第五章、その2
部屋の中にあった物で武器になりそうな物はない、敵から奪うしかないと思ったがどうやって?
もう夕食の時間だ、外は日が暮れていて時刻は六時だ。
『こんばんわ。六時のニュースです。まず最初に――』
壁越しにNHKニュースが始まったことがわかる、話し声は聞こえないがお茶を注ぐ音やご飯を盛り付けする音も微かに聞こえる。
すると、鍵を開ける音がして開くと食事を載せたお盆を持った男が入ってきた。
「食事だ、食え」
「すまない……一人なのか?」
「まあな、そこら辺の仕事よりはいいが一人で管理は退屈でね、逃げようと思わないでくれよ」
面倒臭いそうに言う男は二〇歳前後で56-2式突撃銃を持っている、私服の上には紛争地帯の武装勢力が使ってる56式チェストリグを装着していて民兵そのものだ。
「ああ、他に捕まってる奴とかは?」
「あんた一人さ、ここは仲間になってくれそうな奴を閉じ込める場所、人質とか反抗的な奴は別の場所に放り込んでいる……まあ、期待してるぜ」
男はそう言って食事を渡すと隣の部屋に戻って行った。食事はご飯と味噌汁に豚の生姜焼きと期待されてることは確かだが、拒めば途中で通りかかったようにリンチ、あるいは拷問される可能性はある。
とりあえず食事を摂ると翔は敵が致命的なミスを犯してるのに気が付いた。
連中は統制された軍隊ではなく寄せ集めのギャングだ。それによく考える一人でここを管理してるとなると必ず隙はあるはずだ。
やるなら今しかない、今頃敵も夕食時で警戒が緩んでる可能性もあると思いながら翔は食べ終えて決心し、隣の部屋にコンコンと壁を叩いた。
「ん? もういいのかい?」
男がやってくる、扉が開く音がして足音が近づくと翔はドアから見える部屋の僅かな死角に隠れ、足音が近づき、鍵を開く音がするにつれて心拍数が上昇する。これは現実だ、久し振りに現実での戦闘になる、DUOとは違って「GAMEOVER」は「死」を意味する。
「ん? 隠れたつもりかい?」
男は呆れ口調からして明らかに油断してる。翔は右手で凶器を隠し持って姿が見えた瞬間、一瞬で背後に回り込んで左手で口元を押さえ、箸をナイフで突き刺す要領で男の眼球に一突き! 手応えあり! 更に止めとして反対の眼球を深く刺してそのままグリグリと脳味噌をかき回した。
男は静かに事切れると、翔はそっと床に置いて56-2式を取って作動チェック、チェストリグもマガジン三つとスマートフォンに財布が入ってた、財布は逃走する時に役立つ交通費が入ってるかと思ったら一〇〇〇円札一枚だった。
スマートフォンはロックがかけられているが電話はかけられるはずだ。
だがここで会話したら他の敵に聞かれる可能性がある。
翔は鍵を閉めて隣の部屋に行くと、拠点の地図が書かれていた。パソコンで書いた物らしく正確に書かれていて現在地もわかるラッキーだ! 監視塔や武器、弾薬庫、おまけにここの位置までわかった。
『今夜は熊本県南部は大雨になる模様ですが朝には晴れるでしょう』
天気予報のアナウンサーの告げる通り、外は雨がぱらつき始めていた。
地図を頭に叩き込んだうえで折り畳み、ポケットに入れた。招待所を出ると雨脚は強まって視界は非常に悪く、敵を見つけにくい。
逆に言えば敵に発見されるリスクも低いということも意味する。
翔は道を進まず、大麻畑に入って近づく敵や車をやり過ごした、雨脚は強まる一方だがここの出入り口の管理は厳重だ。検問に加えて監視等から絶え間なくライトが照らされている。
まるで潜入任務だと翔は緊張した面持ちで思う、連絡できそうな倉庫にも警戒してるスラッシュの構成員がいる。彼らの目を掻い潜って回ると他に入り口はない、それならと鹵獲品倉庫の壁に向けて石を投げて音を立てた。
「ん? 何だ?」
「どうした?」
「ちょっと物音がしたような気がする、見てくる」
一人が離れるともう一人は持ち場を警戒する、翔は離れた一人を音もなく背後から襲って首を捻り折って「除去」した。
