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7話

「あら、じゃあ明日出発するの?」


夕飯時。アンナさんお手製のパンとシチューを頂きながら明日立つと告げれば、アンナさんが驚いたように目を瞬かせる。ディールさんも眉をひそめた。ああソラ、シチューこぼしてる。

ディールさん家に招いてもらってから早数時間。最初はソラが私をママと呼ぶもんだから2人共大いに混乱してた。まだ若いのに子供がいるのかってね。いや、そんなに見た目年齢子供っぽくないはずだし、キュロスでは私と同じくらいの女性で子持ちの人何回も見かけたんだけどな。童顔に見えるのか?もちろんちゃんと誤解は解いておいたよ!まあ、可愛いソラにママって呼ばれるのはもちろんウェルカムだがな!


「王都に急ぎの用があるので、なるべく早く立ちたいんです」


ソラの口元をふきながら付け加えるとアンナさんは何かを思い付いたかのようにぱあっと顔を明るくした。


「ねえディール。だったら私達も一緒に行ってしまえばよくないかしら?」

「ああ、俺は別に構わねえさ。そうだな、確かにユキ達2人じゃ心もとねえし悪くねえ案だな」


およよ?お2人さんの会話から推測するに、これはもしかしてのもしかして。


「えーっと、あの」

「ねえユキちゃん。あなたさえよければ、私達も一緒にいいかしら?」


はいですよねー!なんか薄々そんな展開になりそうだと思ってました。うきうきとした表情のアンナさんに、どこか断りにくさが漂う。うわあ、どうしよう。思わず助けを求めようとしてディールさんに視線を向けたはいいが、この人もアンナさんと同意見でしたよね。追い打ちしかこないわ。


「俺達元は王都に住んでんだ。今は俺の休暇にあわせて故郷のこっちに戻ってきてたんだが、どうせ後数日したら戻る算段でな。早くなったところで問題はねえし、どうだ?」


はてさて、まじどうしよう。多分ディールさん達と行くとなるとやっぱり馬車だよね?そうなると日にちがかかるわけで、今のところ体調に変化のないソラだが馬車移動で王都につく頃はどうなるか予想がつかない。でもせっかく同じ場所に行くのにここで断るのも悪いし、何よりお世話になっといて更に厚意を無駄になんてしちゃ駄目だろう。うんうん唸っていればもぐもぐとシチューを食べていたソラがこれで解決だ!とばかりに満面の笑みで一言。


「ママ、おじちゃんたちもはこんであげようよ!そしたらびゅーんてすぐだよ!」


お、おう。そうだなソラ。だけどそれってあれだよね、ドラゴンの私にディールさん達を乗せるってことだよね?背中に乗せたことないから想像つかないけど落としそうでこわいな。ソラのことはしっかり両手で抱えてるから安心だけど、背中は流石に安全保証できねえわ。乗せるとなるとやっぱ紐かなんかで体固定してもらわないと危ない。上空って意外に風の流れ早いし。


「おいユキ、ソラが言ってんのはどういうことだ?」


そこまで考えてディールさん言葉にそうだったと思い出す。そうだよね、まだ言ってなかったんだった。まあディールさん達だし言っても問題はないか。


「いやー、あの。その…実は私人間じゃなくて。ドラゴンなんですよね、こんなでも。ソラの提案は多分、わ、私の背中にディールさん達を乗せて行けばいいんじゃないかってことかと!ね、ソラ」

「うん!ママね、でっかくてきれーなの!ソラもママみたいになるー!」


きゃーまじ天使!そうかいそうかいソラは私みたいになりたいのかい!綺麗とかお世辞でもソラが言うならめちゃくちゃ嬉しいじゃないか。ママ全力で応援しちゃうよ!ありがとー、とぎゅうぎゅうソラを抱きしめてれば、ぱちぱちと驚いたように目を瞬かせるディールさん達と視線が合う。


「どうかしましたか?」


なんだなんだ、私そんなに変なこと言ったのか?確かにドラゴンなんていきなり言われたらびっくりだろうけどさ。何故か無言のまま目を合わせて会話している2人は、そんな私にようやく口を開いた。


「あー、なんだ。ユキ、お前今自分のことドラゴンとか言ったか?言ったよな?」

「え、言いましたけど」


何故にそんな気迫のこもった顔で訊きます?ディールさん元が怖いから今大変に顔面凶器なの気づいてるかなあ。素でなまはげと渡り合えるけど、今なら般若ともいけるんじゃない?


