表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰色のデッドライン  作者: 尾久出麒次郎
12/20

第四章、その2

 佐竹は今日、イスラエルからアメリカ経由で届いたガリル突撃銃の近代改修型――ガリルACE32と短銃身モデルのACE31が五〇挺ずつ無事に届き、胸を撫で下ろして早速テストしようと昼食を終え、武器庫に向かうため屋外射撃場に行こうとした時だった。

「佐竹? 佐竹洋彦だよな?」

 後ろから声をかけられて立ち止まり、誰だと思いながら振り向くと、思わず目を見開いて動悸と目眩がしそうになったが、次の瞬間には虫唾が走った。

「俺だよ俺、益永一雄だよ。忘れた訳ないよな? 久しぶり、成人式以来だったな」

「あ、ああ……久しぶり」

 屈託のない好青年の笑顔は佐竹には悪意に満ちて見える。

「あれからどうだった? 無事に介護の仕事に就けたかい?」

「……まあしばらく続けてたが、四年前に辞めたよ、やっぱ向いてなかったよ……今はここで働きながら暮らしてるよ」

「へぇ、流石はPMCだなお前のような奴でも雇うんだな、まっどうせ使い捨ての戦闘要員だろ?」

「お、俺は戦闘要員じゃない……装備品調達・管理部門で働いてる」

 佐竹は今は土地の持ち主であることは隠して、表の顔では装備調達・管理部の社員として働かせてもらってる。

「装備調達・管理? いいね真っ当な仕事に就けて――あっ、PMCって世間から白い目で見られてるからな、真っ当とは言えねえよな」

佐竹はポーカーフェイスを保ちながら瞼を微かに動かす、ふざけるな! 県の治安改善のためにどれだけSIJ社の人たちが血を流しながら頑張ったと思ってるんだ! 警察に赤字覚悟で安く訓練を施したり、特殊部隊員から制服警官まで使えるタボールのセミオートライフル調達までどれだけの時間と金とかかったと思ってるんだ! 佐竹は静かに拳を握り締める。

 生まれ育った地元のためにSIJ社員として尽力し、仲間と一緒に県議会を説得してSIJ社オペレーターと地元住民の軋轢を生まないように尽くした。

 おかげでSIJ社の周辺住民は理解してくれたし、この前は交流会も開いてくれた。

「気に入らねぇって顔してるな、気に入らねぇなら気に入らねぇって言えよ」

ほら、そうやっていつも威圧的かつ高圧的になって気に入らねぇと言えば実力行使に出るだろ? おかげで右手の薬指が微妙に曲がっちまったじゃねえかよ! 佐竹はポーカーフェイスを保ちながら言った。

「気に入らないのは当然だし、昔みたいに実力行使してもここでは無駄さ、ここは俺の勤める会社内で俺もそれなりの地位に就いてる。俺はあんたと違って忙しいんだ」

 佐竹は遠まわしな警告をすると、益永は露骨に睨みつけるが不思議と昔のように恐怖を感じなくなった、数年前から自分を鍛えるためにタクティカルトレーニングや各種訓練に参加してる。

 おかげで学生の頃とは比べ物にならないほど、精神面体力面で鍛えられたしSIJ社の外国人社員とのコミュニケーションを取るにつれてコミュ障解消と英語を習得した。

「お前……調子乗るなよ!」

 益永は本性を微かに表して上着のポケットから小型リボルバーをチラつかせる、全く昔と変わってないなと佐竹は呆れた、昔も気に入らないことがあればナイフをチラつかせていた。

「そりゃこっちの台詞だ、下手に銃を抜いたらどうなるかわかるよな? ここでは俺が優位だ……無駄な争いはしたくない、俺は今ここで働いてる……君はどうしてる?」

 佐竹は率直に質問すると、益永は苦虫噛み潰した表情で答える。

「失業中だよ悪いか? 一流貿易会社で働いてたのに第三次世界大戦勃発で業績悪化してそのまま倒産したよ、直後に銃火器の輸入が解禁されてあと少し持ちこたえれば今頃、俺も安泰だったはずなのに」

