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ー第8面プレイヤー山際正義



ー第8面 プレイヤー山際 正義



山際 厚が名古屋から豊橋の自宅に車で帰りついたのは午前2時を廻っていた。

ほとんど家に帰らない山際だが、妻と高校生の息子と中学生の娘がいる。

山際は自宅の庭に作業用の小屋を建てている。この部屋は取材の資料庫になっていて、行き詰まった時や記事をまとめる際に作業する。取材の90%は記事にならない。残り10%の内5%は編集者が自己保身や新聞社ないし出版社のリスクを考えると掲載されない。残り5%は家族と自分の為に必ず掲載される記事だ。

山際は息子の正義まさよしに、この作業小屋のスペアキーを渡していた。ジャーナリストになりたいと言われたその日に、山際はこう言った。

「この部屋の資料は全部見ていい。ただし、その内容をしゃべりたければ記事にして父さんに見せろ。父さんが記事を受け取ったらしゃべっていい。」

帰る度に原稿が山際を待っていた。まだ一つも受け取れずに、ダメだと言って正義に戻していた。

車を降りると作業小屋の明かりがついていた。山際は携帯で息子の番号をコールした。

「…父さんだ。入り口を開けてくれ。」

必ずドアはロックして山際と正義以外を入れないと言うのが、この作業小屋のルールだった。山際は作業小屋に入った。正義は机の上に資料を広げていた。

「仕事するの?。すぐ片付けるよ。」

「いや。パソコンのマイクを取りに来ただけだ。続けていい。」

山際はパソコン関係のソフトや機材が載っているスチール棚に音声入力のマイクとケーブルを見つけた。

「何やるの?。」

「アパートから中身ごとさらわれた男のニュースは知ってるか?。」

「知ってるよ。テレビで見た。」

「その男が作ったオンラインゲームにエントリーする。」

「ゲームで何が判るの?。」

「世界中からリアルタイムでエントリーが続いているらしい。もしかしたら事件の関係者もエントリーしているかもしれない。このマイクでプレイヤーどうしも会話できるらしい。取材にはうってつけだ。歩かなくて済む。」

「父さん。僕も2時間くらい前にエントリーしてみたよ。」

「ほう…。少しはジャーナリストらしくなってきたじゃないか。で?。何かつかめたか?。」

「能登島さんに会ったよ。話しもした。」

「続けて…。」

無意識に山際はメモ帳を取り出していた。

「僕が山際厚の息子だって言ったら、話しをしたいって言ってた。ゲーム内のJR浅草橋駅西口の改札で3日後の8月24日午後2時に会えれば会いたいと。ただし父さんに携帯や加入電話で連絡はするなって。それ以外で連絡がつかなければ、別の機会をつくるって。」

「能登島の様子から何か感じた事はあるか?。」

山際はメモをとりながら、正義に自分の血が流れている事を確信した。

「…。何かを恐れてる感じがした。どうしていいのかわからないみたいな。でも…何か成し遂げようって感じはした。」

「完全に誰かのロボットになってないって事か?。」

「そう。協力してくれる人を欲しがってたみたい。」

「その能登島はCGだろ?。表情もあるのか?。」

「音声入力中に、自分のCGにいろんな仕草や表情を付ける事ができるんだよ。マウスを使って。顔は携帯のカメラをつないで、そのまま自分の顔を入れられるんだ。」

「…なるほど。でっ、能登島は父さんを知ってるんだな?。」

「イラクの記事を読んだって。あれは父さんの写真もあったから判るって。」

「よし。今のを記事にまとめてみろ。うまく書けたら父さんが使わせてもらう。」

正義は山際を見て目を輝かせた。

「すごいや。書くよ。」

正義は原稿用紙を机の上に広げて書き始めた。山際はウデのいい助手を見つけたと思いながら、能登島との取材に備えなければならない事を考えた。彼はどの程度の自由を持っているか?。そしてアクセスをする場所はどこにするか?。

新幹線だな。

グリーン車にはコンセントがある。命がけだが、体は快適な取材になりそうだった。



ー第9面につづく





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