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1話

あっははー、笑えねえ。自分の瞳に映るそれに口元がひきつるのがわかった。そこにあるのは白い鱗にびっしりと覆われ、鋭く光る爪がついた手と思われるもの。いや、手なんだけどさ。だっておかしいでしょ。起きて目が覚めて、やけに視界に見慣れないものが映りこむもんだからちゃんと見たらこれだよ。手は人間みたいに5本じゃなくて、鋭い爪がついた指が4本。慌てて自分の体を見渡したら全身真っ白な鱗だらけ。背中には見慣れぬ翼。立ち上がろうにも何故か違和感を感じれば2足歩行はちょっとしにくい。バッと顔に手をあてがえばのっぺりとした顔の筈なのに鼻と口が邪魔をする。おまけに頭部近くには突起物。いったい全体自分はどうなってしまったんだ!急いで姿を確認出来るものを探すが、辺りを見渡して血の気が引いた。


「笑えねえよ、まじで」


ここ、どこ。ちょっと待て。私がいたのは自分の部屋だったはずだ。それがどうだ。今いるのは木に囲まれた所謂森の中。寝ぼけて徘徊したとしても無理がある場所だ。


「っ!」


と、視界の端に小さな水溜まりがうつりこんだ。勿論そこまでダッシュした。その間とても自分が走ってたてているとは思えない音が地面を蹴る度響いて、辿り着くまでにある結論が脳裏を掠める。しかし姿を確認するまでは、と半ば諦めの境地に入りながら私は水面を覗き込んだ。


「おー、ジーザス」


もはやびっくりどころかやっぱりな、という気持ちだ。そこに映っていたのは私じゃなかった。いや私なんだけど、目が覚める前の人間( ・・)の私じゃなくて、代わりに瞳は赤く、体は真っ白なドラゴン( ・・・・)がいたのだ。全身をちゃんと見れたわけじゃないが、目線の高さからして多分普通にしてても3、4メートルくらいある。これが子供サイズなのか大人サイズなのかはわからないが、とにかく見慣れた黒髪黒目の人間はどこにもいなかった。どうやらさっき脳裏を掠めたのは間違いじゃなさそうだ。はて、これを転生と呼んでいいのか。昨日まで普通に大学に通っていつものように夜更かしして「やべえもう朝5時!?レポート終わってねええええ!今日1限からあんのにうわあ!」とかいいつつ寝たのを最後に、目が覚めたらドラゴンになったのだ、私は。夢かな。夢だよね。乾いた笑い声をこぼして空を仰ぐも、憎いくらいの晴天がどこまでも広がっているだけ。お決まりの頬つねり……は鱗のおかげで出来なかったのでとりあえず痛みを感じられるか試しに地面にグーパンしたら、めちゃくちゃ抉れた。地面が。軽くやっただけなんだけど、なにこれドラゴンぱねえ。抉れた地面に対して手(前足とは意地でも言わん)はそんなに痛くなかったが痛みは感じた。つまり、夢じゃない。


「どうしよう」


これあれだよね。よくラノベとかであるパターン。異世界に転生して前世の記憶持ってるとかいうやつ。それのドラゴン転生パターンじゃないですか。てことは、もしかしたら自覚がないだけで私は眠ったまま死んだのだろうか?そこらへんはわからないが、確かなことは私はドラゴンとして生きていかなきゃならないってことだ。しかし意外にもそこまでパニックになっていないことが今の状況で救いだ。


「とりあえずここがどこか調べないと」


大概転生すると舞台は異世界になる。もし例に漏れないのであればここも異世界ということになる。あくまで仮説の話だが最初にこれは確かめないと落ち着けない。もし例え目が覚める前までいた世界の日本だとしてもこの姿はまずいし、異世界にしてもドラゴンがどんな扱いを受けているかによっても今後の行動が左右される。この背中についている翼使えるかな?この森を歩いていくのは大変なので、違和感のぬぐえない体ながら翼をどうにかこうにか動かしてみる。どこに力をいれていいやらわからないが、ふんばるとゆるゆると翼が動いた。もう少し練習すればいけそうな気がする。てかこの体浮くのか。

