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灰色のデッドライン  作者: 尾久出麒次郎
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第三章、その3

「俺たちも行くぜ!」「俺も俺も!」「久し振りに暴れてやるぜ! コテージに篭って退屈してたところだ!」

 

 銃声を聞きつけてやってきたハンターや釣り人、カヤックで遊んでいたのかカラフルなライフジャケットを着ているプレイヤーもいて、全員対モンスター用の猟銃を装備していた。

 ブラックマンバは思わず「ヒューッ」よ口笛鳴らした。DUOでの大型のモンスター相手には出来る限り人数を集めた方がいい、生存率は勿論倒せる確率も上がる。それに大金やドロップアイテムは倒した者の手に渡るがモンスターの巨体から取れる素材はアイテムの材料としても高額で取引される。

「グルルルル……ヴォオオッ!」

「野郎ども! 撃ちまくれえぇええっ!」

 突撃してくるダイオウミズトカゲにブラックマンバが叫ぶと一斉に銃火が放たれ、バルドイーグルはその間にリロード、ダイオウミズトカゲは体の一〇ヶ所以上から血を噴き出しながらも怯まずに突撃、それで二、三人のプレイヤーが巻き込まれた。

「固まるな! 散らばれ!」

 BARを持った男が叫ぶと、一斉に散らばる。バルドイーグルは膝射の姿勢になり心臓部を狙ってスラグ弾を撃つ、排莢して装填、発砲! 既に全身穴だらけのダイオウミズトカゲは倒れる気配はない、あんまりやり過ぎると食べれる箇所を損なう。

 だが、そんなことも言ってられない。

「ヤバイ、避けろ! あの技だ!」

 誰かが叫んだ瞬間、口を開けて頭が飛んできたかのように迫り、隣にいたプレイヤーをトラバサミのように捕らえた。

「うわああああっ! デスペナルティは嫌だああああっ!」

 自分の命よりアイテムの心配をするという点ではゲームならではだろう、哀れなプレイヤーは鋭い歯と強靭な顎の餌食になって噛み砕かれた。

 即死攻撃か、聞いたことはあったがバルドイーグルが間近で見るのは初めてだ。

 ダイオウミズトカゲは即死攻撃として長い首を一度縮めて狙いを定め、バネのようにしてデカ口を開けて狙った獲物に向かって首を伸ばし、獲物をかみ殺す。

 DUOではゲームオーバーになると所持金やアイテム、弾薬をドロップして他のプレイヤーの手に行き渡ってしまうのだ。

 すまん回復アイテムと弾薬を使わせてもらうぞ。

 DUOでは他のゲームとは違って触れれば回収ではなく、手に取ってポケットに入れて初めて回収したことになる、だからこの状況では回収するのも命がけだ。

「バルドイーグル! 弾薬を回収しろ! 俺が押さえる!」

 ブラックマンバが叫びながら予備マガジンに交換して再装填、クリスセンテンを立射で撃つ。その間にバルドイーグルは走って12ゲージショットシェル六発を回収すると思わずニヤけてしまった

 悪いな使わせてもらうぞ! M870ESMのレシーバー横にあるサイド・アモ・キャリアに装着、まだポーチにもあるが中・小型モンスター用のOOバック弾しかない。

 本体のスラグ弾はあと四発、回収したショットシェルもスラグ弾だから合計あと一〇発しかない! それでも撃ちまくる。

 DUOはHPゲージをON・OFFできるがリアリティを追求してるバルドイーグルにはそんなものは必要ない。

「バォオオオオオッ!」

 ダイオウミズトカゲは相当なダメージを受けてるようだが、またあの体勢に入った。

「危ない! 避けろブラックマンバ!」

 バルドイーグルが叫ぶ先にはブラックマンバが、バルドイーグルはイチかバチかダッシュ! そして思いっ切り地面を蹴り上げてジャンプ! 両腕を大きく広げてブラックマンバを抱き締め、庇うようにしてヘッドスライディングするハメになった。

「大丈夫かブラックマンバ!」

「悪いな……来るぞ!」

 ブラックマンバが叫ぶと、バルドイーグルはブラックマンバを放して右方向に転がってブラックマンバも左方向に転がり仰向けの姿勢でM870ESMを構え、照準をバイタルゾーンに向けるとブラックマンバと同時に撃つ! 