 安泰な人生なんてない、一緒に仕事して銃火器の日本市場開拓した上司の言葉を佐竹は思い出した。

「安泰な人生なんてないぜ、俺からしたらな……誰かさんのおかげで安泰どころか明るい人生もなくなっちまったよ、それじゃあ俺は仕事があるからな」

 佐竹はそう言って武器庫の方に急いだ。



 彩は昼食を上通のイタリアンレストランで済ませると、いつものようにSIJ社の訓練場で射撃練習をするため二〇〇メートル先の距離も狙える屋外射撃場に来る、すると佐竹がいた。

「こんにちわ佐竹さん」

「やぁ彩ちゃん、いい物が手に入ったよ。試し撃ちしてみるかい?」

 佐竹がビジネススマイルで言うと、テーブルの上には長さの異なるライフルが置かれていた。

「ガリルACEですか?」

 見た目はAKの近代化モデルだがチャージングハンドルが左側面に付いてる、ハンドガードやレシーバー上部にはピカティニーレールがあってハンドガード上にサイトロンMD33ダットサイトが装着されてる。

 間違いない、DUOで愛用してるガリルACE――しかもAKの七・六二ミリ弾を使うガリルACE32と短銃身モデルの31だ。

 彩は興味本位で短い方のレシーバーに触れる。

「長い方がガリルACE32、短い方がガリルACE31だ……先日アメリカを通じてイスラエルから届いたんだ。ゴールデンウィークの時にタクティカルトレーニングは何を使ってたんだい?」

「AK47系統です、確かルーマニア製のカスタムモデルで……借り物だったのでちょっとわかりませんでした」

「なら、これはいいぞ。好きなオプションパーツがつけられるし重量もAKMと変わらない……ただチャージングハンドルとセレクターが異なるから気をつけてくれ」

 彩は慣れた手つきで作動チェックすると、手に油と金属の臭いがこびり付く。DUOではそんな機能は再現されてない、するとあらかじめ用意してたのか佐竹はAKの特徴的なバナナマガジンをテーブルに載せて言った。

「三番レンジで撃ってみるといい、距離は一〇〇ヤード(九一・四四メートル)だ。ゲームと現実の違いをよく認識するいい機会だ」

 彩はシューティンググラスとイヤープラグ、グローグを身に着ける、AK系統にシューティンググローブは必需品だ、素手で扱うと手が切り傷だらけになる。

 彩はガリルACE31を取ってマガジンを装着、重量感と感触はDUOと変わらないように感じるが、金属や油の臭いが現実だと言っている。三番レンジでガリルACE31を構え、標的に向けてセミオートで数発発砲。撃つたびに反動が直に襲ってくる。

 短銃身の七・六二ミリの反動は結構キツく、フルオートで撃つと暴れ馬だ。しかも銃声もかなりデカイ、たちまち三〇発撃ち尽くすとマガジンチェンジして更に撃つ、DUOでも発砲はセミオートが基本だ。

 九〇発撃った所で標的を確認すると、弾着はかなり広がっている。八・四六インチ(二一五ミリ)バレルではこんなものだし反動も相当なものだった、だが近接戦では恐ろしい物になる。

「ジェムテックHVTサプレッサーも装着してみる? 一緒に届いたんだ」

「はい、じゃあお願いします」

 佐竹の誘いに彩はジェムテック社製HVTサプレッサーを装着して撃つと大分違う、銃声が抑えられて甲高いものに変わった。全長は伸びると言ってもガリルACE32と変わらなかった。


 彩はガリルACEを三〇〇発撃たせてもらったあと、いつも練習してるSP01を二七〇発撃つ練習をする。そうなれば両腕の筋肉が悲鳴を上げてやっぱりDUOと現実は別物かと実感する。

 バルドイーグル君の言う通りDUOは現実と別物、DUOは――いえ、VRは現実を凌駕するどころか永遠に再現できないものね。彩は汗だくになりながらSP01をテーブルに置くと銃身はすっかり加熱して硝煙が立ち上ってる。

