3話
あれから数日たった。私はというと魔法の練習と街で情報収集をしつつ、人間に紛れて暮らすための準備をし始めている最中だ。住む場所や、それに暮らすには必要な物を買うためのお金を稼ぐい仕事探しなどなど。仕事は出来れば接客とかがいいとは思ってる。日本にいたころはコンビニ店員やってたし、どうせなら似たような仕事のほうが安心だ。魔法に関しては火と水、風を出すことが出来るようになった。対象の物や場所、空間に対して念じるように集中するとでる。最初は火を操る制御が出来なくて危うく森を火事にしてしまいそうになったけど、咄嗟に水と風の魔法を使ったことで事なきを得た。そんなわけで今現在は3属性の魔法が使えるわけだ。魔法の属性はもっとありそうな気もするけど、いっぱいあっても私には扱いきれないだろうからしばらくはこの3つを上手く組み合わせて使えるようになれればいいと思う。ああ、そうそう。魔法の練習をしてて掴めるようになった感覚があるんだけど、多分魔力?というやつだろうか。魔法を使うと体から抜けていくものを感じて、その抜けていったものが火やら水やら風やらになってる感じだ。不思議なものでその魔力の気配は魔獣からも感じられることにも最近気づいた。もしかしたら魔獣も魔法が使えるのかと思ったけど、試しにわざと攻撃を仕掛けてみたりもしたが反撃に魔法を使ってくることはなかった。魔力はあっても魔法は使えないということなんだろうか。まだまだこの世界で疑問を抱くことは一杯ある。そもそもドラゴンのこと自体よくわかってない。だったらそのドラゴン自身に訊けばいいじゃん、とは思うけどぶっちゃけ王都に行くのめんどい。どうしても先輩ドラゴンに訊かなきゃわからん!という時に行けばいいかな。流石に同じドラゴンを邪険にはするまい。
と、つい数時間前まで思ってた時もありました。けど現在進行形で先輩ドラゴンに訊きたいことあるよ。超あるよ!
「こ、子供……」
「マァ、マ?」
ひゃー!なんちゅうこっちゃい!街から早めに切り上げてきて森で魔法練習しつつ散歩しようと思ってぶらぶらしてたらなんだかやけに魔力の集まる―――魔獣が騒がしい場所があって(というか群がってた)、まさか何か襲われてる!と魔獣を追っ払ってみれば。そこにいたのは子供。しかも私と同じ、ドラゴンの。しかもこの子ドラゴンからは魔獣の比じゃないくらいの魔力が感じられた。襲われていたにしては無傷なのはもしかして何か魔法でも使っていたのだろうか。
「マ、マ?」
はっきり言おう。私は子供が苦手だ。日本にいた時それを自覚したのは体験学習という最早半ば強制的な学外授業で、まさかの保育園に振り分けられた時だった。別に可愛い子供を見るのは問題ない。ただ、お世話をするとなると別だ。髪は引っ張られるわ、泣かれるわ、遊んでてもすぐ違う遊びしたいと反対方向に引っ張られるわ。なんかもう壮絶だった。静かだったのは子供達がお昼寝した時だけ。保育士さんには脱帽だった。もともとインドア派で動くより静かにしてたい派の私には子供は強すぎたのである。が、しかし。である。
「ママ!」
「可愛すぎだろこんちくしょう!」
なんだこのちっこくて可愛い生き物は!何故私をママと呼ぶのかは突っ込まんとして、こてりと首を傾げながらトタトタとこちらに駆け寄ってきたその姿に私はノックアウトされた。一発KOだ。今の私のお腹のあたりまであるかどうかの大きさのその子は、何度か転けそうになりながらもぽすりとすりよってきた。え、何、天使?鱗の色は薄い水色で、瞳は濃いブルー。大きなお目めをうるうるさせながら見上げてきたのには思わずひしと抱き締めていた。こんな可愛くてちっちゃな子供、放っておけないだろ!
「君、ママとパパはどうしたの?」
「ママ?」
「お名前は?」
「?」
「どうしてこんなところにいたのかな?」
「?」
目線を下げて訊ねて見るも、この子は質問の意味がまだよくわかっていないのか首を傾げるばかり。可愛いから許す。でもこれじゃあ何もわからない。ドラゴンがどういう生態なのかわからないけど、まさか父親も母親も子供をほっぽってさよならとかはないと信じたい。子供がいるんだから、どこかに父親と母親もいるに違いないのだ。しかしおかしい。ここ数日は私がここら辺にいたから他のドラゴンがいれば気づいたはずだ。それなのに突然今日この子が現れた。どういうことだ?
「うーん」
「ママ」
うん、それは後で考えよう。とりあえずまずはこの子を保護するのが先だ。こんな魔獣がいる森に放置なんてできない。だってこんなに可愛いんだもん。
両手でその子を抱えてひとまず寝ぐらの岩山へと帰る。ごつごつした岩山に私はもう慣れてるけどこの子は別だ。柔らかそうな葉や草を即座に集めてきて作った小さな即席ベッドに子供を下ろす。
「さて、どうするか」
日本での人間時代にだって子供を育てたことはない。ドラゴンの子育てってどんな感じなんだろうか。人間だったら赤ん坊はミルクが必要だよね?あれ、でも今の私は食べ物必要としてないし、だとしたらドラゴンの赤ん坊も必要ないのかな?いや、もしかしたら何か特別なものが必要とか?
「やばいな」
なんにもわからん。困ったと目線を下げて子ドラゴンを見つめる。眠いのかとろんとしたお目めで見つめ返してきた。……この子に何かあったら嫌だなあ。父親と母親がいるなら探してあげたいし、それまではきちんと育ててあげたい。でも最近ドラゴンに成りたてのあたし1人では力不足だ。うとうとと船をこぐ子ドラゴンの頭を撫でながら私は決意した。
「王都に行くか」
そこに行けば、王家のドラゴンがいる。私よりはきっと知っていることも多いはずだ。この子の両親探しの手伝いと、子育てのアドバイスをしてもらおう。
「明日は忙しくなるな」