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6話

薄暗くなる頃にデボンの街近くに降り立ち、人型になってから街に近づく。いつの間にか眠っていたソラを起こすのは忍びなかったけど、愚図らずに人型にちゃんとなってくれて有り難い。とりあえず歩かせるのはやめにしてソラを抱っこすれば、やはり疲れていたのかまた眠そうに再び船をこぎ始めた。まだ小さいもんね。明日はもうちょっと休憩を挟もう。そのまま門をくぐれば門番さんが微笑ましいと言わんばかりに笑みを浮かべていた。


「ふぉー、すげえ」


デボンという街はどちらかと言えば賑やかな街のようだ。門の先に広がっていたのは、未だ行き交う人々の姿。既に陽が落ちかけているにも関わらず広場では大道芸や屋台が開かれ、露店でお土産を売っている姿までみられる。端のほうでは今夜一杯呑むつもりか、意気揚々としたおっちゃん達が大きな声でジョッキ片手に笑っている。こりゃ夜までフィーバーってとこだな。呆気にとられつつもソラがこの賑やかさで目を覚ましたりしないかと慌てて腕の中を見る。心配しなくても熟睡しているので大丈夫みたいだ。さて、まずは宿を探さなきゃ。でもデボンの街は初めてだしなによりもう暗い。宿の場所がいまいちわからない上、もしかしたら部屋が空いてなかったりして……。いやいや、まだ探しはじめてないうちから考えるのはやめよう。とりあえず、優しそうな人に訊いてみることにしよう。再び広場の人々に視線を戻して話しかけても大丈夫そうな人を探してみる。あっちの酒呑みおっちゃん達は論外として、噴水前にいる男性とか優しそうじゃない?あ、待って駄目だ。なんか恋人っぽい女性が来ちゃった。デートっぽいし邪魔しちゃいけないよね。屋台や露店の人に訊いてもいいけど、できるなら案内もしていただける人が最高だよね。暇そうな人いないかなあ。……とまあ、そんな感じでキョロキョロしていれば。


「よ、嬢ちゃん。なんだ、迷子か?」

「っひ!」


ぎゃー!何事じゃあ!ポスリ、突然背後から肩を叩かれて思わず大袈裟に体を揺らしてしまった。慌てて振り向けばそこにいたのは、厳つい顔のおじさん。私より頭何個分も身長が高くて見下ろされている感じがこわい。え、なに。怖いんだけど。まさか、危ない人じゃないよね?


「あっはは、わりぃわりぃ。そりゃいきなりこんな顔の奴が声かけてきたら身構えるわな」


不信感が顔に出ていたのかおじさんはケラケラと笑っている。なんだか危ない人っぽくはなさそうだけど……どうなんだろう。


「嬢ちゃんに危害は加えねーよ。俺はこれでも騎士だしな。嬢ちゃんさっきっからここでキョロキョロしてるから迷子かと思ってよ」


ほんとかな?信用してもいいんだろうか。わざわざ親切に手を差しのべてくれているのはわかるが、失礼だが何分顔が顔だけにちょっとこわいんだよね。見極めようとじぃっとおじさんを見てみる。おじさんはちょっと困ったように苦笑する。と。


「―――なんだよディール!いい年してナンパかぁ?」

「嫁に叱られっぞ!」

「騎士が犯罪なんざ洒落になんねえぞ!ほどほどになぁ!」


遠くのほうからこれまたおじさん数人がからかい半分に手を振ってきた。遠目に見ても酔っぱらっているのがわかる。だってすげえべろんべろんだもん。どうやら今目の前にいるおじさんの知り合いのようだ。おじさんは「酔っぱらいはさっさと家帰って寝ろ!」と反撃していたがあまり効き目はなかったみたいで、ゲラゲラと笑いながら陽気な酔っぱらい達は去っていった。


「わりぃな嬢ちゃん。アイツら悪い奴らじゃねーんだが、ちっと酒好きなんだ」


でも、おかげでこのおじさんのこと信用できそうな気がする。あんな陽気な人達が知り合いの人が悪い人には見えないし、何より本当に騎士であることもわかった。身分がしっかりしてることが判明すりゃ、身構える必要もない。


