プロローグ
プロローグ
「では本題に入る前に問題のVRゲームについて知る必要がありますので、彼が説明します……それではお願いします」
「はい、問題となってるVRゲームマシン、ゲートウェイ。通称:GWは二年前に発表された物で昨年発売されました。元々はアメリカ軍と各国のゲームメーカー……受け入れたくありませんが日本の家庭用ゲーム機開発メーカーも関わってたそうです。二〇〇一年のアメリカ同時多発テロ後に兵士の訓練シュミレーターとして開発した物をゲーム機に転用した物だそうです」
「兵士の訓練用がVRゲーム機の基に?」
「はい。詳しくは割愛しますが、実弾射撃から航空機、車両の操縦等の訓練や危険を伴うパラシュート降下、爆発物解体等を安全かつ低コストで行えます。問題となってるのがこちらのディストピア・アンド・ユートピア・オンライン……略称はDUOで従来のゲームソフトと同じ値段で購入できます」
「そのゲーム、うちの子が持ってるわ!」
「ええ、ゲームに熱中する子どもは昔からいますが……遊び方はコントローラーを握るのとは別次元です。そのゲームを始めるにはまず着替える必要があります、下着だけ残して脱いだら各種センサーが仕込まれている専用スーツを二枚着て、それに繋がったコードでパソコンのハードディスクに接続、次に専用ヘルメットを被るのです」
「あっ! うちの子が昨日、そのヘルメット被って寝てたわ。そういえば今朝……寝不足だって言ってたわ!」
「はい、これはバイク用のフルフェイスヘルメットに似てますが、各種センサーが仕込まれていて顔の形をスキャンします、これもコードでハードディスクに接続したら準備完了です。後はベッドに寝たり、リクライニングシートに座ったりでもいいので体を預けられる姿勢、お子さんの場合布団を被ってヘルメットのスイッチを押したんでしょう……起動するとヘルメットから脳に信号を送り込み、意識が遠のいて次に目覚めた時は仮想空間です。そしてアカウント登録やログインを行えばゲームを開始です」
「つまり、うちの子は寝ながらゲームをしていたってことかしら?」
「そうですね……体は動きませんが脳は活動してますので、寝てるとは言い難いです。このゲームはあらかじめゲームの公式サイトにアクセスして登録できますし、アカウントがあれば現実でも外出中やゲーム内でスマートフォンを使ってアバターや武器のカスタマイズ、アイテムの買い物もできます」
「つまりスマートフォンをゲーム内でも使えると?」
「そうです! スマートフォンをコードで繋げばそのゲーム内に持ち込めます。つまりプレイの合間にツィッターやSNSができるのは勿論、ゲーム内から現実にいる人間と電話やメール等のコミュニケーションなんてことも可能です!」
「それじゃ……これでは現実と変わらないということですか?」
「はい、プレイを続けていくうちに現実とVRの区別が曖昧になる……ゲーム愛好家の間ではVR症候群と呼ばれてます……似たようなものとしてゼロ年代から爆発的に流行したFPSゲームのやり過ぎを差すFPS症候群というのもありましたが……あれより酷いものです。このDUOは銃や兵器で戦う所謂戦争ゲームです」
「戦争ゲーム? 第三次世界大戦がようやく終わって今度はゲームで戦争を?」
「はい、海外では従軍した退役軍人や少年兵のように、普通の生活や社会に馴染めずにのめりこむ人もいるそうです……そのうち現実との区別がつかなくなり事件を起こす……第三次世界大戦が始まる前の二〇一二年一二月一四日、アメリカコネチカット州の小学校で起きたサンディフック銃乱射事件の容疑者もこの手の戦争ゲームをしていたという話しがあります」
「そんな! 我が国だって政府は銃刀法を緩和したばかりですよ! 政府が自分の身は自分で守れと丸投げして、案の定銃犯罪の多発してようやく報道され始めたばかりじゃないですか! おかげで外には銃を持った警官や外国人に若者がウロウロしていて怖くて外歩けませんよ!」
「そうですね……三年前に銃火器大量密輸事件で軍用銃が貧困層を中心に出回って治安が著しく悪化、超法規的措置として銃刀法が大幅に緩和されました。すると待ってましたと言わんばかりに銃器売買、輸入、修理等の市場が一年ほどで出来上がりましたからね、このDUOも銃の反動や作動、分解掃除もリアルに再現されて無関係とは思えません。ではそろそろ本題に入りましょう……DUOが人に与える影響についてです」
夕食を食べ終えると、真島翔はあらかじめスマートフォンでアバターを作っておき(といっても顔はスキャンされるので性別や顔立ちは変更できない、見た目を変えられるのはせいぜい服装と髪の色くらいだ)GWにインストールしたDUOをプレイしようとトイレを済ませ、ハードディスクに接続したインナースーツとアンダースーツを着てヘルメットを被った。
全身バランスよく無駄なく鍛えた筋肉質で、猛禽類のような顔立ちと鷲の翼のような眉と鋭い目、それなりに伸ばしてるのに真っ直ぐに伸びた黒い髪、口元は緊張してるのかへの字だ。
ベッドに入って布団を被るとヘルメットのスイッチを入れ、ログインすると急激に睡魔に襲われた感覚になり、何も感じなくなった。
ぼやけた視界が徐々に鮮明になり、徐々に意識も戻ってくると最初に銃声が聞こえ、屋内射撃場に立っていて他のプレイヤーたちもアカウント登録したばかりなのか銃の試射をしている。
翔――キャラネーム:バルドイーグルの目の前に『初期装備を選択して下さい』とメッセージが表示される。
『メインアームを二挺まで選んで下さい』
突撃銃
M16A4、AK47。
自動小銃
FAL、G3。
短機関銃
MP5、MAC10、UZI
軽機関銃
U100、RPK。
散弾銃
M37、べネリM1。
狙撃銃
SVD、L42A1。
バルドイーグルはメインアームとして突撃銃であるAK47を選ぶ、口径は七・六二ミリで攻略サイトによればAKシリーズは人気銃の一つで、現実でも古いが七・六二ミリ口径の方が人気があるという、あと一挺選べるが重量の問題(本体は勿論弾薬そのものや弾薬代も嵩むので)とフィールドで拾ったり、購入できる対物火器が持てないので一挺だけの方がいいという。
『サイドアームを選んで下さい』
拳銃
M1911A1、M92F、マカロフ、M28。
サイドアームはストッピングパワー重視の自動拳銃であるM1911A1を選択、ゲーム内でもじっくり使って改良を重ねれば最新鋭や高性能銃にも劣らないという。
それから手榴弾等を選べばゲームスタートだ!
さあ、DUOの世界でどう過ごそうかバルドイーグルは心を躍らせていた。
どうプレイするかは自分次第!
延々と遺伝子改造や核戦争の影響で生まれた突然変異種、隕石にこびりついたアメーバが進化した宇宙生物、更に現代に蘇った古代生物が進化して誕生したモンスターたちと戦いに明け暮れるもよし。
他のプレイヤーと組んでギルドの一員になるにもいいし、ソロプレイするのもよし。
もしくはアウトローたちと組んでNPCの住む村や町を「ヒャッハー!!」と叫びながら蹂躙するのも悪くない。
「さて……これからどうする?」
バルドイーグルはワクワクさせながらそう呟くと、町の外へと続く扉へと走り出した。