2話
ぱちり。目を覚ました時、既に太陽は頭上高くまで昇っていた。
「ふぁー」
あーあ、やっぱり夢なわけないか。ドラゴンのままだったことにちょっとだけがっかりしながらも、大きく欠伸をして体を伸ばす。あー気持ちいい。まあまあいい朝だね。よし、気持ちを切り替えて今日するべきことを考えよう。今わかってるのはここが異世界で私はドラゴンだってこと。まあ、次に気になるのは人間がいるかどうかだよね。どうも今まで日本の緩い生活に浸ってきたから、昨日みたいなスリル生活はちょっと遠慮したいし。できれば人間と仲良くなって、まあまあ安全な生活ができたりしないかなあと思ったりしちゃう。その為には人間がいるか確認をしなくちゃならない。探すこと自体は翼があるからそこまで苦労しないと思うけど、一つ杞憂なのはこのドラゴンの姿で人前にでても大丈夫なのかということ。信仰の対象とかになってるならいいけど、悪の対象に見られてたら終わる。攻撃とかされたらどうしよう。私が人間の立場だったとして……あ、こんなのがいきなり目の前に現れたら敵じゃないとしても反射的に攻撃しちゃうかも。
「あー、」
あれ、まずい。人間を探すのはいいけど、どうにかして人間達の間でドラゴンがどう認識されてるのか知らなくちゃおちおち姿を見せられない。1回姿を見せちゃえば反応を見られるけど、痛いの嫌だし。ううーん、下手に動くのは危ないかもしれない。いっそこの体、人間に変化とか出来ないかな。そしたらむしろそのまま人間として生活したい。今までずっと人間だったんだし尚更。異世界だしもしかしたら……ちょっとやってみようかな。
とか思って頑張っちゃったりしました、はい。結果?そりゃねえ、なんていうか。
「な、なれちゃった」
ほんと、びっくり。こう、以前の人間の体の感覚を想像して人間になりたいー!とか某なんとか人間3人組みたいに念じたら、次の瞬間には人間になってた。視界に映ってるのは紛れもなく人間の手だし、人間の足。人間の体。ただ、肩にかかる髪は白銀だったのには驚いた。長年黒に親しんできたからね。どこからわいたかわからないけど白いワンピースも身に付けてるし見た目はとりあえず問題ないと思う。全身を見れたわけじゃないけど感じからして、以前と代わり無さそうな外見年齢だと思う。あと気になるのは顔だけど生憎鏡はないからどこかに川か池があったら確認することにしよう。さて、これで人間を見つけても堂々と出ていける。ドラゴンの体よりこっちのほうがうまく使えるはずだし、今日中に人間の村か街を探してひとまず情報収集したい。村や街があるなら国もあるだろうし地理的な情報が欲しい。それに人間に紛れて生活したいなら、この世界では何が常識で何が非常識なのかしらなければならない。よし決まった。今日は人間を見つけて、情報を収集しつつ様子見をすることにしよう。そうと決まればさっそく人間を探しにいこう。人型からドラゴンに一度戻って、私は意気揚々と岩山を離れた。
結果から言おう。森を離れてしばらくのところに街があった。人間もいっぱいいた。日本と異なり髪色は色素が薄い人が殆どで、私のように白銀こそ見かけなかったが、白に近い金髪の人もいたので安心して街にもぐりこめた。ちなみに街に着く途中の池で顔を確認したところ、以前とは全然違う顔立ちをしていてびびった。まるで西洋人だ。瞳はドラゴンの時同様赤だったが、街で見かけた人達の瞳もいろんな色だったので問題なし。とにかく適当に声をかけて訊いたところ、ここはルノアナという国で大きな大陸のほぼ中央にある大国らしい。この街はルノアナのはしっこにある街で、東に進むと王都があるんだって。王都っていうくらいだからこの国は王様がいるっぽい。多分この世界は王政で国が成り立ってるんだね。日本でいう天皇と総理大臣が同一人物って感じか?
それからドラゴンに対する認識は悪くなくて……なんかむしろかなりのプラスイメージだった。訊いた相手がまずかったか長々とドラゴンについて語りだした奴もいて逃げてきてしまったが、要約するとこんなかんじだ。この世界ではドラゴンは圧倒的に強く所謂チート的存在で、だがその数は数えるほどしかいないらしい。殆どが人間に関わりなく暮らしているが、特別敵対しているわけでもない。が、何匹か友好な個体もいるらしくて、まあ、ドラゴンにも個性があるってことだ。ドラゴンに対してプラスイメージなのは、昔人間が一度絶滅仕掛けた時手を貸してくれたからだそうだ。それ以降も度々ドラゴンによって救いが与えられたせいか、この世界でドラゴンは崇拝の対象になっているらしい。と、建前はそんなだが実はドラゴンとは姿を様々な種族に変えられるようで(私が人型とれたのもこのおかげ)、しかもそれがその種にとってはとんでもなく美形だってのが当たり前らしい。つまり。人型のドラゴン=美形なもんだから、そりゃ人気になるよねって話。そうそう、ルノアナの王家にも懇意にしている美形のドラゴンがいるとかなんとか。いやあ全く羨ましいね。ちなみ私がの顔立ちは普通だった。もしかしたら中身は生粋の異世界人だからかな?強いてあげるとすれば、瞳が綺麗だと自分でも思うくらい。しかしまあ、疎まれているよりはいいけどこれはこれで動きづらそうだからドラゴンってことは絶対ばれないように気を付けよう。そしてびっくりしたけど、なんとこの世界には魔法が存在するらしい。まあ残念なことに殆どの人は魔法は使えなくて使えるのは一部の人―――魔術師だけ。でもドラゴンはチートらしいので使えるみたい。つま私がは魔法が使えるということだ。もっと早く知ってたら昨日の魔獣と遭遇した時に使えたのに。とりあえず一旦街から離れたら実践してみることにする。軽く地面をパンチした時の威力がすごかったから、下手に使って大惨事なんてことにしたくない。
「そういえば」
街にも慣れてきてぶらぶらと歩きながらふと気づく。昨日から何にも食べてないのに全くお腹が減る様子がない。街の広場で屋台の美味しそうなパンやお菓子を見ても、ふと香るいい匂いを嗅いでも私がのお腹はうんともすんとも反応しないのだ。ドラゴンだって生き物なんだから何かからかエネルギー補給しなきゃ生きてけないだろう。これもドラゴンだからという言葉で片付けられるのか?うーん、何せドラゴンなりたての私はまだまだドラゴンの知識が足りてない。この世界で右も左もわからない中、そういった心配はしなくていいならいいでラッキーだがこりゃまだまだ街でしばらくは情報収集だな。慣れてきたらこの街に住みたいし。あとは魔法。人間に混じって暮らしていくなら使わないほうがこの世界じゃ良さそうだ。下手に目立つのも面倒なだけだしね。しかし、だ。いくら今まで魔法なんてない生活が当たり前でこの世界でも殆どないのが当たり前の生活だとはいえ、使いこなせて損はないだろう。昨日みたいなことがいつ起きるかわからない。その時に力はあるけど扱いきれませんでした、なんて間抜けだ。
「とりあえず岩山帰るか」
まだまだやることは一杯だ。