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灰色のデッドライン  作者: 尾久出麒次郎
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第四章、その3

 谷川は彩の拘束を解いてバタフライナイフを抜いた。

「誰だテメェエエエッ!」

 谷川は跳びかかる猛獣のように叫びながらバタフライナイフで切りかかろうとすると、それを最小限の動きで回避、谷川のナイフを持った右手を掴んで捻る!

「あいでででで腕が折れる!」

 関節技をかけて谷川の手からナイフが零れ落ち、悲鳴を上げるとそのままコンクリートの地面に顔面から叩きつけられた。

「くっ! 動くんじゃねぇ!」

 愛美が制服のスカートの下から拳銃を抜くと、撃たれる前にハードケースを盾にして突撃、ライオットシールドをぶつけるかのようにタックルを仕掛けると愛美は二メートルくらいは弾き飛ばされた。

 中田と谷川が起き上がって二人がかりで襲ってくる。

「逃げろ! レイヴン! 走れ、絶対に振り向くな!」

 クラスメイトの真島翔だった、顔立ちも声も口調もバルドイーグルそのもので翔こそがバルドイーグルだと確信して呆然と立ち尽くす。

「バルドイーグル……真島君?」

「何をしてる! 走れ、急げ!」

 翔は向かってくる二人を相手にしながら叫ぶと、彩はごめんなさいと罪悪感を感じながら走り出してSP01を拾い、来た道を戻る。走れ! 走れ! バルドイーグル君がいたんならきっとすぐそこに仲間がいる。

 何台かの車とすれ違ったかと思いきや、遠くでパトカーのサイレンが聞こえて銃声が何回も響いて銃撃戦が始まったことを告げている。

 止まって振り向きたい衝動に駆られるが駄目だ! 一秒でも早く助けを呼ばないと、肺と心臓と筋肉が酸素を貪欲に欲しがって呼吸が乱れる!

 銃声を聞きつけた通行人たちは不安げに銃声の聞こえる方向を見て、不安げな表情になってるがすぐにその場から離れないと巻き込まれる。

 実際遠くから見物して流れ弾で死傷するケースは後を絶たない。

 SIJ社の訓練場に戻ると、遠くで聞こえる銃撃戦でざわついていたがすっかり慣れてる様子だった。


「また銃撃戦? どこだ?」「おいおい今日で三回目だぜ」「そういえば今日の午前中八代って所で銃撃戦があったぞ、ショッピングモールらしい」「やれやれ、イラクを思い出すぜ」


 彩は彼らを探す、どこ? どこ? どこ? ワタリガラスのように周囲を見回す、SIJ社の敷地は非常に広く陸上自衛隊健軍駐屯地並みだ。仕方ないと彩はスマートフォンを取って佐竹に連絡する。

『もしもし彩ちゃん、どうした?』

 ワンコールで出てくれた、彩は嬉しかったがすぐに助けを求めないといけない。

「佐竹さん助けて! 友達が、友達がスラッシュに!」

『今屋外長距離射撃場にいる、場所はわかるかい?』

「はい! 一回切ります!」

 彩は肯くと、山に面した長距離射撃場へと向かって走る、さっきとは違う所だが知ってる場所だ、入るとそこに佐竹もいたがそれ以上に驚愕した。

 そこにローンウルフとブラックマンバがいて思わずキャラネームで叫んだ。

「ローンウルフ、ブラックマンバ君!」

「えっ? レイヴン? レイヴンなの?」

 先に反応したのはローンウルフだった、銀髪のショートカットに狼のように鋭く青い宝石のように美しい瞳を持ち、北欧系美人の顔立ちで冷たい印象、小柄でスレンダーなシルエットにも関わらず近寄りがたい狼のような雰囲気とは裏腹に、仔犬のように甘えてくるローンウルフそのものだった。

「レイヴン? 本当に君は……レイヴンなのか?」

 ブラックマンバも驚きの表情を見せる。冷酷な毒蛇のような三白眼に短い天然パーマでDUOにいた時はブラックジョークや皮肉、放送禁止用語や差別用語を連発して清々しく感じるくらいに下品で口の悪い人だが、根は優しい仲間思いのブラックマンバだ。

「はぁ……はぁ……はい、お願いバルドイーグル君……真島君を助けて!」

 彩は息切れしながら顔を上げて懇願すると、佐竹は問いかける。

「勿論だが、彩ちゃん……でも本当のところ……君自身の力で助けたいと思ってないかい?」

「えっ?」

「いやねぇ、さっきの三発連続で銃声が聞こえた。あれは君が出したSOSだろ? それを察した真島君は駆けつけて助けたに来たが劣勢に立たされて逃げるように促した。こうなってしまったのも自分のせいだと思ってないか? もしかしたら、もう殺されてただの死体に成り果ててるかもしれないのに助けたい?」

