第一章、その1
第一章、新しい日々。
一年後、二〇XX年四月二五日、熊本県熊本市中央区。
翔の学校――私立細川学院高校、通称:細高もそうだが、入学式から数日経てば遅かれ早かれ自然とクラスのグループができる。
それは同時にクラス内の階級がそろそろはっきりしてくる頃だ。
わかりやすく言えば一軍、二軍、三軍と分けられ、それぞれの間には越えられない壁があり、更に一軍には上位と下位に分かれている。
上位の一軍連中「容姿が良い」「運動部のエース」「成績優秀者」「コミュニケーション能力が高い」「空気が読める」等の条件を複数、あるいは全部満たしている。
一軍下位には上位の取り巻きで前述した物のどれか一つを満たしてるか、単に仲がいいか腰巾着、パシリ等様々だが、こいつらには意外と性質の悪い奴がいて、上には媚を売って下には徹底的に威張り散らしたり、巻き上げる者もいる。
二軍はメジャーではない運動部、吹奏楽部等の格上に見える文化系部、あるいは目立つ訳でもないが目立たない、派手でもなければ地味でもない、良くも悪くも「普通」「平凡」「真面目」という言葉が似合う、ある意味一番穏やかな生活を送ってる生徒たちだ。
楽しい学校生活や明るい青春を送れるのはここまでで、三軍となると悲惨だ。
「容姿が悪い」「運動音痴」「成績が悪い」「コミュ障」「空気が読めない」等のマイナス要素を複数持っていると下位に追いやられる、そうなればぼっちにもなって上位グループ連中の最大の娯楽であるいじめの標的にされる。
標的が自殺したり、不登校になっても代わりはいくらでもいる。
真島翔はというと、ランク外だ。
部活にも、どこの友達グループにも属さない、ランク外の人間は不良だったり、図書委員だったり、斜め上を行く個性的な奴、分類が正直難しい奴らだ。
翔の場合は教室と言う狭い所に居場所を見出さず、外に見出していた。
放課後になると、狭い鳥かごから飛び立つ鳥のように教室を飛び出して自転車に乗り、数年前に広大な土地を買い取った資産家が貸し出してる私有地へと向かう。そこは南アフリカに本社を置き、世界各国に支社がある民間軍事会社ストラトス・インターナショナル社の日本法人ストラトス・インターナショナル・ジャパン――略称:SIJ社がある。
翔はそこで生活していて、翔の育ての父親はイギリス人の元陸軍元少佐だ。
「おかえり、学校はどうだったかい?」
「どうってこともなかったさ」
社員寮に帰ってきて早々育ての父親に訊かれ、翔は適当に答える。
育ての父親、ダニエル・スターリングは短髪で縦長の四角い顔立ちに、太い繋がり眉毛の飄々とした中年男だが、身に着けてる装備品の下には極限まで鍛え上げた鎧のような肉体に無数の傷跡が残ってる。
曰く、九・一一後の戦争や第三次世界大戦の傷だという。
数年前、第三次世界大戦が勃発した。
NATO、ロシア、中国の三つ巴で戦争を始めて中南米やアフリカ、中東、東南アジア諸国と手を組んでそれぞれの思惑が複雑に絡み合って潰し合いが始まった。
戦火を辛うじて免れた国はイギリス、マダガスカル、フィリピン、ニュージーランド、台湾等の島国で日本も辛うじて戦渦に晒されることはなかったが、大陸からの難民が大挙して押し寄せてきた。
国内の治安は悪化し、大量の銃火器が流れ込み、数年前に超法規的措置として国民の生命と財産を守るためと言って銃刀法を大幅に緩和、政府は要するに自分の身は自分で守れと丸投げした。
おかげで今ではスマートフォンのように護身用に拳銃を持ってることが当たり前になると、予想通り犯罪も激増して警察も手をこまねいていた。
そこへ海外から警察業務を代行するPMCが現れた。
従来の業務に加え、犯人の事情聴取等を除いた事件の捜査や逮捕、事後処理まで行っている。
第三次世界大戦は一昨年に終わったが、未だに世界各地で地域紛争が続いて戦後処理も停滞してる、本当の意味では終わってないと言えるだろう。
スターリングはSIJ社の実働部隊指揮官で、その養子でもある翔は高校入学数日前から社員寮の一室で生活している。
その前はイングランド支社で暮らし、翔は小遣い稼ぎのアルバイトと勉強も兼ねて銃の整備や簡単な修理と、自己鍛錬のために戦闘訓練を受けていた。
もっともここの訓練施設はまだ建設中の場所がいくつもあり、できるたびにスターリングを教官として各種訓練を受けるつもりだ。
翔はこれまで各種武器の取り扱い、サバイバル術、偵察、爆発物の取扱い、狙撃、カムフラージュ技術等を学んだ。装備を身に着け、大量の弾薬を消費する訓練を終えたら夕食、その後は夜の一〇時頃までDUOで遊ぶ、それが最近の日課になっていた。