「どうした? 何かあったのか?」
雨音に混じって立てた水音に気付いた敵が近づいてくる。翔は引きずって角に置いて死角に隠れると駆け足で寄ってくる。
「大丈夫か!? おい……」
不安げに死体に寄ってくる敵を翔は再び背後から襲い、一瞬で敵の首を捻り折った。
敵の装備を探って鍵を取る、タグには鹵獲品倉庫と書かれていた。鍵を開けて中に入って電気を点ける、その中には翔の装備品もあったしどこで手に入れたのかC4爆弾も大量にあって思わず苦笑した。
どこでそんな物を手に入れたんだ? 翔はプレートキャリアの中身をチェックする。
マガジンに入った弾薬、拳銃は抜き取られておらず、スマートフォンや財布もポーチに鍵も中に入っていた。
ハードケースは弄られた痕跡は殆どなく、開けてみると中にある翔のAKMカスタムは無事だった。
高品質なブルガリア製AKMをベースに、タプコ社製バードゲージフラッシュハイダー。ミッドウェイ社製レール付きハンドガードにはタンゴダウン社のショート・フォアグリップにエイムポイント社製ダットサイトが装着され、セレクターやマガジンキャッチレバーはクレブス社の指一本で操作できるようカスタムした物を使い、ストックはマグプル社のMOEストックを使用してる。
口径は勿論七・六二ミリロシアン・ショート弾だ、殺傷能力も高くて安価だ。
どうやらスラッシュは名前ばかりの素人集団のようだ、だが油断するのも危険だと思いながら明かりを消してスマートフォンを取り、GPSで位置を確認すると、下益城郡の山間部だった。
翔は弘樹に電話をかけた。
『もしもし翔なのか!?』
「ああ、今スラッシュの拠点にいる。なんとか抜け出して装備を奪い返したところだ」
『翔、これから助けに……というよりスラッシュの殲滅に向かってるところだ』
「マジか? どこに行けばいい?」
『あっ、佐竹さんが変わりたいって、変わるぞ』
弘樹の声から佐竹の声に変わる間に車のエンジン音が聞こえて、車内にいるのがわかった。
『やぁ真島君、まさか一人で逃げるなんて驚いたよ。手短に話す、あと一〇分で攻撃の第一陣が北から到着する……合流場所は南にある橋で合流しよう、但し真っ直ぐ行くな。攻撃に巻き込まれてミンチになる可能性だってある』
「わかりました、必ずまた会いましょう」
『ああ、切るぜ』
電話が切れると助けが向かってるのは確実だ、時間はもうすぐ午後七時だ。そろそろ晩飯を終えてる頃だろう。
翔は袋にC4とタイマー、信管を持ち出せるだけ持ち出し、ドアに細工を施して外に出ると殺した二人の死体に細工、南を目指すと構成員たちの叫び声が聞こえた。
「脱走だ! 招待所の奴が殺された!」「脱走した奴は見つけ次第射殺しろ!」「脱走? 招待所が?」「だから招待所の警備は薄いって言ったのに!」「まだ近くにいるはずだ探し出せ!」
連中が血眼になって探してる中を翔は雨と暗闇に紛れて車や弾薬庫にC4をセットすると、鹵獲品倉庫の方で爆発が聞こえた。どうやら死体に仕込んだ手榴弾が爆発したらしく更に二度目の爆発、誘爆したかどうかはわからない。
「おい! あの爆発は何だ? 敵襲か!?」「知らんがな、脱走した奴かもしれん! 益永さんが言ってたが猛獣らしい!」「畜生、捕まえたら八つ裂きにしてやる!」
サプレッサーがあればと思ったが戦闘が目的ではないと翔は首を横に振った。すると今度は鹵獲品倉庫が盛大な爆音を上げて吹っ飛んだ。
その爆発はMi24ハインドのコクピット内後席のバーナード・サザーランドからも見えた。ナイトビジョンを使用しながら彼は機体の操縦に集中しつつ、敵の拠点が近いと確信した。
アフガン、イラク、そしてオサマ・ビンラディン抹殺作戦で第一六〇特殊作戦航空連隊としてMH60ブラックホーク一筋を信念としてきた彼は今、冷戦時代の敵国の兵器を、平和の国日本でハインドを操縦することに人生の奇妙さを感じながらも気を引き締めた。
「サザーランド大尉、今爆発が見えました!」
「ああ、こっちも見えた。目標地点はもうすぐだ!」
