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snow

靴がじゃぶじゃぶする。

ズボンの裾に雪が張り付いてまるで凍ってしまったかのように固くなっている。

風が吹きつける耳が痛くて痛くて、両手で覆おうとしたら手がガチガチに強ばっている事に気づいた。


今年の初雪の日


僕は雪があられとなって降り注ぐ中を原付で移動していた。

バスは二十分待っても来ないし、近くに駅はないし、原付でも大丈夫だろうと思ってた自分馬鹿じゃないの?

中心街に辿り着く頃には顔を真っ赤腫れあげた鼻水垂らした僕が完成していた。


「なんで今日降るかなぁ・・・」


原付を道の端に停めてしまい、我慢できないと近くのドーナツ屋さんに入った。

暖房が効いた部屋に入っても全然あったまった気がしない。

1回頼むとその先お代わり自由のカフェオレを頼み席に座る。


ぐしょぬれの靴を脱ぎ散らかして、上着を脱ぐ。

ついでに鼻を備え付きのナプキンでかんで・・・ようやく・・・ようやく寒いと暖かいの戦いが終了した。


「雪空さん・・・何でこんな日に来るかなあ」


待ち合わせに指定されたのは駅なのに僕はドーナツ屋でダラダラしている。

カフェオレ飲んで窓の外を見ると死にたくなるからだ。

スマホを開けてすぐに閉じる


―もうそろそろそちらに着きます。駅前にコーヒ―屋があるみたいだしそこで待ち合わせしましょう―


僕の一つ上の雪空さんは待たされるのが嫌いな人だ。

一分ごとにヘイト値が十パーセントずつアップしていく。

もう少しだらだらしたいところだけど・・・・くそう!



駅前のコーヒー屋に着くと、、、ヘイト値が200パーセントアップした雪空さんがツンと頬を膨らませていた。

雪をばばっとあらかた払うと彼女の座っている席に着いた。


「ごめん雪空さん!」

「・・・・・(つーん)」


長くしっとりとした黒髪

線の細いおっとり美人の彼女は基本優しいけどマナーに関してだけは異常にうるさい。

特に待たされるのが嫌いだ。

ちなみに彼女の中では待ち合わせの時は男性は十分前に来ておくみたいなマナーがある


「お客様、、、ご注文をうかがってもよろしいですか?」

「あ、はい!・・・雪空さん、何か頼んだ?」

「・・・・・・・・(つーん)」

「雪空さん?」

「私が英治が来てないのに先に注文しちゃうような人だって思ってるんだ・・・」

「・・・・(しまった、雪空さんはそういう人だった!)・・・・じゃ、じゃあ何かいる?奢るよ?」

「年下に奢ってもらうなんてしません!・・・カフェオレ一つ」

「じゃ、じゃあ僕はか、、、抹茶オレと本日のケーキ二つ」

「はい、かしこまりました・・・・(彼氏さん、頑張って下さいね)・・・」


・・・余計な気を回してくれたのかウエイトレスさんは俺にそう囁くと厨房へと行ってしまった。

雪空さんは僕を未だにジト目で見てきている。


「雪空さん、、、一応言い訳していいかな?」

「はあ、、、、どうぞ」

「バスで来るつもりだったんだけど、この雪でさ・・・仕方なく原付で来たんだけど道が悪路だから時間かかっちゃって」

「はあ、、、口にカフェオレの跡が残ってるのは何でですか?」

「え・・・」


口をナプキンで慌てて拭く・・・とそこで雪空さんは僕の両頬をぐいぐい引っ張ってくる


「え~い~じ~く~ん?」

「ほへんひゃはい・・・」


雪空さんはそのまま罰のつもりなのかウェイトレスさんが置いてった温かいお絞りでぐいぐいと僕の顔を拭ってきた。

視界が真っ暗の中彼女の呆れたような声が聞こえる。


「遅れるなら連絡してくれたらいいのに」

「原付乗りながらだと携帯取れないし・・・それに一刻も早く着きたかったから」

「そう・・・許してあげる」


ようやく解放された。

僕は取り敢えずほっと溜息をつく。

ちょうどいい所にウェイトレスさんが注文した品物を持ってきてくれた。

机の上に本日のケーキ二つとカフェオレと抹茶オレとピザが並ぶ・・・あれ?