夕食を食べ終えてログインすると、チームデスマッチの参加依頼があってそれに参加することにした。
バルドイーグルこと翔は予備マガジンや手榴弾を収納するポーチを付けたプレートキャリアに迷彩服とブーニーハット、メインアームはカスタムしたAK103とサイドアームとして四五口径傑作自動拳銃M1911A1のカスタムモデルを装備してる。
攻撃力と機動性を重視した装備だった。
「やあ、もうこんなに集まってくれたのか!? ありがたい!!」
酒場で依頼主であるギルドマスター『トルネードマン』という名の男が嬉しそうに言う。
バルドイーグルはソロプレイヤーで一人で冒険してモンスターを狩ったり、ギルドの依頼を受けて一時的に加盟して報酬をもらう傭兵のようにゲーム内通貨を稼いでいる。
今回依頼したギルド『赤い山猫団』はチームデスマッチの申請を受けたが人数が足りずに人を集めたらしい。集まったプレイヤーたちはみんな装備がバラバラで、リアルだったら補給も整備もへったくれもないだろうと思いながら訊く。
「えっと、フィールドの詳細を教えて欲しい……場合によっては迷彩服を着替えたい」
「ああ……ここから三キロ西にあるジャングルだ、モンスターも大人しい奴ばかりだが気をつけてくれ、既に相手方もヘリで移動している」
トルネードマンは西部開拓時代のアウトローのような風貌で、ホルスターには使い方次第では恐ろしい武器にもなるコルト・シングル・アクション・アーミーを差している。
「こちらもヘリで移動か? まさか西部劇の馬か馬車じゃないよな?」
ソロプレイヤーの男が言うと集まったプレイヤーたちから笑いがこぼれる、バルドイーグルも思わず笑みを浮かべた。
「正解だ、もっとも鋼鉄の馬車であるトラックだが……外に用意した。準備ができたら乗ってくれ」
トルネードマンが言うと翔はすぐにスマホでDUOのアプリを開き、市街戦用デジタル迷彩から、かつて存在したアフリカの国ローデシア(現在のジンバブエ)軍の迷彩にチェンジした。
すぐにトラックに乗り込もうとすると、長く艶やかな黒髪を後ろで結びケブラーマスクに緑を基調とし、森林用デジタル迷彩マントを羽織った女の子が座っていた。表情がわからないから不気味だと感じながらバルドイーグルは訊いた。
「隣、失礼していいかな?」
「どうぞ」
彼女が一言だけであとは喋ろうとしない。酒場では壁に寄りかかって腕を組んでみんなから一歩離れた所で話しを聞いていて、自己紹介の時に確か「レイヴン」と名乗っていた。
ケブラーマスクやバラクラバ等で顔を隠したプレイヤーも珍しくない、以前にネットで聞いた話しだがゲームをしてたらリアルの友だち、会社の同僚や先輩、上司に出くわしてそのギルドへ強引に勧誘されて困ったことがあるという。
バルドイーグルはDUOの日本サーバーに友達もいなかったから顔を隠そうとは別に思わなかった、一度だけクラスメイトらしき人とすれ違ったことがあったが。
ぞろぞろと装備を整えた連中がトラックに乗ると、運転席に赤い山猫団のメンバーが運転席に乗り込む。
「それでは皆さん! 出発しますよ!」
運転手がそう言うとエンジンがかかり、トラックが動き出した。その間彼女とは一言も喋らず、スマートフォンを弄ってフィールドの情報を集めていた。
一時間後、そこのジャングルでバルドイーグルたちは窮地に陥っていた。
チームデスマッチのルールは簡単、二手に分かれてどちらかが全滅させたら勝ちで、こちらのメンバーは残り三人、敵は二人だけになって数的には有利だが全く動けない状態だった。
バルドイーグルは大木の陰に生えてる茂みに隠れ、時折顔を出して様子を見ようとするがそのたびに銃弾が飛んでくる。
『奴らめ……この場所を選んだ理由がよくわかったぜ』
どこかに隠れてるトルネードマンは無線機越しに悪態を吐く。
『どうやら奴らの中に狙撃手、しかも優秀な観測手までいるみたいだ、バラバラに飛び出した四人を連続でワンショット・ワンキルを決めやがった!』
「位置が掴めたとしても、僕のAKで届くかどうかわからない……AKの予備マガジンがもうないし、1911では話しにならない」
『こっちはSAA三挺と弾切れのマーリンライフルだけだ……他に誰か残ってないか?』
『こちらレイヴン、見つけたわ。あたしの前方四〇メートル先に二人、観測手とスナイパー。二人ともギリースーツを着てる……あたしも拳銃の弾しか残ってない』
さっきの女の子――レイヴンが無線で伝えるとバルドイーグルは腕につけたスマートフォンを開いてDUOのアプリからマップを開く、すると矢印で表示されてトルネードマンは自分の南南西の約二五〇メートル先にいて北北東をの方を向いてる。
