《聞く》と《聴く》では大違い
序盤は予約投稿で落としていきます。
さて。
ウサギの手からステッキを剥ぎ取り、正座させたまではいいのだが。
「まぁ、死んじゃったのは500歩譲って仕方ないとして。ならば転生、ってのもそこそこ解るけれども。何がどうなっていきなり勇者なのか、きっちり説明してもらいましょうか?」
「う、うぅ……こ、こんなか弱く可愛らしいウサギをこんな目に遇わせるなんて、理不尽ですぅ……!」
ほう、理不尽とな。
アタシには可愛らしいどころか、こっちの質問に何一つ答えず涙目うるうるしかしない割に、その目はきっちりステッキ奪還を狙ってる抜け目無いクソウサギにしか見えないのだが?
そもそもコイツ、 某お父さんをパイにされちゃった子ウサギよろしく二足歩行がデフォらしいが。本物のウサギが二足歩行というか後ろ足で立つのは、何かを警戒している仕草の筈だ。
「どうせアタシ以外見てもいないから、そのか弱いアピール止めてくんないかな。女とはいえ人間と鍔迫り合いできるウサギのどこがひ弱なんだよ。話が進みやしねぇ。」
「うぅ……だって、だってー……」
「だっても何もねーっての。」
しっかし、勇者ねぇ……。
「……これアレか? ネットやラノベで近年ちょこちょこ見る、異世界転生ってヤツか?」
「!!! そうなんですよ!!!」
おっと、いきなり瞳が輝きだした。
「非業の死を迎えたと思いきや、異世界の勇者としてチート能力持ちで転生ですよ? すごいでしょー、カッコいいでしょー?」
しかしコイツの目、どっかで見たことがあるな……。
「普段ならせいぜい聖属性の適正くらいしか付かないのですが、実は今転生キャンペーン月間でして。」
……あ、思い出した。
「その特典として、ななな、なんとっ! 全属性の適正に加えて精霊の加護と全生産系スキルの才能までプレゼント! さぁ、今すぐ転生を……ぷぎゃっ!」
「するワケねぇだろクソボケが。ノルマ消化できずに手当たり次第強引に契約迫るセールスみたいな目ぇしやがって。」
言っておくが、今このウサギを踏み付けたのも不可抗力だ。
コイツ、また旨い話で場を濁しながらどさくさに紛れてステッキ取り戻そうとしてんだもん。油断も隙もありゃしねぇ。
「せ、せめてちょっと話を聴いてくれてもいいんじゃ……ぐえぇ。」
「聞いてる聞いてる、充っ分聞いてる。聞いてるがその前に、こっちの質問にも答えようか?」
ぐりぐりうりうり。
段々爪先に感じる背骨らしき感触が愉しくなってくる。
「ソレ、ボクと貴女で聴くの字が違いますよ!? 貴女の態度は|聞く(hear)、ボクが求めてるのは|聴く(listen)! 解りますこの違い!?」
「あーはいはい。解るも何も、こっちが求めてる|答え(answer)をお前がちっとも聴こうとしないから、こっちもリッスンしてねぇだけだから。話を聴いてほしけりゃマニュアル一辺倒の良いトコ推しだけでなくちったぁ誠実なトコ見せろやこのスカトロ生命体がぁ!」
「ぷ、ぷぎゅうぅぅぅ……!」
しつこく手を伸ばそうとするウサギに、今度は顔面を踏みつけた。
「う、ウサギの生態にケチ付けるような言動に、動物虐待に……そんな貴女はやっぱり勇者としての善行を積む事でその魂の格を、がはっ。」
「お前、懲りるって言葉知ってる?」
往生際悪く逃れようとするウサギが足の下でのたうち回るのを、今度は腹を踏みつけて止めさせた。
虐待、ってのはこの状況に適さないっつーか。そもそもアタシがこのウサギに理不尽な拉致監禁を受けてる現状なのですが、コレもアタシが虐待してるって言うの? 教えてエロい人!
聞く(hear):全般的に使われるが、特に区別をするなら受動的表現。相手が何か話してるのが聞こえる、教室がざわついてるのが聞こえる、など聞き手の意思に関わらず耳に入ってくるような場合に使う。
聴く(listen):能動的表現。相手の話を聞く、教室の雑談だらけのノイズから担任の声を聞き取る、など聞き手が意思を持って何かを聞き取ろうとする場合に使う。
と覚えてたけど、いずれにせよこのウサギには言葉が通じてなさそうな気はする。