「あの、、、ピザ頼みましたっけ?」

「店長からのサービスです!」

「・・・そっすか」


ウェイトレスさんはニコッと笑うとそのままさっさと行ってしまう。

こんなことして大丈夫なのだろうか・・・他のお客さん見てないだろうな?

辺りを見渡してみると僕たち以外お客がいなかった。

・・・店長さんも暇だったんだろうな


「雪空さん、何か食べた?」

「いえ」

「じゃあ有り難くいただこうか」


ピザをナイフでさっさと切って小皿に取り分ける。

バイトがそういう気配りが無いと駄目なお店だから自然と出来るようになった。

・・・と、また雪空さんがジト目になっていた。


「ど、、、どしたの、雪空さん」

「女の子慣れしてる」


ぎく


「そそそ、そんなことないよ!」

「首に口紅の跡ついてる」

「流石に騙されないよ!」


雪空さんはふーんと言うとピザを食べながらうっとおしい口調で話し始めた


「英治は変わったよね。昔はあんなに真面目だったのに大学に行ったらいきなり頭を茶色に染めるし服もちゃらくなってさ・・・・正直好きじゃないなあ」

「友達付き合いとかあるんだよ」

「ふーん」


いやあ大学生で頭染めてないと寧ろ何なのコイツみたいな扱いだから

服装も昔みたいな地味な服着たらキモがられるし

・・・しょうがないと諦めて欲しい


「そういう雪空さんだって化粧してるじゃん。しかもそのバッグブランドものでしょ、昔はブランド物とか嫌いだったのに」

「大人の付き合いなの・・・それに男と女じゃお金の使い方が変わるの!」

「・・・理不尽だ」


雪空さんのことをここらで紹介しておこう。

まず彼女は僕の恋人ではない。

ウェイトレスさん、残念!