「マスターアームスイッチ(武装した航空機の安全装置)解除、いつでも攻撃できます」
ナイトストーカーズ時代の部下であるロバート・ハサウェイ元中尉は未だに大尉と呼んでくれてる、気を引き締める時や任務中の彼の口癖だ。
北から侵入すると目標の集落を発見、無線で伝える。
「こちらホテル01よりホテル02、目標の集落の発見攻撃を開始せよ!」
『ホテル02了解、攻撃を開始!』
編隊飛行してる後方のハインドからロケット弾が放たれ、前席のハサウェイもB8V20ロケット弾ポッドに搭載したS8DFサーモバリックロケット弾が放たれてロケット弾が放たれた。
翔は既に集落の外れにいてロケット弾の雨が降り注ぎ、集落は一瞬で阿鼻叫喚の地獄とし化した。雨音に混じってヘリの爆音が聞こえてハインドが現れ、まるで暗闇に紛れて現れた死神のようで機銃掃射しながら通過。
曳光弾が闇夜を切り裂き、直撃を受けた構成員は破裂して肉片を撒き散らし、掠っただけで体の半分や四肢が消し飛んだ。
五〇口径の一二・七ミリ弾ではなく、連射速度と威力から二三ミリを使ってるのだろう。スラッシュの構成員たちがテクニカルに乗り込むとそうはさせるか、と翔はハインドが離脱する瞬間を見計らってスイッチを押しC4を起爆させ、統制が一気に崩れことを祈りながら合流ポイントを目指した。
南側の検問所近くで車を降りると、全員弾薬を薬室に装填し、彩はPVS15ナイトビジョンを降ろすと誤射を防止するため彩を含めてみんな赤外線ストロボ装置を装備してるのがわかる。
彩ははぐれないよう前にいる弘樹について行き、検問所に向かう。検問所では既に戦闘が始まっていて、SIJ社のテクニカルが検問所を銃撃してるのがナイトビジョン越しに見えた。
その光景は映画やDUOで見た光景より地味に見えるが、それがより一層現実だと感じさせた。
「彩、狙撃するからどいて」
シオリはナイトビジョンを上げてサプレッサー付きSRSA1を構える、暗視スコープを覗き、雨音に混じって狙撃、銃声も殆ど聞こえなかった。
DUOで狙撃銃を彩は使い、すぐに挫折したことがある、ゲームでも弾道や風、気象でずれる設定がされてるが現実ではもっとシビアなはずだと。
南の検問所が沈黙して通過すると彩は思わず立ち止まる。
頭を撃ち抜かれて後頭部が砕け、脳味噌が飛び散った死体。腹部に複数の銃弾を受けて歯茎を剥きだしにして目を見開いて苦痛に歪んだ顔の死体。上半身だけになり、内蔵がぶちまけた死体。逆に上半身が消し飛んだ死体。
凄惨な光景に彩は思わず吐き気が込み上げてきそうだ、これが……現実? そう思ってると、弘樹に急かされた。
「モタモタするな! 早く来い!」
「あっ、はい!」
「……大丈夫だ、あんなのすぐに慣れる。嫌でもな」
弘樹は察したのかドライな口調で言った。
検問を通り抜けると、味方の通り過ぎた後は死体と瓦礫の山だ。彩はガリルACE31を構えて警戒しながら進む、ナイトビジョンを通した視界の中で何かが動いた気がした瞬間、彩は殺気を感じてDUOでやったようにダットサイトを覗くと誰かが代わりに撃ち抜いた。
「敵が潜んでるぞ! 隠れろ!」
スターリングが叫ぶと反射的にみんな素早く手近な遮蔽物に隠れ、彩も一瞬遅れて瓦礫の中に隠れると、今いた空間に銃弾のシャワーが降り注いだ。
あと一瞬遅れていたら今頃自分は肉塊に成り果てていた……そう考えると全身から冷や汗が噴出し、雨に濡れた体が本当に凍り付きそうだった。
「神代 右の一五メートル先にいるぞ!」
弘樹はAR15カスタムをフルオートで三~四発ずつ撃ちながら叫ぶ、彩はナイトビジョン越しに見える敵を探し、引き金に指をかける前に敵は血を噴出して倒れた。
「クリア、敵沈黙」
佐竹が淡々とした口調で言うと、銃撃は止んでいた。
まるでサイボーグだと彩は戦慄した。潜んでいる敵の位置を正確に突き止め、殺人マシーンのように確実に殺していく、彩は銃を撃つ暇がなくてついて行くので精一杯だった。