「バォオッ!」

 ダイオウミズトカゲは怯んだかのように悲鳴を上げる、効いてる! 確信したバルドイーグルはポンプアクションして排莢、再装填。

 食らえ! 発砲するが倒れない! ポンプアクション!

 もう一発! 効いてるが倒れない! ポンプアクション!

 最後の一撃! 悲鳴を上げるが倒れない、ポンプアクション!

 引き金を引きが弾が出ない、弾切れだ! バルドイーグルは舌打ちしたが、ダイオウミズトカゲも絶え間ない十字砲火を受けて相当なダメージを受けてるはずだ。

「バルドイーグル! 下がってリロードしろ! 俺がカバーする!」

 ブラックマンバはライフルの弾が尽きたのか、サイドアームのタウルスM44に持ち替えてる。正直、マグナムリボルバー拳銃ではグリズリーサイズのモンスターを倒すのがやっとだ。

 バルドイーグルは立ち上がってサイド・アモ・キャリアから拾ったスラグ弾を抜くとそのまま薬室に装填、覚悟の笑みを浮かべてバイタルゾーンに狙いを定めて発砲! 凄まじい銃声と反動が同時に襲い掛かって仰け反りそうになった。

 ダイオウミズトカゲはさっきよりも強烈な痛みに悶え苦しんでる、拾ったスラグ弾は通常の二・七五インチ弾でも強力な三インチマグナム弾でもない。


 それ以上の破壊力を持つ三・五インチマグナム弾だ!


 しかもバルドイーグルの持ってるレミントンM870ESMは二・七五~三・五インチ弾対応モデルだ、正にエクスプレス・スーパー・マグナムと呼ぶに相応しい。

 攻撃力と引き換えに装弾数が減る上に、凄まじい反動で扱いには熟練を要するが最後の切り札と呼ぶに相応しい! バルドイーグルは素早くフォアエンドを引いて排莢、直接薬室に入れて再装填、発砲! 撃つたびに銃が吠え、衝撃がバルドイーグルを襲う。

「もう少しだ! HPゲージがレッドゾーンに入ったよ!」

 性別が分からないようなハスキーボイスのプレイヤーが叫んだ、よし! いける! 確信した! あと四発、三発、二発……。

「最後の一撃! 食らええええっ!」

 右腕と右肩の痛みに耐えながら叫び、最後の一発をバイタルゾーンにぶち込んだ。

 どうだ! いや、やったかと気を抜くな! バルドイーグルはサイドアームであるAMTジャベリナに持ち替える。

「バルドイーグル! あの技だ!」

 ブラックマンバがM44を撃ちながら悲痛な叫びを上げる。

 最後のあがきと言わんばかりに口を開けて首を真っ直ぐ伸ばす。

 ゲームオーバーか……だが、楽しかったぜ! ダイオウミズトカゲ! バルドイーグルはジャベリナを構え、撃ちまくった。

「うおおおおおおおおおっ!!」

 ホールドオープン、一〇ミリオート弾を撃ち尽くした……THE・ENDか。

 素直にゲームオーバーを受け入れようとした時、後ろで大口径ライフルの銃声が耳を劈き、ダイオウミズトカゲは怯んで悲鳴を上げた。

 DUOでは攻撃中のモンスターを怯ませて中断させることが出来る、だがそれには相当なマグナムライフルが必要だ……ましてやダイオウミズトカゲのような奴に攻撃を中断させるのは五〇口径クラスが必要だ。

 あの巨大なモンスターの攻撃を中断させて怯ませるなんて、バルドイーグルはぽかんと口を開けながら振り向くとクラシックなサイド・バイ・サイド(水平二連)ライフルでスコープすらない、小柄なプレイヤーだった。

