語があるのが憂鬱だった。イングランド育ちの翔は英語の書き取りは特になんともないが、問題は英文を読み上げることだ。

 日本の授業で教えてる英語はアメリカ英語で翔の場合、アメリカ英語を話す先生とイングランド訛りのイギリス英語で喋る翔との食い違いが生じていた、だが悪いことばかりじゃない。アメリカ人がコーヒーを、イギリス人が紅茶を好むように、英語圏の国でも違いがあることを先生は理解してくれたし、クラスメイトたちも違いを楽しんでいた。

 午前中の授業が終わると昼休みだ、翔は弁当と水筒を大・小一つずつ持って来る。大きい方は弁当用の緑茶、小さい方は食後の紅茶でこれが楽しみの一つとなっている、しかも日によってはウバ、キャンディ、ティンブラ、ヌワラエリア等々……弁当以上に豊富で今日はティンブラだ。

 学校の中庭に来ると、生徒たちがそれぞれでグループを作ってお喋りしながら昼休みを楽しんでいる、ブラックマンバとローンウルフは確かいつも二人で昼食を食べてるらしい。

男女二人で仲良く話してる奴らはすぐに見つかった。

集団率グルーピングはいいんだが、威力が物足りなかったんだ、昨日のチームデスマッチ後にやっと300AACブラックアウト弾用一四・五インチバレルのアッパーレシーバーを手に入れて、作動チェックやゼロイングしてたら日付が変わってたよ」

「睡眠はしっかり取らないと早死にするわよ、実際ネトゲ廃人の中にはやり過ぎで死ぬ人もいるらしいわ。それと……約束通りこれからは七~八ミリで統一よ」

「わかってる、スポッターが338ラプアマグナムでスナイパーが50BMGじゃ補給が辛いからな」

 中庭の真ん中にあるオブジェの隅に腰掛けて話してる男女――傍から見れば付き合ってるようにも見える、翔は背後から声をかけた。

「君たちが昨日のコンビかな?」

 声に気付いた二人が振り向くと、一目であの二人だとわかった。しかも、制服のブレザーのネクタイの色が同じ、つまり同じ一年生だった。

 男の方は短い天然パーマに毒蛇のような三白眼を持つ少年で背丈も同じだが翔よりは若干細い感じだ、恐らく彼がブラックマンバだろう。

「君が……ブラックマンバかい?」

「ああ、ブラックマンバこと江藤弘樹えとうひろきだ」

 弘樹に右手を差し出されて翔は彼の手を握って握手を交わす。

「バルドイーグル……真島翔だ」

「ローンウルフのシオリ・ミヤサカ・カタヤイネンよ、よろしくねバルドイーグル」

「シオリ・ミヤサカ・カタヤイネン……フィンランド人なのかい?」

「鋭いわね、正確にはハーフよ。パパがフィンランド人でママが日本人なの、シオリでいいわ翔」

 シオリ・ミヤサカ・カタヤイネンはパッと見では銀髪のショートカットに狼のように鋭く青い瞳を持ち、北欧系美人の顔立ちで冷たい印象だ。小柄でスレンダーなシルエットにも関わらず近寄りがたい雰囲気はまるで雌の一匹狼ローンウルフだ。

 日本語の発音もネイティブで違和感がない。

「ああ江藤君、隣失礼するよ」

「弘樹でいいぜ翔、昨日は見事だったな……M4カービンを持っておけば勝てたかもな、おかげで弾薬を七~八ミリ口径に統一するハメになったよ」

 弘樹は苦笑しながら弁当箱を開けると、翔も弁当箱を開ける。それから三人でランチを食べながら昼休みを楽しみ、DUOのことを色々と話しをした。

 初めてログインした時のこと、リアルでのこと、そうこう話してるうちに弘樹とシオリもリアルでSIJ社の訓練場に通ってると話した、あっという間に打ち解けていくとシオリがこんな話を持ちかけた。

「ねぇ、せっかくこうして会ったんだからさ、ギルドとか組まない……あと一人、あのレイヴンって子も誘ってさ」

 シオリの提案に、翔もそろそろどこかに居を構えようと思っていたが、一人では家を買う資金を溜めるには時間がかかりすぎるし、見ず知らずのギルドに所属すれば自由もなくなるがこの二人も自由気ままにプレイしてるみたいだ。

「そうだな、いつまでも遊牧民か放浪者みたいにあちこちを転々としてる訳にもいかない……その点では賛成だ、だがレイヴンを誘うのか?」

 弘樹はギルドを組むことには賛成したが、あの黒髪のレイヴンという正体不明の女を入れるのはどうかと懐疑的な顔をしていた、顔を隠すだけでギルドに入れるかどうかと考えるなんて昔だったら考えられない話しだ。

「レイヴンとは連絡先交換してるし……彼女私たちと同い年だから多分来てくれるわ……弘樹、翔、今夜ログインできるなら夜の七時三〇分にパルファシティ駅に来てくれる?」

「ああ、翔はその場所わかるか?」

 シオリと弘樹の問いに翔は肯いた。


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