「お前がドラゴンってことは、ソラもか?」

「そうですよ」

「王都に行く用事ってのは、もしかして王家の、」

「ああそうですそうです。王家と懇意にしてるっていう先輩(ドラゴン)に聞きたいことあって」

「他の誰かにドラゴンだってことは言ったか?」

「いやー、ディールさん達が初めてですよ」


次々にぼんやりと受け答えをすれば、2人して途端に溜め息を漏らす。しかもなんだかこの子アホだなー的な生暖かい目付きなんですけど。なんで?


「お前はほんとにドラゴンか?ドラゴンて言や、大概警戒心が強くて自分から正体はそうそう明かさねえんだ。ちっとは警戒することを覚えろ」


半ば呆れたようにこめかみを押さえるディールさん。え、ドラゴンてそんな感じなの?確かにキュロスではドラゴンはあんまり人間に干渉しないって訊いたけど、人間に友好なのもいるって訊いたよ?そう伝えれば「最初から友好なわけあるか」と怒られた。私はオープンすぎるってことですか。しかしなあ、新米ドラゴンの私はまだ常識に疎いんだ。仕方ないと思ってほしい。


「で、でも。ディールさん達いい人だし、いいかなって」

「うふふ、それはとっても嬉しいわあ。でもね、世の中にはドラゴンと言うだけで利用しようとする悪い人もいっぱいいるの。特にソラちゃんみたいな小さい子は狙われてしまうわ」

「ソラを……!?」


いかん。それはいかん。そんなことしようとする奴はギッタンギッタンどころじゃ済まさないぜ。チート能力使いまくってああしてこうしてそいや!だ。想像して息巻く私に、アンナさんはキュロスでも知れなかったドラゴン事情について詳しく教えてくれた。人間の大体はチートな存在であるドラゴンを敬い崇める者と、意のままに扱っちまおうぜ!って奴がいるらしい。大概は前者だけど後者がいないってわけじゃない。そりゃドラゴン従えられたら国の1つや2つ楽勝でおとせるはずだし、無敵だ。なんたって人間じゃ魔術師しか使えない魔法があるからね。でもドラゴンは大概友好的じゃないし(同じドラゴン同士なら結構友好的らしいんだけど)そもそも他種との干渉に興味がないらしくて中々人間は接触できない。そんな中警戒心もなく自分がドラゴンですなんて明かして、相手が悪人なら最後。どんな手を使って縛ろうとするかわからない。子ドラゴンなら尚更捕まえやすい。例えばすごーく昔。とある魔術師がドラゴンを捕まえて強制的に主従関係を結んだらしい。今では禁術と呼ばれる主従契約術は、チートなドラゴンでも反故にできなかった。魔術師は嫌がるドラゴンに無理強いをさせて大陸を制覇。その頂点に君臨したのはいいけど、捕まえられたドラゴンの仲間が大陸の端から端まで破壊し尽くしたんだって。どうやらキュロスで聞いた一度人間が絶滅しかけた事件てのがこれらしい。つまり人間は、その魔術師のせいでドラゴンの怒りを買ったってわけ。まあ、絶滅しかけたのも復興を手伝ったのもドラゴンてことになるみたいだけど。でもそこからはドラゴンを崇拝する流れができて今日まで続いているわけなんだけど、いつの時代もかの魔術師と同じような馬鹿はいるらしい。


「俺もあんまり詳しかねえが、王都を中心にそういう輩の一派がいるって聞いたことがある」

「だから気を付けなくちゃ駄目よ?それでなくとも、ユキちゃんもソラちゃんも可愛いんだから」

「わかりました、気を付けます」


誰かに無理矢理従わされるなんて想像しただけでも寒気がする。妙にぞくりと背筋を撫でるものがあって思わず顔が強ばった。そういう人間の考えが恐怖になることを、ドラゴンになって初めて認識した。

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