サービスしてくれた彼らには悪いが過去にも今にも未来にも

雪空さんとはそんな深いつながりは無い

むしろ友達とすらいえない。


雪空さんと初めて出会ったのは高校の部活紹介の時だった。

・・・出会ったじゃないか。

雪空さんを始めて見たのが部活動紹介の時か


当時彼女は二年生、僕は一年生

ミステリー研究会の部長が休みだという事で急きょ出ることになったらしい。

美人ではあったが抑揚のない声で淡々と紹介する彼女を見てこの部活は無いな・・・と僕は思った。

そしてすぐに興味を失った。


次に彼女に会ったのは今日と同じように雪がざらざらとうっとおしく降り積もる初雪の日だった。




「君には凶兆が見える」

「凶兆・・・そうですか?自分で言うのもなんですが平凡であることだけが自慢ですよ?」

「・・・・・・あなた変わってるわね」

「よく言われます」


幼馴染に誘われて僕が入ったのは生徒会だった。

基本的にやらされたのは雑用ばかりだったから生徒会だったと胸を張れるものではなかったけど

ミステリー研究会の扉を開き、彼女に会ったのも雑用が原因だった。

ストーブしかない空き教室でぼんやりと外を見ていた彼女は僕を気に入ったのかはたまた暇潰しのおもちゃにしようと思ったのかこっちへ来い来いと手招きしてきた。

壁に無造作に立てかけられたパイプいすを拝借して彼女の真向かいにストーブを挟んで座る


「ここにストーブで沸かした熱湯をたっぷり注ぎ込まれたヤカンがあるわ・・・何が飲みたい?」

「あ、じゃカフェオ「ごめんなさい、部員以外には白湯しか出さないことにしてるの」・・・じゃあ聞かないでください」

「その顔が見たかっただけよ」

「・・・うっわめんどくさい」


雪空さんは見た目は美人なくせにどうやら相当ねちっこい性格のようだ。

僕の呆れたような顔を見るとそれはそれは嬉しそうな顔で僕に紙コップを差し出してきた・・・中にはカフェオレが入っていた。


「・・・あんのかよとか思った?」

「ええ」

「カフェオレだけは気に入った人にはあげてもいいことにしたわ」

「流石ミステリー研究会の次期部長・・・新しい会則ですか?」

「ええ・・・惜しむべくは部長がいなくなれば部員が私以外いないという事ね」


彼女はどうにかならないかしらと小首を傾げる。

まあ、、、何とかならないからこうなってるんだろうけどね。

僕は温かいカフェオレを一口含んだ・・・普通のカフェオレだった。


「ふう・・・なにしに来たの?」

「部員があなただけでは来年の部費が出ないという話です。確かしたはずですけど?」

「ああ、、、だからあなたに凶兆が見えるって言ったのね私。」

「凶兆ってあんたにとってのか・・・」

「あんたって言い方は好きじゃないわ」


彼女はぐいぐいといきなり頬を引っ張って来た。

思わずびっくりして飛び退くと、彼女はムッとした顔で偉そうに語り始める。


「人と話すときにあんたって言われたら人ってどう思うと思う?」

「そりゃあ・・・イラッとくるんじゃないですか?」

「ちがうわ・・・俺はお前の旦那かよっ!って思うの」

「それは雪空さんだけじゃ・・・」

「口答えする男は嫌いよ」

「へいへい・・・」

「へいへいって失礼じゃないかしら?」

「申し訳ないです!以降気をつけます!」


彼女は思えばこのころからマナーに関してはうるさい人だった。



「・・・人が話してるのにぼうっとされたらどう思うと思う?」

「んあ・・・・あっごめん!何の話だったっけ?」

「何を考えてたの?」

「高校時代のことだよ」


雪空さんはへぇと興味なさそうに返してきた。


「私の話より高校時代の頃の話の方が興味あるの?」

「いや、雪空さんは高校の時から既にめんどくさかったなって」

「英治はたまににこにこしながらどぎつい毒を吐くよね・・・」


雪空さんはそれも英治らしいかと溜息をつくと立ち上がった。


「さ、そろそろ行こうか」

「え?この雪の中本当に行くの?」

「もちろん」


外を見ると轟轟と霰がバチバチ窓に当たっている。

好き好んで外にでる天気ではない。

雪空さんは嫌がる僕を見て笑顔を輝かせると、さっさと会計を済ませに行った。





きっかけは部費獲得のためにミステリー関係の実績をあげることが目的だった。

しかしそんなことをしているうちにいつの間にか連続暴漢事件に関わってしまった。

けど本当に一番の問題は彼女の凍り付いていた欲がそこで解放されてしまったことだった。


ああ、この人の凶兆はなんて綺麗なんだろう

雪空さんは人間の不幸を見ると性的に興奮する人だった。

どんなに寒い日でも凶兆を見た瞬間頬を赤らめ股をもじもじさせるし、雌の匂いがぶわっと沸き立つ。


高校時代に同じ部活でもないのに彼女に連れ回された回数五百七十四回

そのうち刑事事件に巻き込まれた回数三百七回

彼女が無性に行きたいと思った場所では必ず人の不幸が起こる。


雪空さんはそれをあら偶然ねといつもそれを喜ぶが青い制服のお巡りさんと僕は一時期こいつが裏で手を引いてるんじゃねえの?と疑ったものだ。


