4話
翌朝、私はさっそく王都へと旅立つ準備を始めた。先ずは少なくともお金はあった方がいいと、森に生えてた草をいくつか採取。以前街で薬草として売られていたやつと同じものなはずなので、換金してもらえるはずだ。それから移動するとなるとやはりドラゴン姿はあまり宜しくない。野宿もいいがどこで魔獣に襲われるかわからないし、そもそも子ドラゴンがいる。出来れば宿に泊まりたい。となるとやはり子ドラゴンだ。しかし心配は杞憂だったようだで、子ドラゴンはチートだというドラゴンの力であっさり人型になってくれた。まずは私が人型になって身ぶり手振りで真似をしてほしいと教えたのだ。人型になった子ドラゴンは、見た目が4歳ほどの女の子だった。薄水色の柔らかな髪が背中ほどまであり、やはり瞳は濃いブルー。まるで宝石だ。ドラゴンは美形というだけあって幼いながら既に将来が楽しみな顔立ちだ。私が人型になった時同様どこからでてきたんだかわからないが藍色のひらひらしたワンピースを身に付けており、小さな手足はこれまた天使ものだった。この子可愛いからきっと色んな服似合いそう。薬草でお金が手にはいったら何着か服を買ってあげよう。
「ママ?どこいくの?」
「んー?街に行って、それから王都行くんだよ」
薬草を先日街でゲットした袋に詰める作業をしていれば、隣で興味深そうにしてた子ドラゴンが不思議そうに訊ねてきた。いやあ人型の子ドラゴンてどんな仕草してても可愛いよね。ちなみに私達は今人型だ。人型のほうが作業しやすいし、子ドラゴンはさっき教えた変化が楽しいらしい。……って、そうだ。なんかナチュラルに返事してたけど、この子ずっと私のことママだって勘違いしてるっぽいんだよね。
「あのね、私はママじゃないんだ」
「なんで?」
「なんでって言われてもなあ。私の名前は他に……あれ?」
そういや私、名前なんだったっけ?ママじゃないんだよ、と名前を名乗ろうとしたが、どうにも思い出せない。何故だ。日本の学生てのは覚えてんのに名前が思い出せない。大体にしてこの子にも名前は多分なさそうだし、2人(2匹?)して名無しじゃ困るな。
「名前どうしよっかな」
もしこの子に名前があるとしてもこの子自身がわからないんじゃ私もなんて呼べばいいかわからない。呼び名みたいなのがないと不便。ジッと子ドラゴンを観察してみる。水色のドラゴン……色……水色といえば……空の色?
「……ソラ」
「?」
「うん、決まり。君の名前はソラ!」
「ソラ?」
「そうだよ、ソラ。綺麗な水色だしぴったりじゃん」
我ながら安直であるとは思うけどネーミングセンスとかないからむしろこのほうがよっぽどましだ。ソラは自分の名前だと理解したのか呼ぶ度ににこにこしてる。人間になった分表情がわかりやすくてこれまた天使は天使だった。ついでにこの法則にのっとり、私はユキと名乗ることにした。だがしかし、いくら私はユキだと教えてもソラはママ呼びをやめないので諦めました。もうママでいいです。
「よし、じゃあ街に行こうか」
「まちー!」
袋詰めも終わって立ち上がればソラもすくりと立ち上がってぎゅ、としがみついてくる。
「いいソラ?街についたら私の手はなしちゃだめだよ?」
ソラは街が初めてだ。もしかしなくてもあんなに人間が一杯いるのも初めてだ、下手したらドラゴン姿に戻っちゃったりするかもしれない。可愛いから誘拐されちゃったりするかもしれない。親バカとか言うな。ソラはそのくらい可愛いんだよ。側にいないと危ない。コクコクと頷くソラを抱き上げて、私はドラゴンの姿へと戻る。街の近くまではこれで移動したほうが早いのだ。もちろん王都までもドラゴン姿で行こうと考えてる。ソラのことを考えたら早く王都につけたほうがいいからね。
「そんじゃ出発!」
「しゅっぱぁーつ!」
街に着いて薬草を換金し(思ったよりお金になった)、さっそくソラの服を購入した。まずはフードつきの羽織。小さくても立派に美形だから目立つのを避けるためだ。
「ソラ可愛い!」
さっそく着せたらまるで赤ずきんちゃんのようだが、淡いクリーム色のそれはソラにぴったり。ボンボンの留め具が更に可愛らしくさせてる。あとは替えを2着程と、私も羽織とワンピースを購入した。荷物が増えたからちょっと大きめのカバンも買って、あとは地図も購入。王都はこの街から東にあるのはわかってるけどアバウトすぎるからね。地図もピンからキリまであって、一番高いのは魔法地図。これには魔法がかかっていて目的地を告げると案内してくれるんだって。まさしくナビだ。流石にそんな高価なものは買えないから普通の地図と方位磁石で我慢。この世界にも方位磁石あるらしいからよかったよ。お店の人に王都までどのくらいかかるか訊いたら馬車で20日って言ってたけど、飛んでいくなら多分もっと早いよね?一応念のために食料もちょっとだけ買っておいた。
「ソラ、おいしい?」
あとは何か買うものあるかなと考えながら、隣を歩くソラに尋ねてみる。ソラにとってはこの街のもの全てが珍しいらしく、中でも屋台で売られていたやつキラキラの飴に釘付け立ったので買ってあげたそれ。ころころと小さな口を動かしながら舐めているソラは頷いてぎゅぅっと手を握り返してきた。うん、よかった。食欲はわかなくても食べれないわけじゃないってのはわかってたけど、お気に召したならこっちも満足だ。そんなこんなで最後にざっと街を見まわって準備は終わった。いよいよ王都に向かって出発だ。