『こちらユニフォーム01! 今02と隊員をヘリボーンで降ろしたが敵の攻撃が激しくて孤立してる! 援護を! ドアガンの弾薬が切れる!』
『こちらアルファ6-4! 降下した場所から敵が潜んでた! 負傷者も出てる! 速く来てくれ! このままじゃ作戦どころじゃない!』
ヘッドセットのイヤホンからヘリパイと降下した隊員の悲痛な叫びが聞こえる。
彩は北西の方を見ると二機のUH1がドアガンを撃ちながら旋回している。
「おい、連中を助けに行くぞ!」
スターリング叫ぶとその方向に向けて走り出した。
翔は集会場に降下した部隊が敵に囲まれてる光景が目に入り、すぐに行動に移した。二機のハインドが入念にロケット弾と、機銃掃射で片付けたはずなのに蜂の巣をつついたかのようで、構成員たちがわらわらと沸いてきた。
しかもしっかり統制されていた。
翔は敵に見つからないように尚且つ素早く大麻畑を掻き分け、中国製RPG7(69式対戦車榴弾発射器)を構えようとした構成員に右側面からAKMを二発撃ちこむ、素早く接近して頭部に更に一発撃ちこむと、AKMからRPGに持ち替えて構えて道路を塞いでるテクニカルに照準。
距離はおよそ六〇メートル、この距離なら当たると確信して発射!
一瞬で命中してテクニカルは 成形炸薬弾を撃ちこまれ、派手に爆炎を上げて、荷台のガンナーは空高く舞い上げられた。
翔はRPG7をその場で捨ててAKMに持ち替えながら走る。
どうなったかはわからないが敵の統制にわずかな隙ができるはずだ! 翔の今いた場所に銃弾が集中する。スーサイド・ウェポン(自殺兵器)は一人で使うもんじゃないと翔は舌打ちした。
RPG7の欠点として命中精度の悪さと、 後方噴射が激しいことだから撃ったらすぐに逃げないと反撃が集中する。
「はぁ……はぁ……どうだ? よし、いいぞ」
翔は攻撃で穴の空いた穴に向け、上空のUH1の援護射撃と共に部隊が進撃を開始した。
さて……これからどうする? 下手に味方の前に姿を現せば降伏してきた敵と間違えられても文句言えない、この状況で佐竹さんや弘樹たちを探すのも難しいが合流地点に向かうとしよう。
「あいつだ! あいつがRPGを撃った奴だ! 撃て!」
背後から聞こえると翔は岩陰に向かって走ると銃弾が自分に向かって飛んでくる。すぐにAKMで数発撃ち返すが五人はいる、翔はポーチからRGD5手榴弾を取り出してピンを抜き投げつけると爆発とともに敵の断末魔が重なった。
手榴弾の炸裂でできた一瞬の隙に残りの敵をフルオートで掃射、トリガーを引いたまま弾切れになると、すぐにマガジンチェンジしてチャージングハンドルを引いて再装填。
翔は更に敵の増援が来ると覚悟していたが、既に周辺はSIJ社の部隊に制圧され始めていて集落にはハンヴィーやクーガー装甲車が侵入して随伴歩兵たちが周辺の掃討作戦を開始していた。
翔はAKMのマガジンを外し、セレクターをセーフティの位置にして左手でレシーバーを握り、右手にSIJ社の身分証を握ってゆっくりと車列に近づいた。
「おい、おーい! おーい!」
翔の叫び声に気付いた一人が他の仲間に何かを言ってる、すると四人くらいの男たちの中の一人が翔にフラッシュライトの光を当てて、目が眩む。
「ショウなのかい? スターリングから聞いたぞ」
聞き覚えのあるイギリス英語だ。ゴールデンウィークの時に阿蘇でサバイバル訓練を指導してくれたサバイバル教官のジョナサン・リック・ウィンターズだ。
「さっき逃げてきたところなんですよ」
「はっはっはっ! 独房王ヒルツにでもなったつもりで無茶でもしたのかい?」
ウィンターズは豪快に笑う、白髪のU字禿頭の大柄でガッシリした男だ。五三歳と兵士にしては高齢だが元SASサバイバル教官で九・一一後の戦争から第三次世界大戦まで参加した歴戦の勇者で、スターリングの恩師でもある。
「どちらかと言えばアンディ・マクナブですよ!」
翔はホッと胸を撫で下ろして笑みを浮かべた。