レイヴンは東北東の約五五〇メートル先、南南東を向いてるその四〇メートル先に敵がいるということになる、トルネードマンもマップを開いたのか無線で指示する。
『遠いな……よしバルドイーグル、君はレイヴンの所へ行け! 私が注意を引く、無線はオープンのままにしてくれ、私が銃を撃ったら移動してくれ』
「了解」
バルドイーグルは返事するとスリングで首に吊るしたAK103を左脇に通して丁度侍が刀を差すような格好になると、遠くで乾いた銃声が三連続で鳴り響き、続いて甲高い銃声が響いた。
『よーし撃ってきた……さあ来い!』
トルネードマンが絶望的な陽動してる間にバルドイーグルはその隙に飛び出し、崖下に隠れ、全力疾走で崖下を辿る。
現実と同様走ると心拍数が上がり、筋肉が悲鳴を上げて呼吸も荒くなる。
転ぶと泣きたくなるほど痛いし、銃弾を受けた時は死ぬほど痛いと感じた。水に落ちたら苦しくて溺れそうになった。よくできたゲームだと感じたが最近ではそれが当たり前になって、そのうち感じることもなくなった。
崖が途切れると急な坂を登って敵の射角に入らないよう慎重かつ、迅速に動く、また銃声が何回か聞こえると今度はレイヴンが緊張した口調で喋る。
『観測手が動いたわ! ライフルを持ってキョロキョロ見回して何か言ってる!』
奴らはきっと敵が近くに来ていて仲間を呼び、近距離戦に持ち込もうとしてると悟ったかもしれない。
『見つけたぞ! 二人ともギリースーツを着てる! 位置は――』
トルネードマンが何かを言おうとしら無線越しに銃声が響くと、同時にガラスの割れる音とスイカが砕け散るような生々しい音が聞こえた。
視界の左隅にメッセージが表示され、トルネードマンがやられたことを示してる。
トルネードマン:死亡。
ブラックマンバがヘッドショット。
無線機越しに聞こえた音からして、双眼鏡で見つけたのはいいが反射か何かで見つかり、もしかしたら双眼鏡ごと眼球を撃ち抜かれたのかもしれない、位置がバレてるのに顔をだして双眼鏡を出すなんて狙撃してくださいと言ってるようなものだ。
現実では夜だが、ゲーム内では午後の明るい時間帯だ。太陽に反射して見つかったんだろう。
『観測手がまだあたしを探してるわ……狙撃手も銃で探してる』
レイヴンの所まであと二〇〇メートル、見つからないように隠れながら進む、だが敵の姿は見えない。
一〇〇メートル、いや一五〇まで接近して目視で撃てば辛うじて届くがAKの弱点の一つとして命中精度だ、セミオートで撃ってラッキーストライクを狙うか? 駄目だ! 奴らは二人ともスコープ付きのライフルを持ってる、そこからだと至近距離だ!
「レイヴン……奴らの武器は……わかるか?」
走って息を切らしながら訊くと、レイヴンは不安げな声で言う。
『えっと……観測手はダットサイト付きのスコープを載せたAR15、狙撃手はボルトアクションライフルを持ってる』
「わかった、絶対に見つからないでくれ、もし発見されたら一〇メートル以内にまで接近するしかないぞ」
『うん、頑張ってみるわ』
レイヴンがそう言いながら無線機越しに自動拳銃のスライドを引くのが聞こえた。
AR15系統は五・五六ミリNATO弾を使用する突撃銃で、M16やM4カービンはそれの米軍制式名だ。命中精度が高く、各社からクローンやカスタムモデル、各種口径モデルが発売されてるので狙撃銃や軽機関銃、更には拳銃弾を使用する短機関銃モデル等様々で、豊富なパーツやバリエーションが用意されてるから、自分に合わせた改造ができるのが特徴だ。今では東欧やロシア等、冷戦時代のかつての敵国まで生産してるという。
バルドイーグルが持ってるAK103は旧ソ連のAK47の直系の子孫で、東欧や中国などで生産された物とは違って純正品だ。AR15が精度を重視したのに対してAKは化け物じみた耐久性だ、こいつはとにかく汚れや過酷な環境に強く手荒く使ってもトラブルが起こり難い。AR15とは冷戦時代から九・一一後の対テロ戦争、そして第三次世界大戦まで血で血を洗う争いを続けた宿命のライバルだ。
それはDUOの世界でも同じだ。
バルドイーグルはそう思いながらレイヴンの所まで走ると、木陰に隠れてそっと様子を伺う。
いたぞレイヴン。それにAR15を持った観測手、彼女の言う通りスコープに近距離戦ようのダットサイトを載せていてギリースーツを着てる。レイヴンの隠れてる茂みまであと数メートルだ! どうするこっちが発砲すれば倒せるが相棒の狙撃手に発見される可能性がある。
迷ってる暇はない! バルドイーグルは決断を下してAK103をセミオートで発砲してすぐに隠れ、観測手はその方向にAR15をフルオートで短く連射すると異なる銃声が響いた。