「今日のガリルACEはどうだったかい? AKユーザーとしては?」

 隣のスペースで拳銃の射撃練習をしていた佐竹が訊く、彼は1911を撃って練習していた。

「チャージングハンドルが左に付いていてホールドオープン機能があるのが凄く便利です。セレクターもアンビセイフティで硬いですけど扱いが楽でした……32の方ですけどセミオートでのグルーピングはAK47よりよかったです、31の方はリコイルコントロールがちょっと難しかったですね」

「そうか、感想ありがとう……弾薬代は払っておくよ」

 佐竹はあっさり言うと1911にフル装填されたマガジンを叩き込み、練習再開しようとするとマガジン一〇個分撃った彩は構えるより速く言った。

「いいんですか? 三〇〇発も撃ったんですよ」

「ああ安いウルフ社のフルメタルジャケット弾だからな、しかも弾薬庫で埃被ってた使用期限切れ寸前のものだったからな」

「えっ?」

「ほら、食べ物の最も適切な処理方法は食べることだろ? 君は美味しく頂いたのさ」

 センスのないジョークだと彩はそろそろ帰ることにする、愛銃のSP01には世界標準の九ミリパラベラム弾――フェデラル社の一二四グレインフルメタルジャケット弾が一八発、予備マガジンが制服のポケットに二つ入ってる。

「それじゃあたしもそろそろ帰ります、今日はありがとうございました」

「お疲れさん、今度MG3機関銃を撃ってみないか? 改造して毎分八〇〇発から一二〇〇発にしてMG42に先祖返りしたカスタムモデルさ、撃ちまくると気持ちよくてイッちゃいそうでいいぜ」

「セクハラと受け取りますよ」

「おお怖い怖い、まあ怖い目に遭いそうになったらいつでも呼んでくれ」

佐竹は両手を上げ、右手にはマガジンを外してホールドオープンした1911のスライド部分を持っていた。


 SIJ社訓練場を出るともうすぐ日が傾く時間帯でそろそろ帰ろう。帰ってまたDUOでみんなと会おう、そろそろコテージの生活にも慣れてきたからクエストに参加して、お金稼いで町までショッピングしよう。ローンウルフも一緒に買い物に行ってくれるかな? でもそろそろ自分たちの足となる車も買った方がいいかも?

 楽しみだと、彩はいつしかみんなに会うのを楽しみにしてるのに気付いて、いつしか穏やかな笑みが浮かんだ。

 あの人たちなら……リアルで会ってもいいかな? 困った時に正義の味方みたいに助けてくれるかな?

 そう思って足をピタリ止めると、神経を瞬時に研ぎ澄まして鋭い眼光を放つと終わりに近づいた春の風が吹き、長い黒髪がなびく。

 それはまるでワタリガラスが翼を広げるかのように。

「こっそりついてくるくらいなら、一緒に帰ろうって一言言ったらどうかしら?」

 彩が冷たく言い放つと、正面の曲がり角の影からあの時のように小坂愛美が現れた。

「あらあら、あたしのことコケにして言った割には厚かましいわね。あたしに今すぐ謝ればうちのクラスのプリーザーにしてあげるわ」

「サイドキックスのつもり? クラスのプリーザーのポストはもうないと思うわ」

 彩は冷たく言い放つ。背後から気配を感じ始める瞬間、瞬時にスカートの下にある右太股のホルスターからSP01を抜いてセイフティを解除、右腕を真っ直ぐ伸ばして後ろに銃口を向けると、数メートル後ろに谷川誠一と中田幸成がいた。

「動かないで、その気になれば二人とも撃つわよ」

 彩はトリガーに指をかけていつでも発砲できる体勢を取りながら眼光を愛美に向けると、愛美も制服のスカートの下にあるホルスターに手を伸ばしそうとする、それを大声で制止した。