彼女は凶兆を感じると何か感じるらしく、直ぐに感じる大元へと動き出す。

大学が違うのにわざわざ雪道我慢してまで今日ここに来ているのもそれが理由だ。

どうやら凶兆をわざわざ大学まで違う僕に感じとったらしい。


「・・・で、どこに行くの?」

「感じるままに!何かあなたの近くで素晴らしいことがおきる気がするの!」


いろんな意味で面倒臭い彼女であるが僕から彼女と縁を切ろうと思ったことはない

・・・片想いだからとかからかわれたこともあったが断じて違う。

彼女の感じる凶兆は小さい不幸から大きな不幸まで

部費削減から殺人事件までほぼその場に行かなければわからない

一度だけ彼女が一人で凶兆を探しにいったら暴漢に襲われてしまい頭部五針の重症をおってしまうことがあったので放っておけないだけだ。


「・・・ん?」

「どしたの、雪空さん?」


彼女は何か気づいたのか立ち止まった。

店から出ようとするほんの前の瞬間だった。

彼女は残念そうにため息をつくととぼとぼと返事をすることなく席に座った。


「君に出てた凶兆の意味がわかっちゃった」

「・・・へ?」


店員、店長、僕が何言ってんのこの人と可哀想な目で見つめると彼女は、ん。と窓の外を指差した。

なんだなんだと外を見てると一人の中年の男性が雪が積もった原付をちゃっちゃといじって公道に飛び出していった。


「あれがどうしたの?」

「英治はここまで何で来たの?」

「原付だけど・・・・え?」


あわてて窓にへばりついて外を見る。

置いたはずの場所にも空に浮かんですらもいなかった。

・・・原付盗まれたあ!?


「ちょ、なんで!?」

「多分鍵落としてたんでしょ?それを拾ったあのおじさんがバス待っても来ないし乗っちゃうかって」

「いやいや気づいてたなら言ってよ!?・・・雪空さん?」

「・・・んっ・・・気持ちいい」


総額八万の不幸はマッサージぐらいの効能があったのか彼女はふるふると震えながら体を抱きしめた。

長い髪が頬にかかって少し色っぽい。

・・・そうじゃなくて!


「てか、雪空さんが来なかったら僕の原付は盗まれなかったってことじゃないか!?」

「そうね・・・最高・・・」

「ふざけんなこの疫病神!」

「ひどいなあ・・・久しぶりに会ったのに・・・」

「ああもう、、、」


どうやら外に出る必要がなくなったので再び席に着く。

ウェイトレスさんが元気出してください、これ店長から・・・とまたピザを出してきた。

何?ピザ有り余ってんのこの店?


「まあまあ元気出して・・・ね?」

「そんなにいい笑顔で言われても腹しか立たないですよ」


人の不幸で気持ちよくなる雪空さんは不幸を見るためならこんな風に犯罪を見逃すときがある。

彼女がそんなんだから僕が事件を解決しようと善意で動き回ること156回

しっちゃかめっちゃかに事件を自分の性癖のためにややこしくする彼女を放っておくことをできない

・・・だから僕は自分の損になるとわかっていてもわざわざ彼女と会う


「元気出して、、、まだまだ今日は終わらないんだから」

「はい?」

「あの男の人にも凶兆が見えたから」


ドカンと何かが爆発する巨大な音がした。


「あっ・・・・んっ・・・・ああ・・・」


雪空さんがここまで感じてるのを見たのは久しぶりだ。

彼女の腕は机の下でもぞもぞ動いている。

・・・何が起こったんだ?


外に出ると僕と同じように野次馬根性全開の人たちが煙が上がる方へと向かう。

見つけるのは簡単だった。

セルフのガソリンスタンドに突っ込んだみたいで引火したのか雪で真っ白の景色の中でも真っ黒な煙がよく目立った。


「うわああああああああああっ!」

「・・・?」


ガソリンスタンドの店員らしき人がなんか驚いて腰を抜かしていた。


「どうしたんですか!?」

「飛び込んできた原付のドライバーが・・・首が・・・」


店員が指差すものを僕は見て、、、目を疑った。

僕から原付を盗んだ中年の男なのは間違いない。

服装が一緒だし、転がっているフルフェイスのヘルメットは僕のものだし


でもあるはずのものがなかった

胴体にもヘルメットの中にも

・・・・・・・・頭部がすっぽりとなかった。


「ああ、、、、凶兆が見える、、、、うふふふふふ」

「雪空さん・・・・・」


いつの間にか僕の隣に立っていた雪空さんはこれから連続して起こる不幸を予感してか体からメスのにおいを湧き立たせ、股をもじもじさせる。

口からは一筋よだれまでたらしてる・・・本当にこの人は!



これがいわゆる推理ものなら犯人と僕の推理対決でもあり、捜査を邪魔する雪空さんと僕との戦いでもある。

これは名探偵が自分の性癖のために捜査をしないから凡人が名探偵の仮面をかぶらざるを得なくなった可哀想な大学生の話・・・そのプロローグである。

ついでに言うなら高校時代からさせられてたことをまたさせられることになる大学生のお話。

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