9話
手伝うと言ってくれた通り、私とライトはディールさん達を探して人混みを縫うように歩いていた。話を聞けば、ライトはいろんな街を行ったり来たりして旅をしているらしい。どこどこの街はああだとか、おもしろい話をたくさんしてくれた。
「そっかあ、じゃあユキは今から王都に行くのか」
王都に行くことを告げれば、あそこは本当に大きくて夜でも昼のような明るさと賑わいがあるよ、とライトが笑う。旅をしているから何度か行ったことがあるらしい。
「じゃあ尚更人混みに慣れないとね」
わざとらしくライトが私の手をくい、と引いた。ちょっと頬がひきつる。ちなみに今私は、ライトに手を引かれながら歩いている。ライトの目の前で人混みに弾かれたのもあり、危ないからと図らずも手を繋ぐ形になったのだ。だが頬がひきつるのもわかってほしい。今のあたし達は手を繋いでいるとはいえ、恋人のそれには見えないだろう。むしろ迷子と保護した人みたいに見えているはずだ。私だって二十歳にはなってないもののほぼ成人だ。あんなに大きな子がまさか迷子だとか思われたくない。まあ、どちらにせよ恥ずかしいにはかわりないけど。
「うん。それにしてもほんと、一緒に探してくれてありがとう」
恥ずかしさを誤魔化しながら話を変える。探すのを手伝ってくれると申し出てくれたのは有難かった。正直昨日来たばかりのデボンはよく知らないし、何より人混みを一人で歩くのもしんどい。イケメンと手繋げて、しかもディールさん達探してくれるのを断れるはずがない。きっと今頃ディールさん達に迷惑をかけているだろうし、何よりソラが気がかりだ。自分の目の届く範囲にいないとなんだか落ち着かない。早く合流したい。
「工具系の出店ならここら辺かな」
紐が売ってる店あたりにいるかもという私の手掛かりにライトが連れてきてくれた出店。確かにここら辺の出店は紐やら縄やら、なんかの皮とかとんかちみたいな道具とかも売っている。はぐれてからそんなに時間も立っていないし、できれば人混みより頭一つ分でかいディールさんか、ソラの魔力が感じられればなあ。とりあえずディールさんの特徴を伝え、人混みに流されないように踏ん張りながら二人してキョロキョロ辺りを見渡す。
「ユキ、もしかしてあそこにいる人じゃない?」
ある一点を見つめたライトは、次いで指をそちらに向ける。その綺麗な指先を辿って見れば。
「あ!そう!あの人!」
出店の影になるような感じで見慣れた頭がひょっこり人混みから飛び出ていた。よく見えないがわずかに魔力が感じられるからソラもアンナさんも傍にいるのだろう。ホッとして頬が緩んだ。
「よかったよ」
「ありがとう。私一人じゃ人混みすら動けなかったよ。ライトのおかげ」
たいしたことじゃないと言うライトに、繋いでいた手はもちろん、繋いでいなかったほうの手までもとって私はぶんぶんと両腕を上下させた。ぶっちゃけ人混みとかあんま好きじゃなかったし、人混みも慣れてない。しかもディールさん達とはぐれて実は心細かったあたしがそこまで不安じゃなくなったのは、ライトがいてくれたからだ。しかもここに来て初めて同じ年齢くらいの相手だったから、余計に。これだって本当に感謝してるゆえの勢いだ。
「ライト、ありがとね」
「どういたしまして」
私の行動に苦笑いしつつもライトは頷いた。
「ーーさて、じゃあ僕はそろそろ行くよ。ユキも早くあの人のとこに戻らなきゃ」
やんわりと手を外したライトとはこれでお別れだ。ちょっと寂しいなと思った。それが顔に出ていたかは別として、ライトはにこりと笑った。
「僕は旅をしてるし、どっかですれ違ったら挨拶くらいはして欲しいな」
つまり、また会える可能性もあるよと言ってくれたわけだ。なんとも茶目っ気のある笑だ。しかも笑うと意外に可愛い。ちょっと幼くなる。
「じゃあユキ、またどこかで」
「うん。またね」
そう言葉を交わすとライトはすぐに人混みに紛れ、そして消えてしまった。こちらでの初めての友達、勝手ながら私はライトをそう思っている。だからまたどこかで会いたい。ライトが消えた人混みを少しだけ見つめてから、私はディールさんがいる方へと人混みをかき分けた。
その様子を去ったはずの紫色の双眸が見つめていたことを、私は知らない。