「来るよ! 逃げて!」

 小柄なプレイヤーが叫ぶと、バルドイーグルは走りながらジャベリナのマガジンを交換して装填する。

 小柄なプレイヤーは最後の一発を撃つ、膝射の姿勢で凄まじい反動にも関わらず明らかに使い慣れている様子だった。



 小さい頃に行ったことのある温泉施設の高温低湿度のサウナとは違い、コテージのサウナはフィンランド式だとローンウルフは言う。

「さぁ脱いで脱いで、もう準備はできたわよ!」

 既にローンウルフは生まれたままの姿で白いバスタオルを巻いてる、レイヴンも恐る恐るボディスーツと下着を脱いでタオルを巻いて中に入る。

 マスクをしたまま、座っていると案の定ローンウルフはジッと見つめる。

 何を言われるかはわかっていた。

「レイヴン、サウナの中ぐらいマスクを脱いだら?」

「でも……あたし……」

「知ってるわ、いや知ってたわよ。あなた、始めたばかりの頃いろんな所から声をかけられたんだって? それで顔を隠すようになった……でもそれってさ、窮屈じゃない?」

 ローンウルフの言う通りだ、このマスクを被っていれば誰も近づかない。

 でもわかっていた。息苦しさと同時に心が窮屈に感じる、それでもレイヴンにはマスクを取る勇気がなかった。

「マスクを取る勇気がないの……あたし臆病だから」

「……サウナの中でマスクだと蒸れるわよ……フィンランドではね……サウナはこの世の入口であり出口なの」

 いきなり何を話しだすんだろう? レイヴンは全身から汗がジワジワと滲み出るのを感じながら耳を傾ける。

「ママは日本人だけどフィンランドで産む時はサウナで、って聞いてたからわざわざパパの実家のサウナで出産したの、そして人が死ぬと最後にサウナで体を清める……ゲームの世界とはいえこうやってサウナに入れるのが凄く嬉しい。レイヴンがこの家を買ってくれた時は本当に嬉しかったわ……キスしたいくらいよ」

「サウナに入れたのがそんなに嬉しかったの?」

「勿論よ! レイヴンのおかげよ……だからレイヴンのこと、もっと知りたいの」

 ローンウルフの目はブルーダイヤのように輝き、真っ直ぐレイヴンを見ていた。レイヴンは自然と手が動き、ケブラーマスクを外して人形のように整った少女の可愛らしさと大人の日本人女性の美しさを程よく調和させた顔が露になった。

「ゲームの世界とはいえマスクつけたままじゃ息苦しいわ……ローンウルフの言う通りね、ローンウルフ?」

 レイヴンは気付くとローンウルフが四つん這いになってと顔を近づけて妖艶な笑みを浮かべてる、明らかに見る目が変わってる。この前抱きついてきた仔犬のようではなく、獲物を狙う狼のようだった。

 ローンウルフの両腕が背中に回り、二人ともタオルがはだけて乳房が露になりローンウルフはレイヴンを包み込むように抱き締める。

 や、やだ……変になっちゃいそう。

 レイヴンの心臓の鼓動が速くなり、ローンウルフの唇は薄くも紅くキュッと結んで柔らかそうだった、そして静かに唇を動かした。

「ねぇ……そろそろ湖に入ったら? 体が熱い、無理してると倒れるわよ。サウナ慣れしてないわね」

「う……うん……でも何でおっぱい触――ひゃあっ!」

「羨ましいからよ、私の胸、フラットトップレシーバーだから」

 ローンウルフは自虐的に言いながらレイヴンの乳房を優しく揉む。

 確かにローンウルフの胸はフルフラットだった。男装したら小柄な少年に変装するにも難しくないかも、だがそんなことを考えてる場合じゃない、湖に入って冷やさないと。

「少し……泳いでくるね」

「エッチな狼に襲われないようね」

「エッチな狼ってローンウルフのことじゃないの?」

 レイヴンが指摘するとニヤけて誤魔化す、レイヴンは体にタオルを巻いてサウナを出ると外の設定気温は三〇度を超えてるとはいえ涼しく感じた。

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