「いや、こちらこそなんかすいません。えっと、」

「ああ、すまねえ。俺はディールだ。さっきも言ったが騎士をやってる」

「ディールさんですね。私はユキです。こっちの眠ってるのがソラです」


そう軽く自己紹介をしてからディールさんは本題を持ち出す。


「で、ユキはここで何迷ってたんだ?」

「宿を探してるんですけど、デボンにはさっき初めてきたばっかで宿まで案内してくれる人探してたんです」


まあなかなか目ぼしい人がいなくて困ってたわけだけどね。あ、そうだ。ディールさんに頼めばよくないか、これ。なんかいい人そうだし、わざわざ声をかけてくれたくらいだから多分案内してくれそうな気がする。


「もしディールさんがよければ、いい宿まで案内していただけませんかね」


正直時間も時間だし、これを断られたら最悪野宿も考えてる。ただ、この世界にきてからしばらくは岩山で寝起きしてたとはいえベッドが恋しい。日本の温い布団に慣れたあたしがふかふかな布団で寝たいと思っちゃうのも仕方あるまい。駄目かなあーと縋るように見つめれば、ディールさんは何かを考えているのか思案顔。と思えばにっかりと笑って嬉しい返事をくれた。


「なら家に泊まってけ。今からじゃ宿も満室だろうし、なにより嫁も喜ぶ」

「いいんですか!」

「おう!どうせ家にゃ俺と嫁だけだ。お前ら2人くれえ寧ろどんとこいだ」


まさかの展開にディールさんには頭が上がらない。家に泊まらせてくれるとか太っ腹!なんかこれ、あれみたいだね。日本でやってた旅番組。こういうのって番組の中だけだと思ってたけど、実際にいい人はいるんだなあ。それにディールさんの奥さん、ちょっと興味がある。そりゃディールさん中身はいい人だってわかってるけど厳つい顔だし、奥さんはどんな人なのか気になるじゃん?やっぱり美女と野獣(失礼だけども)みたいな?


「よし、じゃあ付いてこい。家はすぐそこだ」

「お願いします」


広場の裏だというディールさんのご自宅。本当にすぐに着いた。多分歩いて5分もかかってない。ディールさん家はレンガ造りの二階建てで、広場の裏通りは同じ作りの建物が並ぶ住宅街らしい。


「帰ったぞ。客だ」


木の扉を開けながらディールさんが奥に向かって声をかければ、パタパタと軽い足音がこちらへと向かってくる。そして現れたのは、


「おかえりなさい。あらあら、まあ!なんて可愛らしい子達なのかしら。ディールったら、可愛らしいすぎて誘拐してきちゃったのね。いくら犯罪者顔だからって駄目じゃないの」


ちょっと天然ちっくな可愛らしい女性だった。淡いピンクブラウンの髪がぴったり。彼女が間違いなくディールさんの奥さんだ。ディールさんの顔が顔なだけに相手が務まるのは勝手な想像だが気の強そうな美人をイメージしていたのだが、この人は逆。ほわほわしてて美人というより可愛いが似合う。まあ美女と野獣ってのはかわりないんだけど。にしても可愛い顔して言ってることがさりげなくひどい気がする。


「アンナ、誘拐じゃねえよ。宿に泊まりたいっつってたから、だったら家にってことで連れてきたんだ」


ガシガシと髪をかくディールさんはなれてるのか笑ってる。そう言えば明るいところに来てからわかったけど、ディールさんも髪の色銀髪だったんだね。ちょっと仲間意識。


「あら、そうなの?てっきりディールがいよいよそっちにも手を出し始めたのかと思って」

「ぜってぇない」

「そう?あ、ごめんなさいね。私はアンナよ。よろしくね」


と、ほんわりと笑みを投げ掛けられて思わず見惚れる。見た目に反してディールさんをやんわりディスってる気もしなくもないが、それを感じさせないのがこの笑み。やだ、この人癒されるう。ソラが天使だとすればアンナさんは小動物を彷彿とさせる雰囲気だね。ちょっとディールさん、こんな可愛い人どうやって捕まえたのよ。個人的に馴れ初め訊きたいんだけど。だって厳つい顔のディールさんと小動物みたいに可愛いアンナさんだよ?失礼だけど接点なんてなさそうじゃん!って、ああいかんいかん。挨拶せねば。


「初めてまして、ユキです。こっちはソラ。今日はいきなりお邪魔させていただいてすいません。よろしくお願いします」

「うふふ、遠慮しないでね?私達子供がいないから、ユキちゃん達のこと大歓迎よ」

「ありがとうございます」


早くお入りなさい、と招かれて私とソラはディールさんとアンナさんの家へとお邪魔することになったのだった。

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