 図星だった、佐竹はいつもの飄々とした男の顔ではない。冷酷で厳格な教師が生徒に本当の気持ちを問い詰めるようだった。

「……はい」

 彩は正直に肯くと佐竹は問う。

「もう殺されてるかもしれないのに生きてると信じたいか?」

「はい」

 彩は素直に肯くと佐竹は更に問う。

「生きてるなら助けたいか?」

「はい」

 彩は迷わずハッキリと肯くと佐竹は容赦なく問う。

「そいつを助けるためなら両手を血で汚す覚悟はあるか?」

「えっ?」

 彩は目を開いて頭が真っ白になり、次の瞬間には何を言ってるんだと言いたくなったが佐竹は問い直す。

「質問がまずかったな、真島君を助けるためなら人を殺める覚悟はあるか? 相手は残虐非道なギャングとはいえ人間だ。DUOとは違って一度その命を奪えばもう永遠に蘇ることはない。託された未来を、無限の可能性を、そして何代に渡って渡してきたバトンを永遠に断ち切ることになるぞ」

 佐竹の言葉は重い、引き金を引くだけで相手の命や未来が永遠に消えてしまう銃を持ち歩かないといけないという異常な日常が今や当たり前と化している。

 でも、これが普通なのかもしれないと彩は気付く。

 DUOでもそうだったように、引き金を引かなきゃ自分の命が奪われる。逆にいえば引き金を引かなければ、自分の命を繋ぐことができないということだった。

 それはつまりこういうことだと彩は言った。

「撃たなければ……真島君はもうこの世から消える。そうなったらもう現実で友達になることはできない、あたしは……真島君とは殆ど話したことがないし、知らない。バルドイーグル君なら知ってるけど真島君のことは知りません、だから……助けるために引き金を引きます!」

 彩は覚悟を決め、真っ直ぐ佐竹を見つめて凛と言った。

 自分の命が奪われる可能性も十二分にあることを知ったうえで言った。



 翔は銃声が聞こえた瞬間、全身に激痛と電流が襲い掛かった。恐らくはテイザー弾を装填した散弾銃で撃たれたに違いない、そこから記憶は途切れ途切れだった。

 撃たれた後、パトカーのサイレンが聞こえたがスラッシュの仲間を乗せたワゴン車がやってきて中から三人くらい現れた。

 その次は二台のパトカーがやってきてタボールを持った制服警官がスラッシュと銃撃戦を始めた、すぐに奴らはM72LAWかRPG22のような使い捨てのロケットランチャーを警官隊に向けて躊躇なく撃った。

 その次はワゴン車に乗せられる時だ、驚いたことに他のクラスの男子生徒とクラスメイトの女子生徒である小坂愛美だった。

 そして今はワゴン車の中でどこかに向かっているのは確かだが、目隠しされて後ろ手で手首を縛られている。

 装備品であるイーグル社のローデシアンリグやブラックホーク社のヒップホルスターごとEW1911、グルカナイフにビクトリノックスのアーミーナイフも没収された。

 中田と谷川を殴りつけたハードケースも奪われた。中にはブルガリア製のAKMのフルカスタムモデルが入ってる、パーツ集めにかなり苦労した代物だ。

 私物のスマートフォンや財布、ついでに家の鍵まで没収されて拘束された。

 クソッ! クソッ! クソッ! クソッ! これじゃアンディ・マクナブだ! 今どこに向かってる?

 車のエンジン音からではどこに向かってるのかわからない、そう思ってるとやけにキツイカーブを曲がったかと思えばワゴン車は一気にスピードを落とす。

 止まるんじゃないかと思うくらいの低速になったかと思ったらまた加速してキツイカーブを曲がり、そこから一気にエンジン音が甲高く跳ね上がった。

 加速してる、しかも止まる気配はない……そうか、九州自動車道に入ったか! ってことはさっき減速したのはインターチェンジ、あそこから一番近い所は益城熊本空港インターチェンジ! 通称益城インターだと翔は確信した。

 行き先は福岡方面か鹿児島方面のどちらかだ。

「おい、まさか逃げようなんて考えてないよな?」

 中田の声がすると、翔は試しに訊いてみた。

「今からどこへ行くんだ?」

「俺たちの家さ、逃げようなんて思うな……それに、まさかあんなに強いなんて思わなかった」

 谷川は自信満々に言う、家ということはスラッシュの拠点になってる所と考える。となればスラッシュのボスや幹部構成員がいるとすれば……この場所をどうにかして味方に報せれば一網打尽も可能だ。

「どうだ? スラッシュに入団しないか? そうすれば武器や装備も返すのは勿論もっといいものなんだって手に入れられるぜ、月給もそこらへんのバイトより良いぞ」

「魅力的な条件と聞こえる」

 中田の勧誘に肯定も否定せず、翔は情報を訊きだそうと試みる。

「家と言ってたがどんな所だ?」

「家と言うよりはそうね、ちょっとした村みたいな所よ」

 愛美が言う、ということは集落そのものかもしれない。

 翔は確信しながら彩の無事を祈った。

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