「そこまで! あなたも動いたら後ろの二人を撃つわよ!」

「チッ! 察しが良いわね……」

 愛美は露骨に舌打ちすると、谷川は両手を上げながら言う。

「なぁ神代さん、その危ない物直してくれないか? こっちは銃を持ってないんだぜ」

 手に持ってないだけでしょ? 中田も両手を頭にやってるが背中に何かを仕込んでそうだ、彩は谷川の言うことを無視して訊いた。

「中田君、背中に何を隠してるの? 両手に頭をしてるつもりだけど、グリップが見えてるわよ。その危ない物は今すぐ捨てなさい」

「バレバレか」

 中田が出して地面に放り投げたのは水平二連散弾銃の銃身とストックをカットして極端に短くしたソードオフモデルだった。アメリカや法整備が進んでない日本でもこれはさすがに禁止されてる曰くつきの物だった。

「調子に乗るんじゃないよ、神代!」

 すると愛美は制服の胸ポケットからスマートフォンを取り出す、いけない! 仲間を呼ぶ気だと彩は銃口を愛美にシフトしようと思ったが、SP01でスマートフォンを撃ちぬけるほどの腕には自信がない。

 彩はSP01を上空に向けて引き金を引いた。一・二・三発と銃声が盛大に響いて更にもう一度、三発空に向けて発砲すると二発目で止まった。

 !? トリガーを引いても反応しない! スライドが下がったまま、エジェクションポートに空薬莢が引っかかってる。

 ジャムだ!

 排莢・装填時に起きる自動式の銃の宿命的なトラブル! 彩は慌てて空薬莢を排除して次弾装填しようとするが、その前に谷川に右手首を掴まれた。

 気付いた時には右腕を捻られ、SP01は手から零れ落ちた衝撃で空薬莢が宙を舞った。

 彩は右腕を背中に捻られて手首と肩の関節が悲鳴を上げる。

「あうっ!」

「捕まえたぜ、へへへへもう逃がさないよ神代さん」

 何とか振りほどこうとするが谷川はゲス顔の荒い息遣いで笑う、右腕の丸太のように太い腕が首にかけられて身柄を完全に拘束された。

「おいおい、谷川あんまり乱暴に扱うなよ。これからスラッシュの大事な人質だ」

 中田の言うことに彩は戦慄した、まさかこの人たちは……。

「そうよ。この子はこう見えても世界的な民間軍事会社イースト()・コースト()・シップス()の日本人社長の娘なんだから、身代金たっぷりいただいてスラッシュの資金をガッツリ貯めなきゃ」

 愛美の言葉に彩は恐怖に震えた。まさか自分の同級生が凶悪武装ギャング団スラッシュのメンバーだったことと、父親がECS社を経営してることをどこで知ったのかしら?

「神代さん、あんたECS社のこと知らないわけないよね? アメリカボストンに本社置く海運系のPMCで第三次世界大戦では兵器輸送代行及び海上警備で利益を上げたとは裏腹に銃火器を日本に大量密輸したり、戦後は堂々と大量に銃火器を輸入したって……知ってるわよね?」

「噂程度ならね……」

 彩はキッと愛美を睨みつけて言う。

「あんたが毎月貰ってるお小遣い、実は人の命を奪って稼いだものでしょ?」

 愛美は自分たちのことは棚に上げて嘲笑すると、谷川はウズウズした口調で言う。

「なぁなぁ小坂さん、早く連れて行って歓迎してやろうぜ。尤も俺が独り占めにするからよ」

「谷川、お前独り占めかよ。まっその気持ちは俺にもわかるぜ、連れてったらたっぷり谷川が乱暴してやるって――」

 中田が言い終わる前に背後から何者かが襲いかかり、一瞬で中田は縦長のハードケースに背中を叩きつけられた。

「ぐはっ!」

 中田は悲鳴を上げる。

 SIJ社の人? 各種ポーチを付けたプレートキャリアを装備し、腰には1911を差したホルスター、キャップを被って人相はわからないが日本人であることは間違いなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