と、その時だった。

ガサガサと近くの茂みが怪しい音をたて、ついには低い獣の唸り声が響いてくる。ちょっと待ってよ、やばい気配がぷんぷんするんですけど。冷や汗をたらたらかきながら茂みに向かって身構える。ドラゴンて強いイメージあるけど、中身はついさっきまで人間だった私だし怖いもんは怖い。この体がさっき地面を抉ったように、強いらしいことはわかるが使いこなせる自信はまだない。


「(なんじゃありゃ!)」

「――――グルルルァア!」


緊張がMAXにたどり着いた瞬間だった。茂みから吼えながら飛び出してきたのは、一言で言えば魔獣。ライオンやトラのようなだが全身が濃い紫色をしており、所々赤い模様が入っている。尾は二股に分かれており先端には棘がついていた。明らかに日本にはいなかった種類の生き物が今目の前にいる。


「ひゃっ!」


しかも絶対私を襲う気満々なんだけど!間を挟まずに飛び出してきた勢いでこちらに爪を振りかざしてきた。ギリギリで避けた私を誉めてほしい。


「ガルゥウ!」


だが魔獣も諦めない。何度も襲いかかってくる。追いかけてくる魔獣からドタドタと必死で逃げ回ってはいるが何回かあの爪で鱗を引っ掛かれた。しかも予想でしかないがあの二股に分かれている尾の棘は、毒だ。最終的にはあれで仕留めるに違いない。あーやばい、走るの疲れてきた!ん、ちょっと待て。そこで私は思い出した。


「翼があるじゃん!!」


そうだよ!何のための翼だ!まだ実際に飛んだことはないけど、さっきの練習で感覚はつかめたはずだ。幸いにもあの魔獣は空を飛べるようには見えない。一か八か今残っている力を翼を動かすことだけに使ってみよう!よし女は度胸!


「飛べええええ!」


覚悟を決めた私は全力で翼を動かした。するとどうだろうか。ふわりと地から足が離れたかと思うと、辺りの土や砂が風圧を受けて飛び散っていく。逃げようとしていることに気づいた魔獣が慌てたようにジャンプをするも、気がつけば私の体は森の木々よりも高い位置まで浮かんでいた。


「……すご」


ある程度のところで高度をあげるのを止め、翼は動かしたまま下を見下ろしてみる。うわ、さっきの魔獣が米粒の大きさに見えるわ。にしてもちゃんと飛んでるよ、私。火事場の馬鹿力ってやつのおかげかな。これでもう、下手に降りない限りあの魔獣は私を襲うことはない。危険が遠ざかると次に考えたのはこの世界のことだった。


「あんなの日本にいないし……いや地球にいなかったよね」


とすればここは異世界ということで間違いなさそうだ。あんな魔獣もいることだし、この世界にはああいう存在はいて当たり前なんだろうか。あの一匹では断定出来なかったので高度を森上空ギリギリにまで下げて他に魔獣のようなものがいないか探索することにした。するといるわいるわ。上空にいる私にすぐ気づいて威嚇したり攻撃してきたり、地面をかけてまで追いかけてきたり。やっぱりここは異世界で決定だ。




全てを撒いて安全そうな岩山に降り立つ頃には、空がすっかり赤く染まり始めていた。とりあえず今日はここで休もう。流石に飛び回って疲れた。この岩山なら翼がない限り上がってくるのは難しそうだし、多分安心して眠っても大丈夫だろう。今日はここが異世界だとわかっただけで満足しておこう。いきなりドラゴンになって、魔獣から逃げ回って、異世界だとわかって。環境が一気に変わりすぎた。明日のことは明日考えよう。次に目覚めたら夢だったらいいな、と叶いもしない期待をしながら私は瞼を閉じた。

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